質問者:
その他
中西康夫
登録番号2972
登録日:2013-10-20
私は浸透圧が自然界における様々な現象にどのように関連しているかに興味を持っています。新聞紙上や有名な植物生理学者のホームページにはデンプンの分解が直接関連しているとの説明がありますが、そのことに関する直接の実験データを見つけることができません。ある植物生理学者に聞きますとその説は、どちらかといえば伝説的なものでデータを探し出すことは難しいと言われます。みんなのひろば
アサガオの開花とデンプンの分解は直接関係するか?
本日私はこの質問コーナーに質問いたしましたが、質問の仕方が下手だったのか「開花に必要なデンプンはいつ作られどこに貯蔵されているか?」との質問と間違えられたように思います。私の質問の真意は「開花という限定的な局面においてデンプンがどう利用されているか? デンプンが必要だとして、デンプンの分解が必要なのかどうか?」という点です。これに関するデータがあればお教えいただきたいのです。よろしくお願いいたします。
中西康夫 さん:
みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物の浸透圧調節は、植物生理現象のいろいろな局面で見られますが、植物種、細胞型、現象の種類などによって浸透圧調節物質は異なります。ご質問は「アサガオ」の開花時と特定されていますが開花そのものについての研究が少ないので、花卉園芸の立場から開花を研究されている中部大学の山田邦夫先生に解答をお願いいたしました。
アサガオについては、参照されていると推定される「アサガオの生理」の管理者でもあり、開花生理を専門とされている新潟大学の和田清俊先生から追記のようなコメントを頂きました。
アサガオの開花は中肋内側の特定の細胞群の形態的変化が浸透圧応答に関係しているとする論文はあります。ご質問と直接関係するものではありませんがご参考までに
http://link.springer.com/article/10.1007/BF01279588
また、高校生の研究ですが次のサイトはサツキの開花についてそれなりの結果を提示しています。ご参考になるかと思います。
http://www.toray.co.jp/tsf/rika/pdf/h24_03.pdf
【山田邦夫先生の回答】
私は、園芸学的観点から主にバラの開花機構の研究をしております。ご存じの通り、一般に「開花」と言いますと2つの現象が考えられます。一つはチューリップで見られるような昼と夜とで開閉を繰り返す現象で、他方、バラなどはつぼみから徐々に花弁が成長してくる現象です。おそらくご質問の件は、後者であると思われます。この場合の「開花」は花弁細胞の急激な肥大成長によるものです。つぼみの細胞が吸水して肥大成長するには、細胞内(液胞内)に浸透圧の原因物質が蓄積することと、細胞壁のゆるみが起こること、さらに細胞内への水流入に関わるアクアポリンが機能すること、が必要です。今回は「デンプンの分解が直接関係するか?」というご質問ですので、浸透圧に関係する現象についてです。この「デンプンの貢献度」は花き園芸学に携わる研究者の間でも意見が分かれております。確かに、バラはつぼみの小さい段階(堅いつぼみ)では、花弁細胞内にデンプンを比較的多く蓄積しており、開花とともにその量は減少し、代わってヘキソース(グルコースやフルクトース)が蓄積してきます。このことを根拠に、開花時にはデンプンを分解しヘキソース蓄積量を増やすことで浸透圧を変化させていると考えられています。
一方、バラ開花時におけるヘキソースの増加量は、つぼみに存在するデンプンの減少分だけでは説明できないとする研究者もおります。開花時の花弁には相当量のヘキソースが蓄積してきます。これは光合成産物のスクロースが花弁に転流し、花弁細胞内でインベルターゼなどの酵素によってヘキソースに分解されて蓄積しているものと思われます。実際、バラ開花時には花弁中のインベルターゼ活性は急激に上昇しています。開花にはデンプンの分解と転流糖の両方が寄与しているのは確かですが、デンプン分解の貢献度の方が高いのか、転流糖の貢献度の方が高いのかは、おそらく同じバラであっても品種間による差があるのだと思われます。ですので、花の種類によって、つぼみにどの程度デンプンが蓄積していて、開花時にヘキソース含量がどれほど上昇するかを詳細に検討しないと、貢献割合については議論できないかもしれません。
バラの切り花では、小さなつぼみで収穫してしまうと花瓶に生けておいても余り開花しないのですが、その生け水にスクロースやグルコースを添加すると大きく開花します。これは、つぼみに存在しているデンプンの分解だけでは不十分で、花弁細胞の外から糖を供給しないと十分には開花しないことを示しています。ただし、収穫するつぼみの成長段階や、品種によっては一概に言えない面もあります。
山田 邦夫(中部大学 応用生物学部)
【和田清俊先生のコメント】
開花についての研究は本当に少なく、まとまった仕事は貝原純子さんのアサガオと斉藤美知さんのオオマツヨイグサくらいしか無いように思います。貝原さんのアサガオの仕事は光・温度・時計とABAの働きに関するもので、細胞内のことは見ていません。「でん粉の分解による糖の蓄積」による開花の話は甲南大学の田仲修さんがサツキの仲間でやったものだと思います。細胞内のデンプン粒の消長を連続的に写した写真を見た覚えがありますので、論文になっているとは思いますが、私の手許では見つかりませんでした。田中さんはアサガオではやっていないはずです。このような次第で、私の知る限りでは、アサガオでの開花におけるデンプンの役割は何も分かっていないと思います。質問者に納得して貰える情報は残念ながら無いと思います。
和田 清俊(新潟大学 理学部)
みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物の浸透圧調節は、植物生理現象のいろいろな局面で見られますが、植物種、細胞型、現象の種類などによって浸透圧調節物質は異なります。ご質問は「アサガオ」の開花時と特定されていますが開花そのものについての研究が少ないので、花卉園芸の立場から開花を研究されている中部大学の山田邦夫先生に解答をお願いいたしました。
アサガオについては、参照されていると推定される「アサガオの生理」の管理者でもあり、開花生理を専門とされている新潟大学の和田清俊先生から追記のようなコメントを頂きました。
アサガオの開花は中肋内側の特定の細胞群の形態的変化が浸透圧応答に関係しているとする論文はあります。ご質問と直接関係するものではありませんがご参考までに
http://link.springer.com/article/10.1007/BF01279588
また、高校生の研究ですが次のサイトはサツキの開花についてそれなりの結果を提示しています。ご参考になるかと思います。
http://www.toray.co.jp/tsf/rika/pdf/h24_03.pdf
【山田邦夫先生の回答】
私は、園芸学的観点から主にバラの開花機構の研究をしております。ご存じの通り、一般に「開花」と言いますと2つの現象が考えられます。一つはチューリップで見られるような昼と夜とで開閉を繰り返す現象で、他方、バラなどはつぼみから徐々に花弁が成長してくる現象です。おそらくご質問の件は、後者であると思われます。この場合の「開花」は花弁細胞の急激な肥大成長によるものです。つぼみの細胞が吸水して肥大成長するには、細胞内(液胞内)に浸透圧の原因物質が蓄積することと、細胞壁のゆるみが起こること、さらに細胞内への水流入に関わるアクアポリンが機能すること、が必要です。今回は「デンプンの分解が直接関係するか?」というご質問ですので、浸透圧に関係する現象についてです。この「デンプンの貢献度」は花き園芸学に携わる研究者の間でも意見が分かれております。確かに、バラはつぼみの小さい段階(堅いつぼみ)では、花弁細胞内にデンプンを比較的多く蓄積しており、開花とともにその量は減少し、代わってヘキソース(グルコースやフルクトース)が蓄積してきます。このことを根拠に、開花時にはデンプンを分解しヘキソース蓄積量を増やすことで浸透圧を変化させていると考えられています。
一方、バラ開花時におけるヘキソースの増加量は、つぼみに存在するデンプンの減少分だけでは説明できないとする研究者もおります。開花時の花弁には相当量のヘキソースが蓄積してきます。これは光合成産物のスクロースが花弁に転流し、花弁細胞内でインベルターゼなどの酵素によってヘキソースに分解されて蓄積しているものと思われます。実際、バラ開花時には花弁中のインベルターゼ活性は急激に上昇しています。開花にはデンプンの分解と転流糖の両方が寄与しているのは確かですが、デンプン分解の貢献度の方が高いのか、転流糖の貢献度の方が高いのかは、おそらく同じバラであっても品種間による差があるのだと思われます。ですので、花の種類によって、つぼみにどの程度デンプンが蓄積していて、開花時にヘキソース含量がどれほど上昇するかを詳細に検討しないと、貢献割合については議論できないかもしれません。
バラの切り花では、小さなつぼみで収穫してしまうと花瓶に生けておいても余り開花しないのですが、その生け水にスクロースやグルコースを添加すると大きく開花します。これは、つぼみに存在しているデンプンの分解だけでは不十分で、花弁細胞の外から糖を供給しないと十分には開花しないことを示しています。ただし、収穫するつぼみの成長段階や、品種によっては一概に言えない面もあります。
山田 邦夫(中部大学 応用生物学部)
【和田清俊先生のコメント】
開花についての研究は本当に少なく、まとまった仕事は貝原純子さんのアサガオと斉藤美知さんのオオマツヨイグサくらいしか無いように思います。貝原さんのアサガオの仕事は光・温度・時計とABAの働きに関するもので、細胞内のことは見ていません。「でん粉の分解による糖の蓄積」による開花の話は甲南大学の田仲修さんがサツキの仲間でやったものだと思います。細胞内のデンプン粒の消長を連続的に写した写真を見た覚えがありますので、論文になっているとは思いますが、私の手許では見つかりませんでした。田中さんはアサガオではやっていないはずです。このような次第で、私の知る限りでは、アサガオでの開花におけるデンプンの役割は何も分かっていないと思います。質問者に納得して貰える情報は残念ながら無いと思います。
和田 清俊(新潟大学 理学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-10-28
今関 英雅
回答日:2013-10-28