一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光による花粉管の伸長抑制について

質問者:   教員   サルスベリ
登録番号2973   登録日:2013-10-21
初めてお尋ねいたします。どうぞよろしくお願いします。
昨年、科学部の活動でサルスベリの2種類の雄しべの花粉について、寒天培地を用いて花粉管の発芽率、伸長速度、糖度について調べました。結果、長い雄しべの花粉のほうが発芽率、伸長速度ともに大きく、糖度については短い雄しべの花粉が高いという結果が得られました。今年度はこの長い雄しべの花粉を使って、花粉管伸長に光がどのように影響するのか、また影響するならどの波長の光なのかというテーマで研究しました。結果、明所のほうが暗所よりも伸長が抑制されました。またどの波長が抑制しているか明らかにするために写真撮影用フィルター(赤・緑・青)を使って調べたところ、赤と青に抑制効果が見られました。緑については暗所と変わらず抑制効果が見られませんでした。
そこで、お尋ねですが、花粉管伸長にもフィトクロムやクリプトクロムのような光受容体が関係しているのでしょうか。花粉管伸長と光の関係について、何か文献がありましたら、ぜひ教えていただけないでしょうか。
サルスベリ 様

本コーナーに質問をお寄せくださりありがとうございます。 興味深い研究に取り組まれているようですね。

花粉管の伸長に及ぼす光の影響について書かれた論文はあるようですが、この問題にはまだ決着がついていないように見えます。本回答では、植物の受精の仕組みを解析されている東山哲也先生(名古屋大学)、プラスチドの分化について解析されている坂本亘先生(岡山大学)、光形態形成や葉緑体光定位運動のメカニズムの解析を進められている和田正三先生(九州大学)の三人の研究者からコメントを頂戴し、また、関連する論文(参考文献)を教えていただきました。ご参考にして下さい。

なお、実験に当たっては、①後でも述べられるように、光源からの熱の影響が排除されていること、②異なる波長領域の光の影響を比較するに際し、光強度が飽和しておらず、放射計(ラジオメーター)などを用いて測定される同じ光強度で比較がされる必要があることにご留意ください。

本コーナーには花粉管の伸長に関するQ/Aが数多く掲載されておりますので、そちらの方もご参照ください。




(東山先生からのコメント)

『顕微鏡で観察する時のような強い光では様々な阻害も見られますが、厳密に光と温度を区別したりして研究した例はほとんどないものと思います。花粉管の伸長は温度に大きく影響されますので、光と温度を区別して研究する必要があります。・・・(中略)・・・あらためて文献を見てみますと幾つか引っかかってはくるようですが、添付の文献(文献4)あたりが、比較的しっかりとした内容の論文と思います。イントロダクションを見ますと、柱頭での花粉管のガイダンスと光の関係が議論されているようで、この論文では光がない暗黒条件でもガイドは正常に起こるという結果が報告されています。たしかに、暗闇でも植物の受精は正常に起こりますし、一般に花粉管伸長やガイダンスに光が働いているという意識は研究者にはないと思います。』



(坂本先生からのコメント)

『花粉のプラスチドは、アミロプラストのようにデンプンを貯めていたり、油脂を貯めているものが多く、葉緑体にはなっていないように思えます。私たちをはじめ多くの研究では、精細胞にはプラスチドが存在しない植物種が多いので、精細胞では光受容体、光合成色素の存在は否定できると思います(もちろん例外はあるかもしれませんが)。花粉発芽ではカルシウムシグナル系や花粉管の伸長では膜輸送系の重要性などがわかってきていますが、未解決の問題が多いところです。ご質問の光の影響、というのはよくわかっていないと思いますが、正直、面白いと思いました。花粉管の伸長に及ぼす光の影響について報告する論文として文献1が挙げられます。』



(和田先生からのコメント)

『花粉管の伸長に光が関与しているという話を聞いたことはありません。そこでPubMedで検索しました。添付の論文(文献2と3)が見つかりましたが、どれだけ信用してよいのか疑問です。我々の見解は「まともな論文は無いので、シロイヌナズナの野生型で実際に光の影響を調べてみる。もし波長による影響が見られたら、その結果から考えられるフィトクロムまたはクリプトクロムの変異体を使用してその受容体の関与を解析する」のが良い、ということです。しかし、ご質問の方の興味がサルスベリにあるのでしたら、シロイヌナズナの実験はされたくないでしょう。その場合にはサルスベリのフィトクロムやクリプトクロムの関与を調べることはできませんので、生理学的実験から、関与する光受容体を類推するところまでしかできないでしょう。』



-参考文献-

(1) A. W. Campbell et al., (2001) The importance of light intensity forpollen tube growth and embryo survival in wheat x maize cross. Annals ofBotany 87: 517-522.
(2) C .V. Jha et al., (2011) Effects of the lights of different spectralcomposition on in vitro pollen germination and tube growth in Peltophorumpterocarpum (DC.) Baker Ex. Heyne. Life sciences Leaflets 12: 396-402.
(3) C .V. Jha et al., (2011) Effects of the lights of different spectralcomposition on in vitro pollen germination and tube growth in Cleomegynandra L. Life sciences Leaflets 12: 403-409.
(4) W. M. Lush et al., (1998) Directional guidance of Nicotiana alatapollen tubes in vitro and on the stigma. Plant Physiology 118: 733-741.

東山 哲也(名古屋大学)
坂本 亘(岡山大学)
和田 正三(九州大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2013-10-28
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