質問者:
大学生
チーズケーキ
登録番号2985
登録日:2013-11-06
ダイコンを大根おろしなどにして食べると辛みが感じられますが、根の先の方と葉に近い方では辛さが違いといいます。辛み成分の含有量に偏りがあるからと思いますが、何故そのような偏りが起きるのでしょうか?
ダイコンの辛さ
チーズケーキ様
質問コーナーへようこそ.歓迎いたします。下記のご質問にたいして、ダイコンの辛味関係の研究をなさっている、静岡大学グリーン科学技術研究所の原 正和教授にお願いして回答をまとめていただきましたので、お届けします。
ご質問、ありがとうございました。
まず、ダイコンの辛味成分についてお話します。ダイコンの辛味成分は、イソチオシアネート(辛子油)といいます。イソチオシアネートは、天然に100種類以上あると言われていますが、ダイコンには、そのうちの数種類が含まれています。中でも、4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートは、ダイコンの主要なイソチオシアネートです。ダイコンおろしの独特の辛味は、この成分によります。とはいえ、ご質問の本題から外れますので、ここからは、ただ単に、イソチオシアネートとします。
さて、ダイコンをすりおろすと、イソチオシアネートが発生し、辛味を感じますね、しかし、すりおろす前のダイコンはどうでしょうか?強い辛味は感じられません。これは、ダイコンは、すりおろされて初めてイソチオシアネートを発生するからです。すりおろす前のダイコンには、イソチオシアネートの元になるグルコシノレート(辛子油配糖体)という成分が含まれています。この成分自体に辛味はありません。一方、ダイコンは、ミロシナーゼという酵素をもっています。この酵素は、グルコシノレートをイソチオシアネートへ変化させる働きを持ちます。しかし、なぜ、ダイコンに、グルコシノレートとミロシナーゼの両方が存在するのに、常に辛味が発生しないのか?という疑問が生じます。これは、グルコシノレートとミロシナーゼが、植物の中で別々の場所に存在するため、両者は出会うことがなく、反応は最小限にとどまっています。ダイコンがすりおろされて均一化されますと、グルコシノレートとミロシナーゼは、互いに接触して酵素反応が起き、イソチオシアネートが発生します。このような仕組みは、アブラナ科植物に広く認められ、ワサビやマスタードシードの辛味の発生もこの原理によります。
ここで、ご質問の本質に入ります。ダイコンの部位による辛味発生の違いは、原理的には、グルコシノレートの含量とミロシナーゼの活性によって決定されます。ただし、ダイコンでは、ミロシナーゼの活性は、不可欠ではあるが比較的十分存在するため、グルコシノレート含量の方がイソチオシアネート発生量を決定する傾向にあります。とはいえ、両者は共に、イソチオシアネート発生量に影響することは間違いありません。ミロシナーゼは、ダイコンの皮のごく表面に少々と、維管束形成層付近に多く存在します(私たちはこの様子をミロシナーゼの二重掘構造と呼んでいます)。ダイコンの形成層は、ダイコンを輪切りにしたときに、外周の内側にステッチのように規則正しいしわのようなものが見えるあの部分です。一方、グルコシノレートの分布は、シロイヌナズナのデータを参考にせざるを得ません。シロイヌナズナの栄養成長組織には、S細胞というグルコシノレートを蓄積する細胞があり、これが、内皮と師部の隙間に散在しています。シロイヌナズナのミロシナーゼは、主に師部付近に存在し、若干表皮にも観察されます。やはり両者は重なり合わないです。ダイコンのグルコシノレート分布も、同様と考えられます。
要は、グルコシノレートとミロシナーゼは、植物の通導組織に集中しているといえます。ダイコンを縦に切ったことはありますか?きれいな白い切り口に、透明度の低い白い筋が縦に走っています。これが、ダイコンの通導組織です。ポイントは、ダイコンの尻(ダイコンの下部がしぼまった付近)には、この通導組織が密集しているという点です。組織に占める通導組織の密度は、ダイコンの中間付近に比べると明らかに高いです。私はこのことが、ダイコンの尻をすりおろした時に辛味を強く感じる要因の一つと考えます。一方、頭(葉の付いている付近)にも、通導組織の集約は見られますが、柔組織の盛り上がりが見られ、密度がさほど高くないものが多いです。さらに、ダイコンの辛味の元になるタイプのイソチオシアネート(アリファティックイソチオシアネート)に関して言えば、主根(肥大根)に多いが、葉には少ない傾向があります。どうも、光合成組織への分化が、アリファティックイソチオシアネートの発生量を抑えるようです。ダイコンの頭の部分は緑色をしているものがあり(良く出回っている宮重系の青首ダイコンは顕著です)光合成が行われていると考えられます。従って、頭の部分は、辛味の発生が弱いのかもしれません。しかし、光合成とイソチオシアネート発生量との関連は、今後の研究が必要です。ダイコンは、十分に解明されていないことが多く、予測も含めて回答させていただきました。
原 正和 (静岡大学グリーン科学技術研究所)
質問コーナーへようこそ.歓迎いたします。下記のご質問にたいして、ダイコンの辛味関係の研究をなさっている、静岡大学グリーン科学技術研究所の原 正和教授にお願いして回答をまとめていただきましたので、お届けします。
ご質問、ありがとうございました。
まず、ダイコンの辛味成分についてお話します。ダイコンの辛味成分は、イソチオシアネート(辛子油)といいます。イソチオシアネートは、天然に100種類以上あると言われていますが、ダイコンには、そのうちの数種類が含まれています。中でも、4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートは、ダイコンの主要なイソチオシアネートです。ダイコンおろしの独特の辛味は、この成分によります。とはいえ、ご質問の本題から外れますので、ここからは、ただ単に、イソチオシアネートとします。
さて、ダイコンをすりおろすと、イソチオシアネートが発生し、辛味を感じますね、しかし、すりおろす前のダイコンはどうでしょうか?強い辛味は感じられません。これは、ダイコンは、すりおろされて初めてイソチオシアネートを発生するからです。すりおろす前のダイコンには、イソチオシアネートの元になるグルコシノレート(辛子油配糖体)という成分が含まれています。この成分自体に辛味はありません。一方、ダイコンは、ミロシナーゼという酵素をもっています。この酵素は、グルコシノレートをイソチオシアネートへ変化させる働きを持ちます。しかし、なぜ、ダイコンに、グルコシノレートとミロシナーゼの両方が存在するのに、常に辛味が発生しないのか?という疑問が生じます。これは、グルコシノレートとミロシナーゼが、植物の中で別々の場所に存在するため、両者は出会うことがなく、反応は最小限にとどまっています。ダイコンがすりおろされて均一化されますと、グルコシノレートとミロシナーゼは、互いに接触して酵素反応が起き、イソチオシアネートが発生します。このような仕組みは、アブラナ科植物に広く認められ、ワサビやマスタードシードの辛味の発生もこの原理によります。
ここで、ご質問の本質に入ります。ダイコンの部位による辛味発生の違いは、原理的には、グルコシノレートの含量とミロシナーゼの活性によって決定されます。ただし、ダイコンでは、ミロシナーゼの活性は、不可欠ではあるが比較的十分存在するため、グルコシノレート含量の方がイソチオシアネート発生量を決定する傾向にあります。とはいえ、両者は共に、イソチオシアネート発生量に影響することは間違いありません。ミロシナーゼは、ダイコンの皮のごく表面に少々と、維管束形成層付近に多く存在します(私たちはこの様子をミロシナーゼの二重掘構造と呼んでいます)。ダイコンの形成層は、ダイコンを輪切りにしたときに、外周の内側にステッチのように規則正しいしわのようなものが見えるあの部分です。一方、グルコシノレートの分布は、シロイヌナズナのデータを参考にせざるを得ません。シロイヌナズナの栄養成長組織には、S細胞というグルコシノレートを蓄積する細胞があり、これが、内皮と師部の隙間に散在しています。シロイヌナズナのミロシナーゼは、主に師部付近に存在し、若干表皮にも観察されます。やはり両者は重なり合わないです。ダイコンのグルコシノレート分布も、同様と考えられます。
要は、グルコシノレートとミロシナーゼは、植物の通導組織に集中しているといえます。ダイコンを縦に切ったことはありますか?きれいな白い切り口に、透明度の低い白い筋が縦に走っています。これが、ダイコンの通導組織です。ポイントは、ダイコンの尻(ダイコンの下部がしぼまった付近)には、この通導組織が密集しているという点です。組織に占める通導組織の密度は、ダイコンの中間付近に比べると明らかに高いです。私はこのことが、ダイコンの尻をすりおろした時に辛味を強く感じる要因の一つと考えます。一方、頭(葉の付いている付近)にも、通導組織の集約は見られますが、柔組織の盛り上がりが見られ、密度がさほど高くないものが多いです。さらに、ダイコンの辛味の元になるタイプのイソチオシアネート(アリファティックイソチオシアネート)に関して言えば、主根(肥大根)に多いが、葉には少ない傾向があります。どうも、光合成組織への分化が、アリファティックイソチオシアネートの発生量を抑えるようです。ダイコンの頭の部分は緑色をしているものがあり(良く出回っている宮重系の青首ダイコンは顕著です)光合成が行われていると考えられます。従って、頭の部分は、辛味の発生が弱いのかもしれません。しかし、光合成とイソチオシアネート発生量との関連は、今後の研究が必要です。ダイコンは、十分に解明されていないことが多く、予測も含めて回答させていただきました。
原 正和 (静岡大学グリーン科学技術研究所)
JSPPサイエンス・アドバイザー
勝見 允行
回答日:2013-11-27
勝見 允行
回答日:2013-11-27