一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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樹木が利用できる土壌水分ポテンシャル

質問者:   自営業   ととろう
登録番号2991   登録日:2013-11-17
いつも質問コーナーを楽しみにしています。

農業高校の教科書を見ていたら、土壌の水分ポテンシャルと植物の利用の関係が書かれており、15気圧を超えると永久しおれ点となり、植物はその水分を利用できないとなっていました。

一方で、こちらの質問コーナーを拝見すると、背が高い木では、木のてっぺんまで水分を吸い上げるために強い吸引圧を作り出しており、それを測定すると35気圧にもなると書かれていました。

もしそんなに高い吸引圧があるのであれば、もっとずっと水分ポテンシャルが低くても植物は土壌中の水分を利用できるのではないでしょうか?
ととろう様
 みんなのひろばへのご質問有り難うございました。
まず、ご質問の中の水ポテンシャルの表現方法に誤りがありますので、その点について書かせて貰います。水が高い所から低い所へと流れるのと同じように、土壌から根へ、根から葉への水の移動は、水ポテンシャルの高い方から、低い方へと行われます。土壌の水ポテンシャルが「15気圧を超えると」ではなく「-15気圧より下がると」永久しおれ点と云うように表現して下さい。さて根が水を吸う場合、根の表面の水の水ポテンシャルより、道管内水の水ポテンシャルのほうが低ければ、水は道管内に入って行きます。道管内の水の水ポテンシャルは蒸散により葉から水が失われた事によって生じた負圧によるもので、根の表面の水の水ポテンシャルには浸透ポテンシャルとマトリックポテンシャルが関係しています。マングローブなどのように根が海水中に浸かっている場合には、マトリックポテンシャルは関係なく、浸透ポテンシャルだけが関係しています。海水の浸透ポテンシャルは約-25気圧であり、道管内の水の浸透ポテンシャルは-1気圧から-2気圧なので、圧ポテンシャルが働いていなければ水は外に出て行ってしまいます。吸水する為には道管内の圧ポテンシャルが-25気圧より低くなければなりませんが、測ってみると昼間で-40気圧から-60気圧、夜間でも-30気圧から-40気圧で、水は道管内に入ることが出来ます。ととろうさんのお考えの通りです。土壌に根を張っている場合には少し状況が異なります。水が水ポテンシャルの高い方から低い方へと移動することには変わりはないのですが、土壌の場合、水ポテンシャルの主役は土壌粒子の隙間によるマトリックポテンシャルです。ここで、マトリックポテンシャルについて、ちょっとだけ触れておきます。顔を洗ってタオルで拭くと水は顔からタオルへと移動します。水は水ポテンシャルの高い方から低い方へと移動しますが、顔についていた水の水ポテンシャルは、ほぼ0気圧ですので、そこから水がタオルへと移動したと云うことは、タオルの水ポテンシャルがマイナスの値を持っていることを示しています。タオルの繊維の間の小さな隙間が水を引き寄せるのです。これと同じように土壌中の粒子の間の小さな隙間も水を引き寄せます。毛細管現象を思い出して下さい。小さな隙間が水を引き寄せることによって生じるのがマトリックポテンシャルです。さて、水が十分にある時は土壌の水ポテンンシャルは-0.1気圧から-0.3気圧くらいで、半径10マイクロメーターくらい以下の隙間に水が入っています。この状態から乾燥とか植物による吸水とかで水は減って行きます。土壌は均一な大きさの粒子で出来ていないので、隙間にも大きい隙間と小さい隙間がありますが、水は大きな隙間から失われて行きます。従って、水が減るにつれて残りの水はより小さな隙間にある水となり、ここから水を吸い上げるのには大きな力が必要になります。植物によって違いがありますが、ととろうさんのご質問の中にもありますように、土壌の水ポテンシャルが-15気圧くらい以下になると植物は水を吸水するこが出来なくなります。これを永久しおれ点と云います。半径0.01マイクロメーターくらいの隙間にしか水が残っていないときの水ポテンシャルです。マングローブの時は海水の水ポテンシャルが-25気圧でも吸水出来たのに、土壌の場合には、土壌の水ポテンシャルが-15気圧で永久しおれ点とは納得出来ないと思われますが、土壌の場合の水ポテンシャルの低下が土壌中の水が減ったことによるものであることを思い出して下さい。永久しおれ点付近では、無理に吸水をすると水ポテンシャルは急激に下がってしまうのです。根の水ポテンシャルをより低くすることが出来る植物を開発したとしても、その植物の吸収できる水の量はほとんど増えないのです。
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2013-11-28
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