一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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柿と紫外線

質問者:   教員   キーロン
登録番号2998   登録日:2013-12-03
収穫した柿を袋の中に入れて密閉していたら1週間もたつと袋がパンパンにふくれていました。きっと呼吸によって二酸化炭素が充満したのではないかと考えました。そこで同じようにして作った袋を紫外線殺菌灯の下においたら前回よりあきらかに早く袋が膨らみました。紫外線によって柿の呼吸量が増えるということがあるのですか。それとも別の現象が起きている可能性があるのですか。教えてください。
キーロンさん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

ご質問の記載だけではどのくらいの量の柿を、どのくらいの大きさの袋に入れたときに「パンパンにふくれた」のかが分かりませんので、多分こんなことだろうと思われる推定をしてみました。「収穫した柿」は食用を前提とされているでしょうから、収穫適期(10月末か11月)に収穫し、熟度(受粉後の日数)が同一で、大きさ、外見が同じような果実を選別して使用したものと想定します。

‘富有’柿をいろいろな時期に収穫して収穫後の呼吸速度、エチレン生成速度、エチレン反応性について調べた千葉大学研究者による研究結果(1982〜1983)にもとづいて推定してみます。

10月末の収穫適期に収穫した柿(約200g)を25度におき毎日、呼吸速度(二酸化炭素放出速度)とエチレン生成速度を測定すると、1週間以上も呼吸速度は柿1kg、1時間当たりでおよそ20mgの二酸化炭素が生成する速さとなっています。体積に換算すると200gの柿は毎日49 mLの二酸化炭素を放出することになります。ふつうは酸素呼吸をしていますから、同じ量の酸素を吸収するので最低245 mLの空気を毎日必要とします。酸素呼吸が続く限り袋内の気体の体積に変化はありません。ここで、キーロンさんがどんな具合に袋詰めにしたが問題になるのですが、仮に1個(径10〜12cm、200g程度)が楽に入るような袋(18 X 27cm位)に入れたと想定します。この袋を十分に膨らませ、口を縛るとすると概算1000mlの容量になります。柿を入れたときは十分に膨らませていないはずですから空気は500ml以下の量しかないはずです。柿は、1日空気245 mLに含まれる酸素を必要としますから、2日で酸素がなくなってしまいます。

適熟果実は一般に無酸素状態になるとアルコール発酵をしてエネルギーを得ます。アルコール発酵では二酸化炭素が放出されるだけですから、袋内の気体体積は増加し、袋は膨らむはずです。「パンパンに膨れる」時期は柿の量、袋の大きさで決まりますので、キーロンさんは1週間で「パンパンに膨れる」程度の割合だったのでしょう。

次に、紫外線照射をした場合を考えてみます。「袋を紫外線殺菌灯の下においた」のですから連続照射となったのでしょう。かなり、厳しい条件です。残念ながら、柿に紫外線照射をしたときの呼吸やエチレン生成を調べた研究は見つかりませんでしたが、一般に果実に紫外線を照射すると、刺激となってエチレン生成が増加します。柿もそうだろうと想定します。千葉大学の研究では、収穫適期の柿にエチレン(濃度10ppm)を与えると翌日から呼吸量が倍増し、3日目くらいが最高値を出して再び減少します。これらのことから、紫外線を当てる、エチレンが発生する、袋内にエチレン濃度が高まる、そのエチレンが果実の呼吸を倍増させる。その結果、紫外線照射をしないときよりも早く酸素が無くなり、発酵が早く始まり、袋内の気体体積増加が早くなったので、早く「パンパンに膨れた」という解釈が出来そうです。

柿は成長過程、成熟過程のどの時期で収穫するかによってその後の呼吸量やエチレン発生量、エチレン反応性が異なる、かなり特殊な挙動を示す果実です。また、個体ごとにそれらの挙動も違うことが普通です。この回答では条件などを理想化し勝手に推定したり想定したりして組み立てたもので、実際に起こったこととは大きく違っているはずです。1週間も密閉袋詰めにした柿は、おそらく食用に適さない状態になっていたのではないかと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-12-06