質問者:
一般
uran
登録番号3012
登録日:2014-01-23
初めて質問させていただきます。みんなのひろば
コケ植物はシダ植物の退行進化という説は確認されたのか
はじめて陸上に進出したのは車軸藻類の一部が進化もので,そこからシダ植物へと進化し,コケ植物はシダ植物の退行進化である…という説が以前からあったと思います。
この,コケ植物の退行進化は現在では正しいとされているのでしょうか。それともまだわかっていないのでしょうか。
また,コケ植物の蘚類・苔類・ツノゴケ類は1つの系統ではないというのも,すでに明らかなものとしてとらえてよいのでしょうか。
よろしくお願いします。
uranさま
ご質問いただき、どうも有難うございます。
植物の進化を研究されている長谷部光泰先生(基礎生物学研究所)にご回答いただきました。更に詳しい図入りの解説もhttp://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/
作成頂きましたので、そちらも御参照ください。
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遺伝子を用いた系統推定から、陸上植物に最も近い藻類はアオミドロやミカヅキモなどを含む接合藻目であることがわかりました。接合藻類はほとんど淡水性ですので、淡水に生育していた祖先藻類が乾燥耐性などを獲得することによって陸上生活ができるようになったのだろうと考えられています。
形態がわかるようなコケ植物の大化石が、シダ植物のように維管束を持つ枝状構造でできた体を持つ植物の化石よりも後にならないと見つからないことから、コケはシダから退行進化したのではないかという仮説がありました。その後、研究が著しく進展し、タイ類に似た化石がオルドビス紀から産出すること、維管束を持つ枝状構造を持つ植物にはさまざまな群があり、現生シダ類の直接の祖先ではないものが多く含まれていることがわかってきました。また、現生種の遺伝子を用いた系統解析から、現生陸上植物は基部からタイ類、セン類、ツノゴケ類、小葉類(ヒカゲノカズラなど)、シダ類(マツバラン、リュウビンタイ類、ハナヤスリ類、薄嚢シダ類、トクサ類)、裸子植物、被子植物の順に分岐することがわかりました。これらの結果を総合して考えると、陸上植物の共通の祖先はタイ類に似た配偶体を持っていた可能性が高いと考えられています。
一方、陸上植物の共通祖先、あるいは、ツノゴケ類やセン類の祖先の胞子体は化石が見つからないことからどのように進化したのかが不明でした。現生のタイ類、ツノゴケ類、セン類の胞子体は枝分かれせず、先端に1つの胞子嚢を付けることから、これらの祖先も同じような形態をしていたと推定されてきました。ところが、我々がセン類のヒメツリガネゴケでクロマチンの化学修飾を制御する遺伝子を破壊すると、胞子体が無限成長してにょきにょき伸びだし、枝分かれして、それらの先端に胞子嚢を形成させることができることがわかりました。つまり、セン類では、1つの遺伝子の働きが変わるだけで枝分かれできることがわかったわけです。これまで、コケ植物の胞子体は枝分かれしないという強い前提があったのですが、それが崩れたことになり、セン類の祖先が枝分かれした構造を持っていたが、セン類の進化の過程で枝分かれしないように退行的に進化したという可能性がでてきました。この場合の退行進化仮説(セン類の祖先の胞子体が無限成長し枝分かれしていた)は前述した昔の退行進化仮説(陸上植物の共通祖先が維管束植物)とは異なった仮説です。
本コーナーの回答には図がつけられませんが、図入りの詳しい解説が
http://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/
にありますので参考にしてください。
長谷部光泰(自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生物進化研究部門)
ご質問いただき、どうも有難うございます。
植物の進化を研究されている長谷部光泰先生(基礎生物学研究所)にご回答いただきました。更に詳しい図入りの解説もhttp://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/
作成頂きましたので、そちらも御参照ください。
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遺伝子を用いた系統推定から、陸上植物に最も近い藻類はアオミドロやミカヅキモなどを含む接合藻目であることがわかりました。接合藻類はほとんど淡水性ですので、淡水に生育していた祖先藻類が乾燥耐性などを獲得することによって陸上生活ができるようになったのだろうと考えられています。
形態がわかるようなコケ植物の大化石が、シダ植物のように維管束を持つ枝状構造でできた体を持つ植物の化石よりも後にならないと見つからないことから、コケはシダから退行進化したのではないかという仮説がありました。その後、研究が著しく進展し、タイ類に似た化石がオルドビス紀から産出すること、維管束を持つ枝状構造を持つ植物にはさまざまな群があり、現生シダ類の直接の祖先ではないものが多く含まれていることがわかってきました。また、現生種の遺伝子を用いた系統解析から、現生陸上植物は基部からタイ類、セン類、ツノゴケ類、小葉類(ヒカゲノカズラなど)、シダ類(マツバラン、リュウビンタイ類、ハナヤスリ類、薄嚢シダ類、トクサ類)、裸子植物、被子植物の順に分岐することがわかりました。これらの結果を総合して考えると、陸上植物の共通の祖先はタイ類に似た配偶体を持っていた可能性が高いと考えられています。
一方、陸上植物の共通祖先、あるいは、ツノゴケ類やセン類の祖先の胞子体は化石が見つからないことからどのように進化したのかが不明でした。現生のタイ類、ツノゴケ類、セン類の胞子体は枝分かれせず、先端に1つの胞子嚢を付けることから、これらの祖先も同じような形態をしていたと推定されてきました。ところが、我々がセン類のヒメツリガネゴケでクロマチンの化学修飾を制御する遺伝子を破壊すると、胞子体が無限成長してにょきにょき伸びだし、枝分かれして、それらの先端に胞子嚢を形成させることができることがわかりました。つまり、セン類では、1つの遺伝子の働きが変わるだけで枝分かれできることがわかったわけです。これまで、コケ植物の胞子体は枝分かれしないという強い前提があったのですが、それが崩れたことになり、セン類の祖先が枝分かれした構造を持っていたが、セン類の進化の過程で枝分かれしないように退行的に進化したという可能性がでてきました。この場合の退行進化仮説(セン類の祖先の胞子体が無限成長し枝分かれしていた)は前述した昔の退行進化仮説(陸上植物の共通祖先が維管束植物)とは異なった仮説です。
本コーナーの回答には図がつけられませんが、図入りの詳しい解説が
http://www.nibb.ac.jp/plantdic/blog/
にありますので参考にしてください。
長谷部光泰(自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生物進化研究部門)
JSPP広報委員長
松永幸大
回答日:2014-02-12
松永幸大
回答日:2014-02-12