一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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オーキシンの極性移動と重力屈性

質問者:   教員   ken
登録番号3019   登録日:2014-02-11
高校の生物の授業をしており、これから植物の環境応答の範囲に入るところです。今、予習をしていて疑問に感じた点があり、質問させていただきました。

高校生物の教科書(第一学習社)では、オーキシンの極性移動は「PINタンパク質」によって説明されています。PINタンパク質が基部に局在しているから、茎を逆さまにしてもオーキシンは茎頂部→基部にしか移動しないと書いてあります。

一方で根の重力屈性では、根冠のコルメラ細胞が重力を検知すると、PINタンパク質(PIN3)が重力下方に移動し、下部でのオーキシン濃度が高まり、下部の成長が抑制されることで起きると書いてあります。このあたりは以前の質問1539でもありましたので理解をしています。

また、茎の重力屈性では「内皮細胞にあるアミロプラストが重力によって沈降し、それによってオーキシンが移動方向を変え、茎の下部に集まることで起きる」(第一学習社指導書)と書いてあります。
これについて啓林館の教科書では、「茎の内皮細胞のアミロプラストが重力で沈降し,内皮細胞の下側にPIN3が分布して,IAAが下側に移動する。」とも書いてあります。

疑問なのは、「なぜ茎では逆さまにしたとき、PINタンパク質の移動が起きないのか」また、「水平方向(横たえたときの下部)には移動するが、垂直方向の移動(上下逆にしたときの基部→上部という移動)ができないのはなぜか」ということです。

登録番号1539の質問への回答で根に関するオーキシンの移動はよく分かったのですが、茎に関してがどうもわかりませんでした。

重力屈性のところではPINタンパク質の移動があるのに、極性移動のところで移動を考慮しないのは何故なのでしょうか。水平方向の重力刺激と、垂直方向の重力刺激で何か違いがあるのでしょうか。

いろいろ仮説を考えたのですが、どうもしっくりきません。
啓林館の記述が誤りであれば、茎での重力屈性はPINによるものではなく、茎のPINは移動しないとも解釈できるのですが…
ただ、そうであったとしても、水平方向には移動するが垂直方向には移動する理由もイマイチです。

いろいろ書いてしまって少し煩雑で申し訳ありませんが、ご回答いただければと思います。
よろしくお願い致します。
kenさま

みんなのひろばへのご質問有り難うございます。
PINタンパク質の研究をされている大阪大学の田中博和先生に
お答えいただきました。


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とても良い質問だと思います。
オーキシンが茎頂部から基部側に輸送され、茎を逆さまにしたときにもこの方向性が変わらないということに関しては、PIN1 が関与していることがわかっています [Okada et al. (1991) Plant Cell]。
重力に対する応答の際には、根端のコルメラ細胞での PIN3 の配置の変化が関与することが報告されています [Friml et al. (2002) Nature 415, 806-809]。また、PIN3 は胚軸の重力応答の際に、内皮細胞で配置が変化することも、数年前に報告されています [Rakusova et al. (2011) The Plant Journal 67, 817–826]。
PIN1 と PIN3 は発現部位が異なり、オーキシン輸送の異なる側面に関わっています。 PIN1 が関わっているオーキシンの極性輸送(花茎の茎頂側から基部側)は重力の影響はうけません。一方、PIN3 の配置は根のコルメラ細胞や胚軸の内皮などで、重力の応答を受けることが報告されています。

田中 博和(大阪大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2014-02-24
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