一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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脂肪酸は葉や根から吸収されるか?

質問者:   一般   黒兎
登録番号3021   登録日:2014-02-16
脂肪酸は植物の葉や根から吸収されますか?
また、吸収されたとしたらどんな代謝をするでしょうか?
黒兎様

ご質問どうも有り難うございます。
植物の脂肪酸を研究されている埼玉大学の
西田生郎先生にお答えいただきました。


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 放射能(14C)ラベルをした脂肪酸を葉に塗ると、葉に取り込まれて葉緑体で代謝されたり、小胞体で膜脂質に取り込まれたりします(膜脂質に取り込まれるとは、脂肪酸が脂質分子のグリセリン骨格にエステル結合して生体膜の構造脂質になるということ)。脂肪酸の炭素鎖長にもよりますが、例えば、炭素鎖長が12の脂肪酸を葉に塗ると、葉の細胞に浸透し、葉緑体に存在するの脂肪酸合成酵素のはたらきで炭素数16や18の脂肪酸に代謝されます。これらはその後膜脂質に取り込まれます(膜脂質の脂肪酸の長さはほとんどがC16あるいはC18です)。一方、炭素鎖長が16や18の脂肪酸は、補酵素コエンザイムA(CoA-SH)と結合してアシルCoAとなったのち、アシルトランスフェラーゼという酵素の働きで膜脂質に取り込まれます。以上の代謝は、放射能で検出できるレベルの微量な脂肪酸を葉に塗った場合です。もし、大量の脂肪酸を葉に塗ると、葉の細胞に浸透した脂肪酸は量が多すぎるのでうまく代謝されずに、細胞の機能を阻害すると思います。

根に脂肪酸を塗っても葉の場合と同様と思います。

植物には、動物の小腸内腔にみられる、胆嚢から分泌された胆汁酸で脂肪酸や油脂をミセル化して腸管からの脂肪吸収を助けるようなしくみ(http://www.jmi.or.jp/qanda/bunrui3/q_054.html)は知られていません。

最後に、植物の細胞で、ATABCA9という小胞体の輸送体を過剰発現させると油脂増産を飛躍させることがわかっています(Kim et al., 2013) が、これはATABCA9が細胞質の脂肪酸やアシルCoAを小胞体内腔へ積極的に取り込むためではないかという仮説が提唱されています。

Kim, S., Yamaoka, Y., Ono, H., Kim, H., Shim, D., Maeshima, M., Martinoia, E., Cahoon, E. B., Ikuo Nishida and Lee, Y. (2013) AtABCA9 transporter supplies fatty acids for lipid synthesis to the endoplasmic reticulum. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110: 773–778.

西田生郎(埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門)
JSPP広報委員
出村拓
回答日:2014-02-28
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