質問者:
自営業
佐藤誠
登録番号3030
登録日:2014-03-07
はじめまして。環境制御について話を聞く機会があり、疑問に思ったことをお尋ねします。転流と温度について
冬場のハウス内温度について、転流を促すため日没後数時間は高めにせよと習いました。また、環境制御の技法として「転流物質は温度の高い部位に流れる性質があることを利用して云々」という話を耳にします。
温度は転流に影響するのでしょうか?
また、そもそも温度が高いと転流が促されるのは何故なのでしょうか?
2005-06-12の登録番号0277を興味深く拝読しました。
スクロースの移動はソースとシンクの間に出来る内圧の差が大きな要因と理解しましたが、温度はこのどこに影響するのでしょうか。
素人考えに、高温によりシンクでの呼吸量が増加した結果、シンクのスクロース消費も増え、内圧差が高まるからでは、と推測したのですが、いかがでしょうか。
それとも、転流には植物ホルモンも影響すると聞きますが、そちらのほうで何かあるのでしょうか?
よろしくご教授ください。
佐藤誠様
ご質問どうも有難うございます。
埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門の西田生郎先生に御回答頂きました。
日没後の高めの温度が転流にとってよいとされ実際行われていることは知りませんでした。温度を下げると一般に代謝は低下しますが、転流の場合、糖を篩管細胞に集積するために、ミトコンドリアというオルガネラの代謝を必要とするので、そういうことはあるかと思います。
「転流物質は温度の高い部位に流れる性質がある」というのは、よくわかりません。糖が転流するしくみは、ソース葉(光合成する葉)とシンク葉(ショ糖を利用する葉)の浸透圧差がもたらす圧流であるといわれているので、糖の送り先であるシンクで温度が高い場合は、そこでのショ糖の代謝が進み浸透圧は低下し、圧流が促進されると予想されますが、それは「温度が高い部位に流れる性質がある」ということとは意味が異なると思います。
ソース葉の光合成活性(どれだけ炭酸ガスを固定しショ糖を合成できるか)の最適温では、ソース葉のショ糖濃度は最高になるでしょう。このとき、シンク葉のショ糖利用(代謝)は同じ温度で最適なのかよくわかりません。仮に、一枚のソース葉に対して、篩管でつながっている先のあるシンク組織を想定した場合、温度のみが制限要因であるとすると、ソース葉のショ糖濃度と、シンク組織のショ糖濃度が温度によって影響を受ける代謝によって決まり、その結果、転流速度が決まることになります。ただし、ソース葉とシンク組織の間の篩管を介する輸送が温度によってまったく影響を受けない場合においてです。実際は、篩管へどれだけ高濃度のショ糖を積み込めるかがソース側では重要であり、ここには温度感受性のあるいくつかの代謝(ミトコンドリア代謝やトランスポータ、植物によっては糖のポリマー化など)が関わります。したがって、お答えとしては、シンクのショ糖消費のみが温度によって影響するわけではなく、ソース葉におけるショ糖合成と糖代謝、篩管へのショ糖の積み込み、また、場合によっては、篩管からシンク組織へのショ糖の積み下ろしも温度の影響を受ける可能性があるということです。篩管が温度によって物理的に詰まるようなことが起これば、それも転流に影響します。
転流自体が植物ホルモンによって影響を受けるということはないと思います。植物ホルモンは、転流経路にあたる維管束組織の分化・発達に影響します。また、隣接する細胞には、細胞と細胞をつなぐトンネルの役割をする原形質連絡が知られており、ショ糖はこの原形質連絡を通って移動することも知られています。植物ホルモンが原形質連絡の形成にどのような影響をもつのかは興味ある疑問ですが、まだよくわかっていません。
西田生郎(埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門)
ご質問どうも有難うございます。
埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門の西田生郎先生に御回答頂きました。
日没後の高めの温度が転流にとってよいとされ実際行われていることは知りませんでした。温度を下げると一般に代謝は低下しますが、転流の場合、糖を篩管細胞に集積するために、ミトコンドリアというオルガネラの代謝を必要とするので、そういうことはあるかと思います。
「転流物質は温度の高い部位に流れる性質がある」というのは、よくわかりません。糖が転流するしくみは、ソース葉(光合成する葉)とシンク葉(ショ糖を利用する葉)の浸透圧差がもたらす圧流であるといわれているので、糖の送り先であるシンクで温度が高い場合は、そこでのショ糖の代謝が進み浸透圧は低下し、圧流が促進されると予想されますが、それは「温度が高い部位に流れる性質がある」ということとは意味が異なると思います。
ソース葉の光合成活性(どれだけ炭酸ガスを固定しショ糖を合成できるか)の最適温では、ソース葉のショ糖濃度は最高になるでしょう。このとき、シンク葉のショ糖利用(代謝)は同じ温度で最適なのかよくわかりません。仮に、一枚のソース葉に対して、篩管でつながっている先のあるシンク組織を想定した場合、温度のみが制限要因であるとすると、ソース葉のショ糖濃度と、シンク組織のショ糖濃度が温度によって影響を受ける代謝によって決まり、その結果、転流速度が決まることになります。ただし、ソース葉とシンク組織の間の篩管を介する輸送が温度によってまったく影響を受けない場合においてです。実際は、篩管へどれだけ高濃度のショ糖を積み込めるかがソース側では重要であり、ここには温度感受性のあるいくつかの代謝(ミトコンドリア代謝やトランスポータ、植物によっては糖のポリマー化など)が関わります。したがって、お答えとしては、シンクのショ糖消費のみが温度によって影響するわけではなく、ソース葉におけるショ糖合成と糖代謝、篩管へのショ糖の積み込み、また、場合によっては、篩管からシンク組織へのショ糖の積み下ろしも温度の影響を受ける可能性があるということです。篩管が温度によって物理的に詰まるようなことが起これば、それも転流に影響します。
転流自体が植物ホルモンによって影響を受けるということはないと思います。植物ホルモンは、転流経路にあたる維管束組織の分化・発達に影響します。また、隣接する細胞には、細胞と細胞をつなぐトンネルの役割をする原形質連絡が知られており、ショ糖はこの原形質連絡を通って移動することも知られています。植物ホルモンが原形質連絡の形成にどのような影響をもつのかは興味ある疑問ですが、まだよくわかっていません。
西田生郎(埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門)
JSPP広報委員長
松永幸大
回答日:2014-03-25
松永幸大
回答日:2014-03-25