質問者:
大学院生
石塚千晃
登録番号3053
登録日:2014-04-25
はじめまして。みんなのひろば
カルスの肥大について
現在デザイン・アート系の大学院で、カルスを自律的な造形の素材に使えないか、というような研究を主にニンジンの組織培養を通して行っている者です。
そこで質問なのですが、
①植物のカルスは、原理的には条件が整えば、無限に肥大するものなのでしょうか?
また、カルスの大きさに特化した研究のようなものは昔も今も含め、あるのでしょうか?
ちなみに自分が試したニンジンのカルスは、NAA0.01mgのSM培地で6ヶ月ほどで直径5cmほど
になりましたが、6ヶ月を境に肥大しなくなり、褐変化して死んでしまいました。
②カルスは一見同じ培地、同じ条件で育てても、形状にばらつきがあるように思うのですが、
なにかパターンのようなものは発現する可能性というのはあるのでしょうか?
③カルスをより早く肥大させるためにはなにかコツのようなものはあるのでしょうか、、
以上になります。
宜しくお願い致します。
石塚千晃様
ご質問どうも有り難うございます。
佐藤忍先生(筑波大学生命環境系)に御回答頂きました。
デザイン・アートの世界でカルスを使おうという発想に感動しました。
以下、ご参考になれば幸いです。
①植物のカルスは、原理的には条件が整えば、無限に肥大するものなのでしょうか?また、カルスの大きさに特化した研究のようなものは昔も今も含め、あるのでしょうか?ちなみに自分が試したニンジンのカルスは、NAA0.01mgのSM培地で6ヶ月ほどで直径5cmほどになりましたが、6ヶ月を境に肥大しなくなり、褐変化して死んでしまいました。
カルスは培地からの栄養やホルモンで育っていますので、定期的に植え継いであげないと栄養不足になります。また古くなった細胞から出る老廃物も、溜まってくると有害です。さらに、カルスの細胞は呼吸もしていますので、カルス中心部の細胞の置かれた環境は良好とは言えません。そのため、一般的にカルスは細胞塊の周辺部ほど活性が高く、中心部は不活性になっている場合が多いです。つまり、外界との物質交換はカルスの表面を通して起こりますので、カルスのサイズには限界があるものと思います。
カルスの大きさに関する研究としては以下が知られています。液体培地中で振とう培養しているニンジンのカルスは、通常、オーキシンを入れた培地で培養していますが、それを、ホルモンを含まない培地に移すと胚(体細胞胚=不定胚)が形成されます。この胚を形成する能力を持つカルスは、細胞同士の接着が密で、固いカルスを形成します。ところが、カルスを長い間(数か月以上)継代培養していると、細胞同士の接着が弱くなったカルスが生じてくる場合があります。このカルスは、細胞がばらばらになりやすく、その結果、カルスは柔らかく、細胞塊も小さくなります。そして、このカルスは不定胚を形成する能力を失っています。この結果は、細胞同士の接着性が形態形成や発生に重要であることを示しています。
②カルスは一見同じ培地、同じ条件で育てても、形状にばらつきがあるように思うのですが、なにかパターンのようなものは発現する可能性というのはあるのでしょうか?
実際に研究用にカルスを誘導してみると、増殖が速いカルスや不定胚をよく作るカルスなど、カルスごとに個性が見られる場合があります。その中から、目的に合ったカルスを選抜して使います。その理由は不明ですが、カルスが由来したもともとの組織や細胞の違いを反映している可能性が有りますし、培養するときに細胞が置かれた環境によるのかもしれません。一定のパターンがある可能性はあるかもしれません。
③カルスをより早く肥大させるためにはなにかコツのようなものはあるのでしょうか。
適当なタイミングで植え継ぐことだと思います。その場合、通常は活性の高そうな周辺部のみを植え継ぐのですが、この場合の目的からすると、細胞塊全体を崩さないように新しい培地に移す必要がありますね。それが難しい場合は、ミリポアフィルターの様に物質の浸透性がよく、細胞に無害な膜の上で細胞を培養し、膜ごと新しい培地に移すとうまくいくかもしれません。最近は再生医療の研究で細胞培養用にいろいろな技術開発が進んでいると思いますので、良い素材が見つかるかもしれません。また、おそらく今は固形培地の上で培養されていると思いますが、カルスがある程度大きくなったら、ひたひたか、それ以下の浅い液体培地を入れたシャーレの中で静置培養し、培地を定期的にピペットで吸い出して交換するとよいかもしれません。その際、培地を入れすぎると呼吸困難になりますので、培地の量は加減が必要です。新しい培地は細胞にショックを与えますので、部分的に交換するのも良いかもしれません。
佐藤 忍(筑波大学生命環境系)
ご質問どうも有り難うございます。
佐藤忍先生(筑波大学生命環境系)に御回答頂きました。
デザイン・アートの世界でカルスを使おうという発想に感動しました。
以下、ご参考になれば幸いです。
①植物のカルスは、原理的には条件が整えば、無限に肥大するものなのでしょうか?また、カルスの大きさに特化した研究のようなものは昔も今も含め、あるのでしょうか?ちなみに自分が試したニンジンのカルスは、NAA0.01mgのSM培地で6ヶ月ほどで直径5cmほどになりましたが、6ヶ月を境に肥大しなくなり、褐変化して死んでしまいました。
カルスは培地からの栄養やホルモンで育っていますので、定期的に植え継いであげないと栄養不足になります。また古くなった細胞から出る老廃物も、溜まってくると有害です。さらに、カルスの細胞は呼吸もしていますので、カルス中心部の細胞の置かれた環境は良好とは言えません。そのため、一般的にカルスは細胞塊の周辺部ほど活性が高く、中心部は不活性になっている場合が多いです。つまり、外界との物質交換はカルスの表面を通して起こりますので、カルスのサイズには限界があるものと思います。
カルスの大きさに関する研究としては以下が知られています。液体培地中で振とう培養しているニンジンのカルスは、通常、オーキシンを入れた培地で培養していますが、それを、ホルモンを含まない培地に移すと胚(体細胞胚=不定胚)が形成されます。この胚を形成する能力を持つカルスは、細胞同士の接着が密で、固いカルスを形成します。ところが、カルスを長い間(数か月以上)継代培養していると、細胞同士の接着が弱くなったカルスが生じてくる場合があります。このカルスは、細胞がばらばらになりやすく、その結果、カルスは柔らかく、細胞塊も小さくなります。そして、このカルスは不定胚を形成する能力を失っています。この結果は、細胞同士の接着性が形態形成や発生に重要であることを示しています。
②カルスは一見同じ培地、同じ条件で育てても、形状にばらつきがあるように思うのですが、なにかパターンのようなものは発現する可能性というのはあるのでしょうか?
実際に研究用にカルスを誘導してみると、増殖が速いカルスや不定胚をよく作るカルスなど、カルスごとに個性が見られる場合があります。その中から、目的に合ったカルスを選抜して使います。その理由は不明ですが、カルスが由来したもともとの組織や細胞の違いを反映している可能性が有りますし、培養するときに細胞が置かれた環境によるのかもしれません。一定のパターンがある可能性はあるかもしれません。
③カルスをより早く肥大させるためにはなにかコツのようなものはあるのでしょうか。
適当なタイミングで植え継ぐことだと思います。その場合、通常は活性の高そうな周辺部のみを植え継ぐのですが、この場合の目的からすると、細胞塊全体を崩さないように新しい培地に移す必要がありますね。それが難しい場合は、ミリポアフィルターの様に物質の浸透性がよく、細胞に無害な膜の上で細胞を培養し、膜ごと新しい培地に移すとうまくいくかもしれません。最近は再生医療の研究で細胞培養用にいろいろな技術開発が進んでいると思いますので、良い素材が見つかるかもしれません。また、おそらく今は固形培地の上で培養されていると思いますが、カルスがある程度大きくなったら、ひたひたか、それ以下の浅い液体培地を入れたシャーレの中で静置培養し、培地を定期的にピペットで吸い出して交換するとよいかもしれません。その際、培地を入れすぎると呼吸困難になりますので、培地の量は加減が必要です。新しい培地は細胞にショックを与えますので、部分的に交換するのも良いかもしれません。
佐藤 忍(筑波大学生命環境系)
JSPP広報委員長
松永幸大
回答日:2014-05-09
松永幸大
回答日:2014-05-09