一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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茎頂と根端の分裂組織

質問者:   教員   額鷹
登録番号3055   登録日:2014-04-28
植物の体制を教える場合、茎と根を1つの軸(主軸)で表現することが多い(図説など)ため、側芽が成長して枝分かれが起きた場合、複数の茎の先端に頂芽(茎頂分裂組織)があるにもかかわらず、頂芽は一つしかないと誤解している高校生が多いようです。一方、根の場合、側根が描かれている図が多いのですが、主根の先端にだけ根冠と根端分裂組織が描かれている場合が多いようです。

質問したいのは、側根の先端の構造はどうなっているのか、ということです。

側根の先端に、根端分裂組織と根冠はあるのでしょうか?
あるいは、存在するが発達していないのでしょうか?

別の質問で、側根が成長するかどうかは、内外の要因に左右されるとありましたので、根端分裂組織と根冠があるが、発達するかどうかは、内外の要因に依存するとも考えられますが、そのような理解でよいのでしょうか?
額鷹様

ご質問どうも有り難うございました。
側根形成の研究をされている神戸大学大学院理学研究科生物学専攻の深城英弘先生に御回答頂きました。

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 ご質問の文章にあるように、高校の生物の教科書や図説などでは、主根の根端には根端分裂組織や根冠があると示されてありますが、側根の先端のことはきちんと記載されていないことが多いですね。ではまず、「側根の先端の構造はどうなっているのか」と「側根の先端に、根端分裂組織と根冠はあるのでしょうか?あるいは、存在するが発達していないのでしょうか?」というご質問にお答えします。

 一般的にいうと、側根の先端も主根と同様の構造をしていて根端分裂組織と根冠があり、側根の成長に貢献しています。高校の教科書や図説にあるように、主根の横断面には外側から表皮・皮層・内皮・内鞘・維管束(内鞘と維管束をまとめて中心柱と呼びます)といった組織が同心円上に並んでいます。
これらの組織の細胞はもともと主根の根端分裂組織で作られます。根の内部組織からつくられる側根の横断面も、主根と同じ種類の組織が同じ順番に同心円上に配置しています。また、側根の根冠の組織の細胞も側根の根端分裂組織から作られています。主根に限らず、側根、不定根(地上部から作られる根)の先端には根端分裂組織があり、それぞれの根の成長を維持するために、根冠や根本体のさまざまな組織をつくる細胞を生み出しています。例えば、モデル植物のシロイヌナズナの場合、成長した側根の先端の構造や側根の太さは主根とほぼ同じで、それぞれ根端分裂組織と根冠があります。
もちろん、さまざまな植物がいますので、種によって側根の太さが主根より極端に細いものもあります。そういった植物の主根と側根の根端分裂組織はどうなっているのでしょう。根端の基本構造は同じでも、構成する細胞の数や配置が違う可能性が考えられますね。

 次にもう一つの質問「側根が成長するかどうかは、内外の要因に左右されるとありましたので、根端分裂組織と根冠があるが、発達するかどうかは、内外の要因に依存するとも考えられますが、そのような理解でよいのでしょうか?」についてです。
 
 少し質問文の意味が取りづらかったのですが、おそらく「側根にも根端分裂組織と根冠があるが、一度作られた側根がその後成長するかどうかは内外の要因に依存すると理解してよいか?」という内容と判断できましたので、そう解釈してお答えさせていただきます。

 側根は発芽後に伸長する主根や、既に存在する他の根(側根や不定根)の内部の一部の細胞(被子植物では内鞘細胞)から作られます。側根の発生段階はいくつかの段階に分かれています。まず最初に、一部のわずかな細胞が細胞分裂を行い、側根原基と呼ばれる多数の細胞からなるドーム上状の構造を親根の中で作ります。やがて、側根の根端分裂組織や根冠部分をつくり、基本的な根端の構造ができあがります。最後に、この若い側根が成長して親根の皮層や表皮を突き破って外に出てきます。これらの発生過程は、植物体内の植物ホルモンや外界の物理的・化学的要因によって影響を受けると考えられています。現在、内的な要因として挙げられることとして、親根の中で作られたばかりの若い側根がその後発達するかどうかは、側根自身が作り出すオーキシンの働きに依存すると考えられています。また、植物体内のアブシシン酸(ABA)が側根の出現を抑制する働きがあることもわかっています。
 外界の要因としては、根の生育環境における栄養塩の多少が側根の成長に大きく影響することが知られています。例えば、窒素源が豊富な部分では側根の成長が促進されます。一方、高い塩ストレスや浸透圧ストレスがあると、側根の形成は起こりますが側根分裂組織の活性化が起こらず、側根が成長しません。
 このように側根の成長と発生は、主根と同じ仕組みで調節されている現象(根端の基本構造の形づくり)と、側根に特有な仕組みで調節される現象(側根の成長)があると考えることができますね。

深城 英弘(神戸大学大学院理学研究科生物学専攻)
JSPP広報委員長
松永幸大
回答日:2014-05-09
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