質問者:
会社員
神尾
登録番号3060
登録日:2014-05-11
担当者様ツツジの雄しべの数
こんにちは。
私は、一般企業に勤務しつつ、中野区の教育委員会の紹介で、中野区の中学校にて、臨時で、理科の授業のティーチングアシスタントを務めています。ツツジのおしべの数について、教えていただきたく、メールを差し上げました。
先日、中学1年生の理科で、学校の校庭にあるツツジの花を教材にして、生徒一人一人がツツジを分解し、各自、花の構造を調べ、標本を作製しました。
各生徒が作成した標本を点検しましたところ、生徒数が30人程のクラスで、20人強の生徒の標本では、おしべの数が「8-10本」なのですが、5、6人の生徒の標本では、おしべの数が「11本」でした。
そこで教えていただきたいことは、一般的におしべの数が5-10本といわれている品種のツツジにおいて、雄しべの数が、10本を超えて「11本」となることがあり得るとしたら、どのような背景で、そのようなことが起こるのでしょうか。
例えば、気候による影響のような、外的な影響によっておこるものであり、よって、年により、雄しべが11本となる率が変動するのでしょうか。
それとも、気候の影響のような外的な影響ではなく、内的な要因(例:ツツジの遺伝的要因)によって発生するもので、毎年一定率で、11本のおしべをもった花が咲くのでしょうか。
(ちなみに、教材にしたツツジの名前について、学校の方に尋ねたのですが、分からないとのことでした。花は紫色で、私見ですが、オオヤマツツジ系だと思われます。)
どうぞよろしくお願いいたします。
神尾様
ご質問どうも有り難うございました。
植物の器官形成を研究されている相田光宏先生(奈良先端技術大学院大学)
に御回答頂きました。
まず一般的に、雄しべの数を決める主な要因は遺伝的なものです。これは、同じツツジでも品種により雄しべの数に違いがあることを考えれば、納得していただけるかと思います。一方、同じ品種でも雄しべの数が一定しないこともあり、この場合には「遺伝的に決められた範囲内で」雄しべの数が変わります。その際の変動には外的な要因、つまり環境が影響する場合もありますし、環境以外の要因もあります。例えば、タネツケバナ属のCardamine kokaiensisという植物は、低温にさらすと雄しべの数が減ることが知られています。これは、環境(温度)が雄しべの数に影響する例です。環境以外の要因としては、植物の生育段階の違いや、特に原因が特定できないランダムな変動などがあります。私が実験に用いているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は本来雄しべを6本つけますが、屋内の安定した環境下で育てているにもかかわらず、雄しべが5本しかない花が時々出てきますし、その頻度も植物体が若いときとそうでないときとで違いがあります。
さて、ご質問のケースに関してです。ツツジの雄しべの数が、本来の変動の上限である10本を超えて11本になるとのことですので、この場合は遺伝的な要因が関係している可能性が高いと言えます。つまり、雄しべの数を増やすような何らかの突然変異が起こったということです。もし、本当に突然変異であれば、今後も安定して11本の雄しべを持つ花が高い頻度で出てくることが予想されます。来年も同じ校庭のツツジを調べる機会があれば、今度はぜひ、生徒さんが花を取った場所も合わせて調べてみて下さい。雄しべが11本の花が特定の枝に集中しているのか、一つの株だけにあるのか、それとも校庭のツツジ全部がそうなっているのかが分かります。突然変異は一つの枝だけで起こることもありますし(枝変わりといいます)、実生の段階で変異が起きれば、そこから育ってきた株全体にそれが受け継がれます。つまり、いつ、どの段階で変異が起こったかを追跡できる訳です。
突然変異は自然に起こる場合もありますし、紫外線や放射線、化学物質などが原因で生じることもあります。また、ツツジではトランスポゾンという「動く遺伝子」の動きが特に活発で、これが別の遺伝子の中へ入り込むことで新たな突然変異が起こります。そのため、花の形や色、背丈などが変わった株がよく出てくるので、それを拾って維持することで膨大な数の園芸品種が得られています。今回のケースも、新しい品種につながる発見かもしれませんね。
なお、ツツジのトランスポゾンに関しては、以下の質問の回答も参考にしてください。
2186 サツキ・ヒラドツツジの咲き分けについて
2431 ツツジの花弁の色分かれ
<参考>
Morinaga et al (2008) Ecogenomics of cleistogamous and chasmogamous flowering: genome-wide gene expression patterns from cross-species microarray analysis in Cardamine kokaiensis (Brassicaceae). J. Ecol. 96,
1086–1097.
仁田坂英二 (2009) 品種分化をめぐって:古典園芸植物のドメスティケーション.
国立民族学博物館調査報告 84:409-443. <http://ir.minpaku.ac.jp/dspace/handle/10502/4027>
相田光宏(奈良先端技術大学院大学バイオサイエンス研究科)
ご質問どうも有り難うございました。
植物の器官形成を研究されている相田光宏先生(奈良先端技術大学院大学)
に御回答頂きました。
まず一般的に、雄しべの数を決める主な要因は遺伝的なものです。これは、同じツツジでも品種により雄しべの数に違いがあることを考えれば、納得していただけるかと思います。一方、同じ品種でも雄しべの数が一定しないこともあり、この場合には「遺伝的に決められた範囲内で」雄しべの数が変わります。その際の変動には外的な要因、つまり環境が影響する場合もありますし、環境以外の要因もあります。例えば、タネツケバナ属のCardamine kokaiensisという植物は、低温にさらすと雄しべの数が減ることが知られています。これは、環境(温度)が雄しべの数に影響する例です。環境以外の要因としては、植物の生育段階の違いや、特に原因が特定できないランダムな変動などがあります。私が実験に用いているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は本来雄しべを6本つけますが、屋内の安定した環境下で育てているにもかかわらず、雄しべが5本しかない花が時々出てきますし、その頻度も植物体が若いときとそうでないときとで違いがあります。
さて、ご質問のケースに関してです。ツツジの雄しべの数が、本来の変動の上限である10本を超えて11本になるとのことですので、この場合は遺伝的な要因が関係している可能性が高いと言えます。つまり、雄しべの数を増やすような何らかの突然変異が起こったということです。もし、本当に突然変異であれば、今後も安定して11本の雄しべを持つ花が高い頻度で出てくることが予想されます。来年も同じ校庭のツツジを調べる機会があれば、今度はぜひ、生徒さんが花を取った場所も合わせて調べてみて下さい。雄しべが11本の花が特定の枝に集中しているのか、一つの株だけにあるのか、それとも校庭のツツジ全部がそうなっているのかが分かります。突然変異は一つの枝だけで起こることもありますし(枝変わりといいます)、実生の段階で変異が起きれば、そこから育ってきた株全体にそれが受け継がれます。つまり、いつ、どの段階で変異が起こったかを追跡できる訳です。
突然変異は自然に起こる場合もありますし、紫外線や放射線、化学物質などが原因で生じることもあります。また、ツツジではトランスポゾンという「動く遺伝子」の動きが特に活発で、これが別の遺伝子の中へ入り込むことで新たな突然変異が起こります。そのため、花の形や色、背丈などが変わった株がよく出てくるので、それを拾って維持することで膨大な数の園芸品種が得られています。今回のケースも、新しい品種につながる発見かもしれませんね。
なお、ツツジのトランスポゾンに関しては、以下の質問の回答も参考にしてください。
2186 サツキ・ヒラドツツジの咲き分けについて
2431 ツツジの花弁の色分かれ
<参考>
Morinaga et al (2008) Ecogenomics of cleistogamous and chasmogamous flowering: genome-wide gene expression patterns from cross-species microarray analysis in Cardamine kokaiensis (Brassicaceae). J. Ecol. 96,
1086–1097.
仁田坂英二 (2009) 品種分化をめぐって:古典園芸植物のドメスティケーション.
国立民族学博物館調査報告 84:409-443. <http://ir.minpaku.ac.jp/dspace/handle/10502/4027>
相田光宏(奈良先端技術大学院大学バイオサイエンス研究科)
JSPP広報委員
東山哲也
回答日:2014-06-12
東山哲也
回答日:2014-06-12