一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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有色体の構造について

質問者:   高校生   丸
登録番号3065   登録日:2014-05-21
学校の先生に質問したらこのサイトをおすすめされました。
葉緑体はシアノバクテリアが細胞内に取り込まれたものだという説があることを授業で聞きました。
では、有色体や白色体もシアノバクテリアが起源なのでしょうか、また有色体や白色体の中にもチラコイドやストロマのような葉緑体に見られる構造があるのでしょうか。
教えて下さい。
丸様

ご質問どうも有難うございます。
色素体の研究をされている奈良女子大学の酒井敦先生に御回答頂きました。

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 「葉緑体はシアノバクテリアが細胞内に取り込まれたものだ」という考え方は、現在ではほぼ定説になっています。その根拠は、形や機能が似ていること、独自のDNAと遺伝情報発現のためのシステムをもっており、それらの性質がバクテリアのものと似ていることなどが挙げられます。

 葉緑体(クロロプラスト)は、植物の緑色をした細胞に含まれる、光合成を営む細胞小器官です。しかし、我々が普段目にするような「花の咲く植物」(被子植物)では、緑色をしていない細胞もたくさんあります。そうした細胞の中では、「葉緑体」は別の形に変化した状態で存在します。質問に出てきた「有色体」や「白色体」がその例です。有色体(クロモプラスト)はトウガラシやトマトの果実、あるいはヒマワリの花弁などの細胞中に見られ、緑色の色素(クロロフィル)はもたないけれども別の色素(カロテノイド)を多量に含むため赤、橙、黄などの色をしています。白色体(ロイコプラスト)は根の柔組織細胞などにみられ、葉緑体や有色体のようには多量の色素を蓄積していません。また、我々が食べるお米(イネの種子の胚乳)などでは、光合成で作り出した糖からデンプンを作り出して貯蔵する「アミロプラスト」となって存在しています。このように植物の「葉緑体」はいろいろな形に姿を変えることができますが、そのすべてをひっくるめて「色素体」(プラスチド)と呼びます。植物の体の中には上で見てきたようにいろいろなタイプの色素体がありますが、そのすべては茎や根の先端にある成長点(頂端分裂組織)の細胞に含まれている「原色素体」(プロプラスチド)というとても小さな色素体が分裂増殖し、変化してできるものです。
 
 細胞が細胞からしか生まれないように、色素体は色素体からしか生まれません。細胞の中で色素体(葉緑体や有色体、白色体)の部品を組み合わせて新規に色素体が作られることはなく、必ず、すでにある色素体が分裂して新しい色素体を生み出し、状況に応じて他のタイプに変化するのです。ということは、もうお分かりだと思いますが、葉緑体がシアノバクテリアの子孫であるならば、その変形したものである他のタイプの色素体も全てシアノバクテリアの子孫である、ということです。このように、陸上植物の葉緑体は様々な形に変化していろいろな機能を営みますが、藻類の色素体は葉緑体以外の形を取ることがあまりありません。したがって、進化的にみると色素体の基本形は(シアノバクテリアによく似た)葉緑体であり、葉緑体を変形させて様々な色素体を生み出す能力は植物が進化の過程で新たに獲得してきたもの、と言えると思います。

 葉緑体は内外2枚の包膜で包まれており、その内部は水溶性の基質部分(ストロマ)と膜でできた袋(チラコイド)に分かれています。「2枚の包膜で包まれて水溶性の基質部分(ストロマ)がある」という点はすべての色素体に共通していますが、チラコイドの発達程度は色素体の種類によってかなり異なります。有色体にはいろいろなタイプがあり、葉緑体におけるチラコイドのような平面的な
内膜構造がよく発達してそこにカロテノイド色素をためているものもありますが、葉緑体のチラコイドとはあまり似ていない、渦巻き状あるいはチューブ状の内膜構造をもつものもあります。白色体や原色素体では内膜系があまり発達しておらず、小さな袋状の構造がいくらか観察される程度です。アミロプラストでも内膜構造があまり発達しておらずストロマもほとんどがデンプンの顆粒で埋め尽くされています。チラコイドはもともと光合成のための色素タンパク質を乗せておくための膜ですから有色体のように色素をためておく際には残しておく場合もあるのでしょうが、光合成もせず色素をため込むわけでもない、あまり色のついていない色素体では内膜構造を発達させる意味がないのでしょうね。
 
酒井 敦(奈良女子大学)
JSPP広報委員長
松永幸大
回答日:2014-05-30