一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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冬に雪が多い年は花がたくさん咲くのはなぜでしょう?

質問者:   会社員   うーさん
登録番号3075   登録日:2014-06-09
ここ数年、東京でも大雪の日が多く、雪かきに苦戦してました。

しかし、何となくですが、タイトルに書かせていただいたように、大雪が降るようになってから、今までずっと咲かなかった植物がどっと花を咲かせたり、ちょっとだけしか咲かなかった植物にたくさん花がつくようになったような気がするのです。

もともと、もしかしたら庭に水分が足りなかったのかもしれませんが、植物にとって今まで経験したことがないくらいの雪が降るという一大事が起こり、「子孫を残さなければ!」と花をたくさんつけるようになったのでは?と思ったりしております。

大雪と花の開花の増加の関係って何か考えられますか。これは偶然の重なった結果でしょうか。ちなみにそれらの植物は、クリスマスローズ、ばら、オオデマリ、コマユミなどです。
うーさん様
 みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を冬の降雪を何年も経験して来られた、東京大学付属日光植物園の舘野正樹先生にお願い致しましたところ、以下の様なご回答をお寄せ下さいました。また舘野先生はご質問の回答だけでなく樹木の開花についての一般的なことまで書いて下さいました。勉強になると思います。

舘野先生のご回答
 ご質問にあった植物のうちの落葉樹は雪が降る時期には葉を落として休眠しているはずなので、冬の降雪(あるいは降水量)をモニターすることはできないように思います。クリスマスローズは名前の通り、寒い時期に花をつけるのですが、花芽分化は東京で雪が降る前に終わっていると思いますので、雪によって花付きが変化する可能性は少ないと思います。
 せっかくなので、木本の開花についてもう少し一般的なことも書いておきましょう。木本の中には年ごとに花付きの異なる種が知られています。その中には、1)花付きは前年の天候によって決まる、2)仕組みはわからないが数年に一度だけ開花する、というものがあります。

 1)はスギが有名です。花芽は開花前年に形成されるのですが、開花前年の夏の天候が良好で光合成を盛んにできると花芽が多くなる傾向があります。

 2)はブナが有名です。開花するときは、かなり広い範囲のブナが一斉に開花します。花芽分化の引き金となる環境情報はまだわかっていません。生態学的には「花芽や種子を食べる捕食者のキャパシティー以上の花をつけることで、結実率を上げる」という仮説が提唱されています。開花しない年が何年もあると捕食者が激減し、開花する年には花を食べ尽くせなくなるというわけです。大多数の個体が開花しない年でもごく少数の個体が開花することがあります。その場合、種子は酷い食害にあうことが観測されています。とはいえ、この仮説が確かめられるにはもう少し時間がかかりそうです。

 ところで、一大事で花芽が分化する可能性についても考えてみましょう。以前からこの可能性は指摘されているのですが、科学的なテストはほとんどないように思います。日光のカラマツでの観察ですが、ある年に高さ5mほどの幼木が大量に結実し、翌年には枯れてしまいました。このような幼木は通常、花をつけることはないので、非常に驚きました。この場合には、もしかすると病気などが引き金となり、「死ぬ前に子孫を残す努力をしよう」ということになったのかもしれません。しかし、これも表面的な観察でしかないため、本当のところはわかりません。

 草本は寿命が短く、成長が速いため、実験に使いやすい植物です。そのため、花芽の形成などの研究は草本で行われてきました。その結果、草本ではかなりわかってきてはいるのですが、木本については不明な点がいまだに多いというのが研究の現状です。

舘野 正樹(東京大学付属日光植物園)
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2014-06-12
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