一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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エゾユズリハの葉はなぜ上限運動をするのか?

質問者:   会社員   Mt.moiwa
登録番号3080   登録日:2014-06-17
 5月下旬、野幌森林公園(北海道)で、エゾユズリハを見つけました。ちょうど新葉が開いていて、昨年出た葉の付け根につぼみがついていたので、花を咲かせようと家に持ち帰りました。
ちょうど5月下旬から6月上旬にかけて北海道は異常に暑く真夏並みの気温が続いていました。そんな条件のもとで、花瓶に活けておいたのですが、昼間は新葉が少し弱っている感じで水平より少し垂れ下がっているのです。採穂後2日程立っていたので、花瓶の中の水温も上がっていると思い、水を取り換えてやりました。その晩、その葉を見ると、ピンとほとんど真っすぐ上に立ち上がっているのです。やっぱり、水が古くなったことが原因と思ったのですが、その翌日以降も昼間は葉が垂れ下がり、夜になるとピンと立ち上がることを繰り返すのです。
 このようなことはなぜ起るのでしょうか? 水分が不足して萎れて回復するのなら、その現象は1回きりなのですが、毎日、それを繰り返すのです。その原因は、気温なのでしょうか、湿度なのでしょうか?それとも、夜になると葉を閉じるネムノキのように、生理的な作用が働いているのでしょうか?

よろしくお願いたします。
Mt.Moiwa さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
よく観察されていることに感服いたしました。花瓶に活けた切り枝でこのようなことが起こることはあまり耳にしませんが、茎切口からの吸水量と葉における蒸散量とのバランスが原因で起こったものと考えられます。葉が萎れるかぴんと張るかは葉に含まれる水の量が重要で、水が十分にあると細胞内の圧力(細胞が膨れる力、膨圧)が大きくなり、葉は張った状態になります。空気の抜けたタイヤと十分に空気で膨らんだタイヤの状態と同じ関係と考えてよいかと思います。
鉢植えの植物でも、土壌への水やりを止めると葉が萎れることはご存じのとおりですが、その状態にしばらく置くと萎れた葉も立ち上がってくることが知られています(インゲンとかダイズなどの幼植物で観察されています。ただし極端に水分不足がおきていればこのようなことは起こりません)。昼間、葉の中の水分は気孔から蒸散で失われていますが、通常は根の吸水量が十分に大きいので葉の膨圧は高く、きちんと張った状態に保たれます。しかし、土壌中の水分が少なくなると根の吸水量も減少して、蒸散で失われる水の量が大きくなり葉は萎れます。葉が萎れる(水ストレスを受ける)と気孔を閉じることに働くアブシシン酸という植物ホルモンが急速に合成されて昼間でも気孔が閉じます。その結果、蒸散量が減少し、根からの吸水量が相対的に大きくなるので再び葉は立ち上がると説明されています。
これと同じような現象が切り枝で見られたのでしょう。昼間は気孔が開いており、蒸散量が多い状態ですが、夜になると気孔は閉じる(気孔の開閉には光も重要です)ので蒸散量は少なくなります。一方、切り枝では茎の切口から吸水されますが、昼間は気孔からの蒸散量が少しばかり大きいので葉は垂れ下がった状態になったのでしょう。夜になると気孔が閉じますが吸水は葉の膨圧が回復するまでは続きますので水平に張ってくることになります。切り枝の場合、茎切り口からの吸水力は、気孔からの蒸散とその他体表面からの蒸発による枝全体の水不足によるものですので、気孔開度の微妙な変化が葉の膨圧を調節していることになります。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2014-06-19
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