一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉緑体

質問者:   教員   ヘロ
登録番号3104   登録日:2014-07-31
葉緑体の増殖(DNA)についての質問です。よろしくお願いします。
葉緑体は共生説を裏付けるように、独自のDNAをもっています。しかし、葉緑体で行われている光合成に係る遺伝子は多くが核に移行し、葉緑体に残っているのは、もともと共生したシアノバクテリアの遺伝子の一部にすぎないとありました。
では、葉緑体という構造物をつくる遺伝子はどこにあるのでしょうか。核のみにあって、葉緑体にある環状DNAはなくても、葉緑体は生成されるのでしょうか。細胞内の葉緑体の増殖の時にはどのDNAがつかわれているのでしょうか。また、葉緑体DNAそのものは必ず複製されているのでしょうか。
受精の時の卵細胞には葉緑体はあるようにみえず、ましてや、花粉管を移動してくる精細胞にもあるようには思えないですし、バイオテクノロジーによって植物体を作るときには、特に緑色の細胞からでなくても良かったような気がします。(違うかもしれませんが)
もし、葉緑体そのものが細胞とともに子孫にわたらなくてもいい場合、葉緑体DNAはどのように受け継がれているのでしょうか。
すみません。わからないことばかりで質問がまとまりませんが、よろしくお願いいたします。
ご質問をありがとうございます。
例えば、シアノバクテリアのDNA(ゲノム)にコードされるタンパク質の種類と真核生物の葉緑体DNAにコードされるタンパク質の種類の比較(生物種によりますが、後者は前者の約5%)、あるいは、葉緑体DNAにコードされるタンパク質の種類と葉緑体に存在するであろうタンパク質の種類の比較から予想されることは、葉緑体の機能が大きく核に依存していることです。具体例をあげると、光合成の中心機能である光化学反応中心を担うタンパク質複合体の場合、構成する主なサブユニットは葉緑体DNAにコードされていますが、複合体には核支配のサブユニットも含まれており、また、葉緑体コードのサブユニットの場合においてさえ、タンパク質が機能状態になるためには核コードのタンパク質(酵素)によるプロセッシングが不可欠なことがあります。ゲノムのサイズの比較から予想されるように、核による葉緑体の機能調節の仕組みは甚大で、多様です。しかし、葉緑体の構造と機能の発現には葉緑体DNAが不可欠であることも事実です。
葉緑体の増大と分裂の過程は、葉緑体側の事情と核からの指令に基づいて進行しますが、ここでは「新しい葉緑体が形作られる」のではなく、「既に存在する葉緑体が増大し、分裂する」ことになります。大きな構造体としては葉緑体の内外の包膜とチラコイド膜が目につきますが、これらを形作るための素材を作る遺伝子は核と葉緑体にあります。葉緑体の分裂には葉緑体DNAの分裂が先行しますので、分裂によってDNAが失われることはありません。
受精に際しては、細胞質を持ちこむ側の生殖細胞をとおして葉緑体DNAは子孫に受け継がれることになります。見かけ上クロロフィルを含んでいないように見える生殖細胞の細胞質にも葉緑体に相当する器官は含まれており、後になって分化します。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2014-08-05
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