一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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酢・クエン酸・アミノ酸を葉から吸収させる場合の、葉面微生物の影響を教えて下さい

質問者:   一般   農家
登録番号3127   登録日:2014-08-16
登録番号1369『糖は葉から吸収するのですか?』という質問とその回答を読みました。「葉面には様々な微生物がいて植物より先にそれを利用してしまう」ということで、昔、砂糖水をブドウの葉に散布して様々なカビを発生させた経験のある私にはとても納得できるQ&Aでした。ところで、農家が作物へ葉面散布する資材で、有機酸(食酢やクエン酸)、アミノ酸もよく聞く(私はどちらも試していません)のですが、単糖類・二糖類同様それらも栽培作物より先に作物葉面の微生物が利用してしまう可能性が高いでしょうか。それともう一点、市販のアミノ酸入り肥料の中にはタンパク質や細菌や酵母菌の菌体成分が多いと思われるものがありますが、そういう分子量の大きなものを葉面散布した場合、作物へ吸収もされず葉面の微生物に分解される前に雨風で葉からはがれ落ちるのでしょうか。
農家 様

本コーナーにご質問をありがとうございました。
葉面施肥の効果などについての調べに時間がかかり、回答文を差し上げるのが遅くなりました。最終的に、葉面上の微生物についてお詳しい岡山大学資源植物科学研究所の谷 明生先生から包括的な内容の回答文をいただきましたので、ご参考になさって下さい。

(谷先生からの回答文)
問題を整理して回答いたします。
1)単糖類、二糖類を葉面散布してどうなるか?
実際にやった例が、
(1)
http://ipcm.wisc.edu/blog/2011/06/do-foliar-applications-of-sugar-improve-soybean-yield/
(2)
http://cropwatch.unl.edu/archive/-/asset_publisher/VHeSpfv0Agju/content/5139314
(3)
http://farmprogress.com/story-spraying-corn-sugar-next-big-thing-15-108942
などと見つかります。
(1)と(2)では、それぞれダイズ、トウモロコシを使っていて、共に収量に効果がなかったと書いてあります。(3)では、トウモロコシに効果があったがダイズにはなかったとあります。品種や使った量、タイミングなどが違うのかもしれません。

2)アミノ酸を葉面散布してどうなるか?
(1)http://revista.uft.edu.br/index.php/JBB/article/viewFile/195/134
ブラジルでマメに使った見た結果では、全く効果がないとされています。
(2)http://ijagcs.com/wp-content/uploads/2013/09/2827-2830.pdf
ピスタチオではナッツ内のタンパク量が上がったが、他には全く効果がなかったとあります。

3)アミノ酸や有機酸の葉面散布と微生物の関係は?
葉面にいる微生物の組成は、大体分かってきています。人為的に培養すると、培養条件のバイアスがかかってしまい、本来の組成が変わってしまう危険性があります。そこで、葉面から微生物を全て取ってきて、ゲノムDNAを次世代シーケンサーで解読するという方法がとられた報告がいくつかあります。
(1)http://www.imls.uzh.ch/research/vonmering/publ/22189496.pdf
(2)http://www.pnas.org/content/106/38/16428
それで分かったことは、土壌や根圏に比べて葉面では、微生物の多様性が乏しく、そのうち10-20%がMethylobacterium属細菌、同じぐらいのSphingomonas属細菌で占められているということです。前者は、植物が葉面から放出しているメタノールを炭素・エネルギー源として利用でき、後者は逆に芳香族化合物など多様な炭素源を利用できますが、メタノールは利用できません。糖やアミノ酸・有機酸はこれらの菌にとっても利用しやすい炭素源なので、微生物が利用するのは間違いありません。どれぐらい利用されるかは、どれぐらいの量をまくかに依存すると思うので、やってみなければ分かりません。
この微生物の組成は、ダイズ、イネ、実験植物のシロイヌナズナで調べられたものであり、果樹などはデータがありません。葉から出る栄養分の組成が変われば、微生物の組成も変わると考えられます。また、メタノールはどのような植物も放出しています。メタノールを散布すると生長が良くなると言う報告もあります。
(3) 
http://pelagiaresearchlibrary.com/european-journal-of-experimental-biology/vol2-iss5/EJEB-2012-2-5-1697-1702.pdf
 が、否定的な報告もまたあります。
(4)
http://oregonstate.edu/dept/kbrec/sites/default/files/05_-_93potatomethanol_0.pdf

また、植物表面の微生物は植物の生長に大きな影響を与えますので、アミノ酸、糖類、有機酸の葉面散布による植物の生長促進は、「直接的な植物による取込ではなく、間接的に微生物が活性化したことによる」ということはあるかもしれません。また多くの場合、細菌は中性付近を生育至適pHとしますが、食酢やクエン酸の散布によって酸性に傾くと、酸に強い酵母やカビが生えやすくなる可能性があります。

4)タンパク質や細菌や酵母菌の菌体成分が多いと思われる肥料を葉面散布するとどうなるか?
分子量の大きなものは植物はそのまま利用するとは思えませんが、葉面の微生物によって分解され、低分子化されたものが微生物か植物に利用されるというのはあり得ると思います。雨風で剥がれ落ちるかどうかも、雨の量やタイミングに依ると思いますが、雨がなければいずれ微生物によって分解されると思います。

以上、直接の答えになっていないと思いますが、植物の種類や試す化合物、量、タイミングなど色んな事によって左右され得ると思います。農家の方が実際の現場で試してみないと分からないことが多いと思います。

谷 明生(岡山大学資源植物科学研究所-植物・微生物相互作用グループ)

JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2014-09-02