一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物ホルモンのジャスモン酸合成について

質問者:   大学生   まめ
登録番号3142   登録日:2014-09-07
植物ホルモンに関する書籍を読んでいて、ジャスモン酸の合成は葉緑体の膜脂質からαリノレン酸が遊離して始まり、葉緑体でODPAになり、その後ペルオキシソームに運ばれジャスモン酸になるとありました。その合成経路と合成酵素はよく見ますし理解出来たのですが、細胞膜からのαリノレン酸によりジャスモン酸が合成される可能性があるとも書いてありました。葉緑体に関与しないジャスモン酸の合成経路は存在するのでしょうか?
まめ さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ジャスモン酸の植物における機能及び生合成を研究されている名古屋大学の石黒澄衛先生に解答をお願いしました。
出発物質であるα-リノレン酸は細胞膜からも葉緑体膜からも生成されますのでどちら由来のα-リノレン酸が利用されるかが問題です。近年の突然変異体を利用した結果からは、葉緑体由来のα-リノレン酸だけがジャスモン酸の出発物質であることは間違いないことが明らかになってきました。細胞膜由来のα-リノレン酸は葉緑体に輸送されなければなりませんが、そのような輸送経路は今のところしられていません。古い教科書や参考書には細胞膜由来のα-リノレン酸も使われる可能性を指摘しているものもあるかもしれません。
以下、石黒先生はたいへん分かりやすく解説してくださいました。

【石黒先生の回答】

ご質問にもありますように、ジャスモン酸の生合成経路は(1)膜脂質からαリノレン酸を切り出すステップ、(2)αリノレン酸からOPDAまで変換するステップ、(3)OPDAをジャスモン酸に変換されるステップ、という三段階に分けられます。
(1)と(2)は葉緑体、(3)はペルオキシソームで行われると考えられています。また、(2)と(3)はいずれも連続したいくつかの酵素反応からなります。

これらの反応が細胞内のどこで起きるのかはどのようにして調べたのでしょうか。一つの方法は、各反応を触媒する酵素が細胞内のどこに局在しているかを実験で調べることです。たとえば(2)のステップで働くAOSという酵素について調べると、それは葉緑体のみに局在していることがわかりました。同様に(2)のステップで働く酵素はいずれも葉緑体に存在していたことから、このステップは葉緑体で行われていると結論づけられました。注意しなくてはいけないのは、AOSを介さないバイパス反応がないかどうかなのですが、AOSの遺伝子を破壊した植物ではジャスモン酸が全く作られなくなったことから、AOSはジャスモン酸生合成に必須の酵素であることがわかりました。つまり、AOSをバイパスする反応はなく、(2)のステップは葉緑体の外部では行われないことが確かめられたというわけです。(3)のステップがペルオキシソームで行われていることも同様の方法で証明されています。
では、(1)のαリノレン酸を切り出す反応についてはどうでしょうか。今のところこのステップも葉緑体の中で起きると考えられています。しかし、AOSの場合とは異なり、αリノレン酸を切り出す酵素(リパーゼ)の遺伝子は複数あるようで、まだその全てが同定されているわけではありません。もしかすると葉緑体の外にあるリパーゼによって細胞膜から切り出されたαリノレン酸がジャスモン酸生合成に使われるという場合もあるかもしれません。ただし、仮にそうだとしてもAOSをバイパスする経路はないわけですから、切り出されたαリノレン酸は葉緑体に運ばれて(2)に合流することになるのだと考えられます。

石黒 澄衛(名古屋大学生命農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2014-09-17
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