一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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落葉と気温の変化

質問者:   高校生   エネコログサ
登録番号3159   登録日:2014-10-11
なぜ、気温が下がると、落葉を促す植物ホルモンが分泌されるようになるのですか?植物は、どうやって気温の変化を感じ取っているのですか?
エネコログサ くん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
短い質問ですが、難しい問題なので長い回答になってしまいました。ゆっくり読んでください。

「なぜ、気温が下がると、落葉を促す植物ホルモンが分泌されるようになるのですか?」
落葉樹の葉が落ちる現象ではたくさんの研究があります。落葉はオーキシンとエチレンという2つの植物ホルモンのバランスでおきます。若い元気な葉は葉身でオーキシンを合成し、そのオーキシンは葉柄を通って茎から根へと送られています(オーキシンの極性移動)。晩夏から秋にかけて気温が低下すると光合成活性やその他の生化学反応が遅くなり、葉は次第に歳をとったような状態になります。老化と言いますが、老化が始まるとオーキシンの合成も遅くなり、やがて合成しなくなります。更に進むと葉緑体も分解されて緑色がなくなり、黄色になったり、アントシアニンが合成されて赤くなったりします(紅葉ですね)。葉身のオーキシン合成が止まり葉柄内のオーキシン濃度が低下すると葉柄の中に離層という特殊な細胞層が葉柄を横断するように出来はじめます。離層組織ではエチレンが出来はじめます。エチレンは離層細胞に働いて細胞と細胞の接着を弱める酵素の合成を促します。この酵素の働きで離層細胞間の接着が弱まって外力が加わると簡単に葉が離れてしまいます。気温が下がると老化が始まってオーキシン合成が止まり、離層組織でエチレン合成が始まるのが直接の原因の一つと考えられています。実験的に葉身側からオーキシンを与え続けると低温においても落葉しませんし、エチレンを与えると若い葉でも落葉します(エチレンはオーキシン極性移動を阻害し老化を促進する働きもありますので)。
葉の老化は気温の低下だけて始まるとは限りません。細胞、組織、器官は成長、成熟、老化の過程をたどりますがそれぞれの過程の長さは遺伝的に決められているようです。常緑樹も落葉します。ただ、落葉が一斉に起きるのではなくバラバラおきていつも緑色の葉があるので常緑となります。常緑樹の葉の寿命は普通1年以上で多くの葉は冬の低温を生き抜きます。葉が形成された後、成長、成熟、老化過程をたどるためある期間が経たつと老化が始まって落葉すると考えられています。

「どうやって気温の変化を感じ取っているのですか?」
とても難しい課題で何が、どうやって気温変化を感じているかはまだわかっていないことが多くあります。植物が温度の変化(温度差)を感じていることは間違いないことで、亜熱帯、熱帯地域に生育している植物を低温におくと生育が止まったり、枯死したりします。また、高山帯や高緯度地域に生育する植物は冬の低温を感知して氷点以下になっても死なないような準備をします。生化学反応の速さは温度に依存して変化しますが、光合成反応は生体膜系の中に組織化された酵素群の複合体で行われますので温度に特に敏感です。生体膜はリン脂質の分子が向かい合って平面に並んだ脂質分子の二重層でできていて膜の中にはいろいろなタンパク質、酵素類が組み込まれています。細胞膜、ミトコンドリア膜、葉緑体膜、液胞膜、小胞体膜などの組成は違いますが基本構造は同じなのでまとめて生体膜と言っています。このリン脂質二重層の脂質と組み込まれている機能タンパク質類は常に流れるように動いて(流動性があって)はじめて正常な働きをすることがわかっています。バターを低温におくと固くなるように、生体膜脂質も低温では固くなるので、流動性が悪くなり働きが悪くなります。寒い地方に生育する植物の生体膜脂質は低温でも固まりにくい脂質からできています。このような例は、生体膜脂質の組成の違いが温度を感知していると言えます。
しかし、これはほんの一例で、他の仕組みで温度を感知していると考えざるを得ない例があります。例えば、チューリップ、クロッカス、マツバボタンの花はある温度(20度くらい)以上になると開き、以下になると閉じます。花がくたびれない限り何度でも繰り返し温度に反応して開閉を繰り返します。秋まきコムギは秋に発芽した幼植物が冬の低温の間に花成反応がおきて春に花を咲かせます。多くの球根や冬芽、種子の休眠は低温で破られます。どのように温度を感知しているのか判りませんが共通していることは、温度変化が色々な生理的反応(生化学反応を含む)の速さや開始に影響していることです。現在このような温度感知の仕組みを解き明かそうと活発に研究がすすめられています。登録番号0413の解説はお役にたつと思います。参考にしてください。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2014-10-15
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