一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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イヌマキの胎生種子要件

質問者:   会社員   Sontyou
登録番号3160   登録日:2014-10-13
よく通る公園にイヌマキの木が数本あり,雌株が2本並んで植わっています.その雌株についている種子を観察していたところ,片方の木の種子は8月末頃より色付き始めたのですが,もう片方の種子はなかなか色付かず,ようやく9月末頃より色付きはじめた.そして10月初旬頃より,気がつくと後から色付き始めた雌株の種子に多くの胎生種子が見えるようになりました.
現在,初めに色付き始めた雌株の種子は熟したものはほとんどが既に地面に落ちてしまい,残っている種子の大半は未熟で干からびてしまっています.一方,後から色付き始めた雌株の種子は実の部分が未だ緑色のものでさえも胎生種子化しており,割合をしっかりとは確認していませんが,一見,ほとんどの種子が胎生種子化しているように見えます.
ネットで検索したところ,「胎生種子として樹の上にある状態で発芽する場合もある」との記載ですが,上記の如く,ほとんどが胎生種子化している木があります.
質問ですが,胎生種子化する要因は何なのでしょうか?今回の雌株に関しては恐らく季節(気温)が大きな要因となっているのではないかと考えていますが憶測の域を超えません.ご教授お願いいたします.
Sontyou様

ご質問どうも有難うございました。
名古屋大学・生物機能開発利用研究センターの服部束穂先生にご回答頂きました。



多くの植物の種子は休眠します。種子の休眠とは種子が完成しても、水分や生育に適切な温度が与えられるのみでは発芽しない状態のことを言います。休眠している種子が発芽するためには様々な条件が必要です。休眠を打ち破る条件は、光であったり、冬の低温であったり、種皮に傷が付くことであったり、植物種によって異なります。休眠という現象は、発芽後の植物の生育にとって適切な条件が整っていることを予測して発芽するという植物の生存戦略で、自生する環境に対する遺伝的適応が見られます。休眠の程度も植物種や遺伝的系統によって様々です。訊ねのイヌマキをはじめとする一部の植物種の種子では、このような休眠性を持たないために胎生発芽を示します。

さて、質問にある公園の2つ並んだイヌマキの雌株の間で、種子の熟し方や胎生発芽の有無に違い見られた理由です。質問から推察すると2本の木が隣り合って生育していることから環境条件は同じと思われます。すると2本の木は遺伝的に異なっている可能性が高いと思われます。そうであれば、毎年同じようなことが観察されると思います。休眠に直接関わるような遺伝子に違いがある場合もありますが、種子の色づきの時期が異なっていたことから、開花時期に影響する遺伝子の違いによるのかもしれません。休眠の程度は種子が形成されていく過程の環境(特に温度)にも影響されます。開花時期が異なっていたとすれば、この環境条件も異なってきます。また、後から熟した木の場合のほうが、成熟後の環境条件(温度や降雨による水分条件)が樹上の発芽に適していたのかもしれません。

遺伝的な違いがあっても環境条件によってその違いが形質としてはっきりみられたり、はっきりしなかったりすることもあり得ますが、毎年観察を続けられてはどうでしょうか。また、隣り合った2つの木について、本当に環境条件が同じかどうか、あるいは他に違う特徴がないかどうかについても注意深く観察されることもお勧めします。

服部 束穂(名古屋大学・生物機能開発利用研究センター)
JSPP広報委員
東山哲也
回答日:2014-11-10
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