一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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湿原の純生産量はなぜ大きいのでしょうか

質問者:   教員   えっちゃん
登録番号3164   登録日:2014-10-25
いつも質問コーナーで勉強させていただいています。高校の生物教員です。
生態系の物質生産についての質問をさせてください。
「湿原の単位面積当たりの純生産量は、さまざまな生態系の中でも最も大きく、物質生産力が大きい」と多くのテキストでは書かれていますが、なぜ湿原では純生産量が大きくなるのでしょうか?
 純生産量=総生産量-呼吸量ということから考えると、呼吸量が少ないということでしょうか??わかりやすく教えてください。どうぞよろしくお願いいたします。
えっちゃん様
 みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願い致しました所,以下の様な回答をお寄せ下さいました。お役に立つと思います。

寺島先生のご回答

純生産量=総生産量ー呼吸量ですから、まず総生産量を考えてみましょう。陸上の生態系では、植物の成長に適した光合成生産に都合のよい湿潤な環境では植物が繁茂し、高さを巡る競争が起こります。高さの競争を木本植物と草本植物をすれば木本植物が勝ちます。したがって植物の成長に適した湿潤な場所では木本植物が優占する生態系(あるいはバイオーム)となります。光合成には都合のよい環境なので総生産量は多いのですが、幹や根がしっかりしているので、死んだ細胞を多く含むとはいえ、呼吸量も多くなります。呼吸量/総生産量の比を考えてみましょう。大きな木本植物と草本植物を比べると、この比は木本植物で大きくなります。植物個体全体の重さと光合成器官の重さとの比率を考えると分かりやすいかもしれません。もちろん、樹木の幹の内部の心材部分や道管や仮道管は死んでいて呼吸はしませんが、それでも幹や根に生きている細胞が多いので、植物個体の(生きている部分)の重さと光合成器官の重さの比率も木本植物の方が大きいのです。湿潤で光合成の行いやすい場所では総生産量が多いので、呼吸量の多い木本植物でも純生産があげられるのですが、光合成が行いにくい、やや乾燥した場所では、総生産量が少なくなるのに呼吸量は多いので、純生産はマイナスになってしまいます。そういう場所には呼吸量/総生産量の小さい草本植物の草原が成立します。

木本植物が入ってこない湿原では、根や地下茎に通気組織を発達させた草本植物が、高い総生産量をあげることができます。また、草本植物ですから呼吸量/総生産量の比も小さくなります。これが温帯の湿原の純生産量が高い理由です。乾物量換算の生産量は熱帯多雨林の平均値が2kg m−2 year-1ですが、チェコやアメリカのヨシ、ガマ、イグサなどで3〜4 kg m-2 year−1の純生産の記録があります。日本でも、河川敷のオギ群落で2 kg m-2 year-1の測定例があります。冷温帯の湿地では総生産量が低下しますのでこれほど高くはありません。

寺島 一郎(東京大学)
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡弘郎
回答日:2014-11-05