質問者:
一般
斉藤
登録番号3167
登録日:2014-11-04
QTLについて「ゲノムレベルの遺伝解析 鵜飼保雄著」などを読みましたが、自分にとっては難しく理解できませんでした。みんなのひろば
QTLの原理について
そこで、QTLの原理についてわかりやすく教えていただきたいです。またQTLに関する参考書を教えていただければ幸いです。
斉藤様
ご質問どうも有り難うございました。
名古屋大学大学院生命農学研究科の芦刈基行先生に御回答頂きました。
【質的形質と量的形質】
生物の表現型(形質や性質)は遺伝要因と環境要因によって決まるわけですが、遺伝要因で決定される表現型には質的形質(Qualitative Trait)と量的形質(Quantitative Trait)があります。質的形質とはある形質が1つまたは2つ程度の、少数の遺伝子で決定されている形質で、メンデルが遺伝の法則の発見に至った7つの形質はすべて1つの遺伝子で決まる質的形質です。一方、量的形質とは複数の遺伝子の効果の総和によって支配されることが多い形質で、品種改良で重視される形質のほとんどが量的形質です。QTLの説明にはメンデルの法則と対比させるのが理解を助けると思いましたので、最初に少しだけ「メンデルの法則」の説明をしてQTLの説明に入りたいと思います。
【メンデルの法則】
メンデルは、「丸い種子」をつけるエンドウと「しわの種子」をつけるエンドウを交配し、雑種(F1)(丸い種子になります)を得て、それを自殖した世代(F2)を数多く育てて、種子の形質を調査しました。その結果、「丸い種子」と「しわの種子」をもつ個体が3:1の割合で「分離」しました。
エンドウは多くの生物と同じく、母親由来と父親由来の染色体を1セットずつ、合計2セット持っているので「丸」「しわ」に関わる遺伝子(対立遺伝子といいます)をそれぞれW、w(遺伝子型は伝統的に斜体で示されます)で表すとすると、「丸」の親の遺伝子型はWW、「しわ」の親の遺伝子型はwwで表されます。両者をかけ合わせたF1はWwと表され、F2ではWとwが雌性配偶子と花粉に別れ、両者が再度ランダムに出会うので、WW: Ww: wwの遺伝子型を持つ個体が1: 2: 1の比率で現れます。F1と同じ遺伝子型Wwの個体は「丸」になる(Wがwに対して優性である)ので、WW: Ww: ww = 1: 2: 1になるとき、丸:しわ = 3 (1+2): 1になります。
【量的形質とは?】
上記の様に、「丸」か「しわ」かというように、一見しただけで形質の差がはっきりと判別できるような質的形質は、誰がどんな環境で形質調査をしても間違いなく判別でき、遺伝も単純な3:1に分離します。しかし、種子の数や葉の長さなど、数を数えたり、ものさしやはかりで測ったりすることで得られる形質は、質的形質ほど単純ではありません。1つの植物体に1000個の種子を実らせるA植物と、2000個の種子を実らせるB植物があるとします。A植物とB植物の交配に由来するF2集団には、例えば1180粒、1350粒、1480粒、1530粒、1710粒、1880粒つける植物が分離してきます。これらの数値から、種子が「多い」とか「少ない」とかを明確に判別することは困難です。
この様に、数値で表される形質を「量的形質」と言います。量的形質の遺伝の根底にあるものはメンデルの法則ですが、効果の異なる複数の遺伝子によって支配されるため、その解析は大変困難でありましたが、この困難をなんとか解決しようとする努力がなされてきました。1980年代に分子マーカーが登場し、量的形質の解析が可能となりました。QTL解析(QTL=Quantitative Trait Loci:量的形質遺伝子座)とは、ある量的形質に関して、それに関与する遺伝子が、染色体のどこにあるのか?いくつあるのか?その効果は?といった疑問に答えるための遺伝学的分析手法です。量的形質を扱うのは「丸」「しわ」のように簡単ではないですが、メンデルの法則が役に立ちます。QTL解析の例を見てみましょう。
【お米の粒の数は量的形質】
多くの農業形質は量的形質です。たとえば、1株のイネに実るお米の数を考えましょう。品種「あさひ」では2000粒、品種「ひので」では1000粒実るものと仮定します。これらの品種を実際に育てると、どの個体も正確に2000粒とか1000粒とか実るわけではないことが簡単に想像できるでしょう。「あさひ」のなかには2010粒のものや1892粒のものがあるでしょうし、少し調子が悪ければ1500になったりするでしょう。そのようなばらつきがあることは「ひので」でも同様です。
このことから、量的形質の場合には、環境をどんなに制御しても抑えられない、本質的なばらつきが現れることが理解できます。しかし、これらの品種は平均するといつも差があるわけです。この差を決めているのは遺伝子です。どんな遺伝子なのか、知りたいですね。そこでQTL解析の出番です。ややこしそうですが、どんな遺伝子でも(イネには約3万の遺伝子があります)、遺伝子は1個1個を個別に見た場合はすべてメンデルの法則に従って遺伝します。
これらのことをふまえて、2000粒の「あさひ」と1000粒の「ひので」という品種を交配して、100個体からなるF2集団を得たとしましょう。個別の遺伝子はメンデルの法則通り、25: 50: 25(=1: 2: 1)に分離するとします(実際はそんなに正確ではないですが、だいたいそれくらいになります)。F2各個体に実るお米の数はどうでしょうか?お米の数は正確に2000や1000になるわけではないので、ある1個体を見ても、一目で「あさひ」型なのか、「ひので」型なのかはわからなさそうです。まずは100個体のF2それぞれのお米の数を数えます。実際には1000と2000の間にピークのある連続分布をとります。1000より少ない個体や2000より大きい個体も見られることもしばしばあります(超越分離といいます)。
個体それぞれがもつお米の数は、お米の数に関与する複数の遺伝子をどの組み合わせで保持しているかで決定されます。もう少し、具体的に説明すると、お米の数を決定する遺伝子がたとえば3つ(A、B、Cとします)あり、「あさひ」がもつ対立遺伝子を大文字のA、B、C、「ひので」がもつ対立遺伝子をa、b、cとします。交雑F2では、A、B、C、a、b、c、の様々な組み合わせの遺伝子型が生まれ(例えば、AAbbCC、AaBBCc、aaBbcc等々)、また、A、B、Cの3つの遺伝子のもつそれぞれの効果は異なり、さらに上で説明した本質的なばらつき(環境変異)もあるため、F2集団の表現型はお米の数が少ないものから多いものまで連続的になります。先に述べた超越分離ですが、F2の中には、両親以上にお米の数を多くする遺伝子(又は少なくする)の組み合わせを持った個体の出現が期待され超越分離の原因となります。QTL解析では、それぞれ異なる効果を持つ複数の遺伝子(上記の場合A、B、Cの3つの遺伝子)が、実際いくつあるのか?染色体のどこに座乗しているのか?を遺伝学的に推定します。
【DNAマーカーの登場】
1980年代のDNAマーカーの登場以前は、このような状況でQTLを明らかにすることは困難でした。現在では、DNAマーカーを使えば、F2各個体の染色体上の全ての遺伝子が、どちらの親から来たか(またはF1と同じ「ヘテロ」なのか)を調べることが可能です。QTL解析には、実際には3万の遺伝子全てではなく、染色体全体をとびとびで網羅するように、例えば200箇所ほど調べれば十分です。DNAマーカーは、遺伝子と同じ物質であるDNAを調べていますので、メンデル遺伝します。100個体で200箇所のDNAマーカーを調べると、100 x 200 = 20000箇所のDNAマーカーの「遺伝子型」を得ることになります。最新の技術では、1個体当たり数千~数万のDNAマーカーを得ることも可能です。
【QTL解析とは統計学の手法でQTLを探すこと】
やっとQTL解析ができる状況になりました。QTL解析とは、DNAマーカーと表現型(今の例ではお米の数)の間に関係がないかを調べる作業です。あるDNAマーカー(たとえば両親の「型」をそれぞれX, xで表します)を調べた場合に、100個体のF2集団では理論上、XX:Xx:xxがそれぞれ25個体、50個体、25個体現れるでしょう。XXである25個体を抜き出して、それらのお米の数の平均が1500粒、50個体あるXxの平均も1500粒、また25個体あるxxの平均も1500粒だった場合、DNAマーカーXはお米の数とは関係なさそうです。ほとんどのDNAマーカーではそうなります。一方、別のDNAマーカーY(y)を考えた場合、遺伝子型YYの個体の平均=1800、Yyの平均=1500、yyの平均=1200になった場合、YYとyyの遺伝子型とお米の数は差がありそうです。そこで、これらの平均値の差が意味のある違いなのか、すなわち遺伝子のせいなのかを調べるためには統計学が必要になります。その結果、もしこの差が偶然でない、確かに差があるのだ、とわかれば、DNAマーカーYの「そば」にQTLが存在するとみなします。「そば」というのは、同じ染色体の近い場所に、DNAマーカーYとQTLがある、遺伝学の用語では「連鎖」している、という意味です。
【QTLの根底にある遺伝子はメンデルの遺伝子と同じ】
QTLというのは統計学上の「因子」ですが、個々のQTLにひそむ遺伝子はメンデルの遺伝子と本質的に同じモノであり、「丸」「しわ」を決める遺伝子と全く同じ様式で遺伝します。しかしながら、二つの理由から、表面的には異なってみえます。ひとつは、一つの交雑で2箇所以上のQTLが検出されることがあることです。
3個や5個の場合も珍しくありません。それらのいくつかが、お米の数を増やす方向に働く遺伝子、逆にお米の数を減らす方向に働く遺伝子であったりします。もう一つは、量的形質が本質的にばらつきを持っており、環境の影響を受けやすい点です。DNAマーカーのおかげで、これらの「ばらつきの要因」を正確に計算できるようになりました。また、QTLは量的形質遺伝子座(ある染色体のある領域にある因子)であるわけですが、現在では、精密な分析を行えば、QTLの原因を1つの遺伝子として特定することも可能になっています。
農業形質の多くは量的形質であるため、 QTL解析によって形質を支配する遺伝子座を同定することは育種を行う上で大変役立ちます。現在では、QTL解析によって明らかになった遺伝子座をDNAマーカーによって効率良く選抜する手法が既に実用化され、イネなどの品種改良の現場で利用されています。
日本語でQTL解析を説明した資料は少なくどれも少し難解ですね。平易に書かれている参考書を存知あげません。
芦苅 基行(名古屋大学大学院生命農学研究科)
松永幸大(JSPP広報委員長)
ご質問どうも有り難うございました。
名古屋大学大学院生命農学研究科の芦刈基行先生に御回答頂きました。
【質的形質と量的形質】
生物の表現型(形質や性質)は遺伝要因と環境要因によって決まるわけですが、遺伝要因で決定される表現型には質的形質(Qualitative Trait)と量的形質(Quantitative Trait)があります。質的形質とはある形質が1つまたは2つ程度の、少数の遺伝子で決定されている形質で、メンデルが遺伝の法則の発見に至った7つの形質はすべて1つの遺伝子で決まる質的形質です。一方、量的形質とは複数の遺伝子の効果の総和によって支配されることが多い形質で、品種改良で重視される形質のほとんどが量的形質です。QTLの説明にはメンデルの法則と対比させるのが理解を助けると思いましたので、最初に少しだけ「メンデルの法則」の説明をしてQTLの説明に入りたいと思います。
【メンデルの法則】
メンデルは、「丸い種子」をつけるエンドウと「しわの種子」をつけるエンドウを交配し、雑種(F1)(丸い種子になります)を得て、それを自殖した世代(F2)を数多く育てて、種子の形質を調査しました。その結果、「丸い種子」と「しわの種子」をもつ個体が3:1の割合で「分離」しました。
エンドウは多くの生物と同じく、母親由来と父親由来の染色体を1セットずつ、合計2セット持っているので「丸」「しわ」に関わる遺伝子(対立遺伝子といいます)をそれぞれW、w(遺伝子型は伝統的に斜体で示されます)で表すとすると、「丸」の親の遺伝子型はWW、「しわ」の親の遺伝子型はwwで表されます。両者をかけ合わせたF1はWwと表され、F2ではWとwが雌性配偶子と花粉に別れ、両者が再度ランダムに出会うので、WW: Ww: wwの遺伝子型を持つ個体が1: 2: 1の比率で現れます。F1と同じ遺伝子型Wwの個体は「丸」になる(Wがwに対して優性である)ので、WW: Ww: ww = 1: 2: 1になるとき、丸:しわ = 3 (1+2): 1になります。
【量的形質とは?】
上記の様に、「丸」か「しわ」かというように、一見しただけで形質の差がはっきりと判別できるような質的形質は、誰がどんな環境で形質調査をしても間違いなく判別でき、遺伝も単純な3:1に分離します。しかし、種子の数や葉の長さなど、数を数えたり、ものさしやはかりで測ったりすることで得られる形質は、質的形質ほど単純ではありません。1つの植物体に1000個の種子を実らせるA植物と、2000個の種子を実らせるB植物があるとします。A植物とB植物の交配に由来するF2集団には、例えば1180粒、1350粒、1480粒、1530粒、1710粒、1880粒つける植物が分離してきます。これらの数値から、種子が「多い」とか「少ない」とかを明確に判別することは困難です。
この様に、数値で表される形質を「量的形質」と言います。量的形質の遺伝の根底にあるものはメンデルの法則ですが、効果の異なる複数の遺伝子によって支配されるため、その解析は大変困難でありましたが、この困難をなんとか解決しようとする努力がなされてきました。1980年代に分子マーカーが登場し、量的形質の解析が可能となりました。QTL解析(QTL=Quantitative Trait Loci:量的形質遺伝子座)とは、ある量的形質に関して、それに関与する遺伝子が、染色体のどこにあるのか?いくつあるのか?その効果は?といった疑問に答えるための遺伝学的分析手法です。量的形質を扱うのは「丸」「しわ」のように簡単ではないですが、メンデルの法則が役に立ちます。QTL解析の例を見てみましょう。
【お米の粒の数は量的形質】
多くの農業形質は量的形質です。たとえば、1株のイネに実るお米の数を考えましょう。品種「あさひ」では2000粒、品種「ひので」では1000粒実るものと仮定します。これらの品種を実際に育てると、どの個体も正確に2000粒とか1000粒とか実るわけではないことが簡単に想像できるでしょう。「あさひ」のなかには2010粒のものや1892粒のものがあるでしょうし、少し調子が悪ければ1500になったりするでしょう。そのようなばらつきがあることは「ひので」でも同様です。
このことから、量的形質の場合には、環境をどんなに制御しても抑えられない、本質的なばらつきが現れることが理解できます。しかし、これらの品種は平均するといつも差があるわけです。この差を決めているのは遺伝子です。どんな遺伝子なのか、知りたいですね。そこでQTL解析の出番です。ややこしそうですが、どんな遺伝子でも(イネには約3万の遺伝子があります)、遺伝子は1個1個を個別に見た場合はすべてメンデルの法則に従って遺伝します。
これらのことをふまえて、2000粒の「あさひ」と1000粒の「ひので」という品種を交配して、100個体からなるF2集団を得たとしましょう。個別の遺伝子はメンデルの法則通り、25: 50: 25(=1: 2: 1)に分離するとします(実際はそんなに正確ではないですが、だいたいそれくらいになります)。F2各個体に実るお米の数はどうでしょうか?お米の数は正確に2000や1000になるわけではないので、ある1個体を見ても、一目で「あさひ」型なのか、「ひので」型なのかはわからなさそうです。まずは100個体のF2それぞれのお米の数を数えます。実際には1000と2000の間にピークのある連続分布をとります。1000より少ない個体や2000より大きい個体も見られることもしばしばあります(超越分離といいます)。
個体それぞれがもつお米の数は、お米の数に関与する複数の遺伝子をどの組み合わせで保持しているかで決定されます。もう少し、具体的に説明すると、お米の数を決定する遺伝子がたとえば3つ(A、B、Cとします)あり、「あさひ」がもつ対立遺伝子を大文字のA、B、C、「ひので」がもつ対立遺伝子をa、b、cとします。交雑F2では、A、B、C、a、b、c、の様々な組み合わせの遺伝子型が生まれ(例えば、AAbbCC、AaBBCc、aaBbcc等々)、また、A、B、Cの3つの遺伝子のもつそれぞれの効果は異なり、さらに上で説明した本質的なばらつき(環境変異)もあるため、F2集団の表現型はお米の数が少ないものから多いものまで連続的になります。先に述べた超越分離ですが、F2の中には、両親以上にお米の数を多くする遺伝子(又は少なくする)の組み合わせを持った個体の出現が期待され超越分離の原因となります。QTL解析では、それぞれ異なる効果を持つ複数の遺伝子(上記の場合A、B、Cの3つの遺伝子)が、実際いくつあるのか?染色体のどこに座乗しているのか?を遺伝学的に推定します。
【DNAマーカーの登場】
1980年代のDNAマーカーの登場以前は、このような状況でQTLを明らかにすることは困難でした。現在では、DNAマーカーを使えば、F2各個体の染色体上の全ての遺伝子が、どちらの親から来たか(またはF1と同じ「ヘテロ」なのか)を調べることが可能です。QTL解析には、実際には3万の遺伝子全てではなく、染色体全体をとびとびで網羅するように、例えば200箇所ほど調べれば十分です。DNAマーカーは、遺伝子と同じ物質であるDNAを調べていますので、メンデル遺伝します。100個体で200箇所のDNAマーカーを調べると、100 x 200 = 20000箇所のDNAマーカーの「遺伝子型」を得ることになります。最新の技術では、1個体当たり数千~数万のDNAマーカーを得ることも可能です。
【QTL解析とは統計学の手法でQTLを探すこと】
やっとQTL解析ができる状況になりました。QTL解析とは、DNAマーカーと表現型(今の例ではお米の数)の間に関係がないかを調べる作業です。あるDNAマーカー(たとえば両親の「型」をそれぞれX, xで表します)を調べた場合に、100個体のF2集団では理論上、XX:Xx:xxがそれぞれ25個体、50個体、25個体現れるでしょう。XXである25個体を抜き出して、それらのお米の数の平均が1500粒、50個体あるXxの平均も1500粒、また25個体あるxxの平均も1500粒だった場合、DNAマーカーXはお米の数とは関係なさそうです。ほとんどのDNAマーカーではそうなります。一方、別のDNAマーカーY(y)を考えた場合、遺伝子型YYの個体の平均=1800、Yyの平均=1500、yyの平均=1200になった場合、YYとyyの遺伝子型とお米の数は差がありそうです。そこで、これらの平均値の差が意味のある違いなのか、すなわち遺伝子のせいなのかを調べるためには統計学が必要になります。その結果、もしこの差が偶然でない、確かに差があるのだ、とわかれば、DNAマーカーYの「そば」にQTLが存在するとみなします。「そば」というのは、同じ染色体の近い場所に、DNAマーカーYとQTLがある、遺伝学の用語では「連鎖」している、という意味です。
【QTLの根底にある遺伝子はメンデルの遺伝子と同じ】
QTLというのは統計学上の「因子」ですが、個々のQTLにひそむ遺伝子はメンデルの遺伝子と本質的に同じモノであり、「丸」「しわ」を決める遺伝子と全く同じ様式で遺伝します。しかしながら、二つの理由から、表面的には異なってみえます。ひとつは、一つの交雑で2箇所以上のQTLが検出されることがあることです。
3個や5個の場合も珍しくありません。それらのいくつかが、お米の数を増やす方向に働く遺伝子、逆にお米の数を減らす方向に働く遺伝子であったりします。もう一つは、量的形質が本質的にばらつきを持っており、環境の影響を受けやすい点です。DNAマーカーのおかげで、これらの「ばらつきの要因」を正確に計算できるようになりました。また、QTLは量的形質遺伝子座(ある染色体のある領域にある因子)であるわけですが、現在では、精密な分析を行えば、QTLの原因を1つの遺伝子として特定することも可能になっています。
農業形質の多くは量的形質であるため、 QTL解析によって形質を支配する遺伝子座を同定することは育種を行う上で大変役立ちます。現在では、QTL解析によって明らかになった遺伝子座をDNAマーカーによって効率良く選抜する手法が既に実用化され、イネなどの品種改良の現場で利用されています。
日本語でQTL解析を説明した資料は少なくどれも少し難解ですね。平易に書かれている参考書を存知あげません。
芦苅 基行(名古屋大学大学院生命農学研究科)
松永幸大(JSPP広報委員長)
芦苅 基行(名古屋大学大学院生命農学研究科)
回答日:2014-11-25