小田桐さん：

北米大陸南西部の「荒野」をCGで再現するための資料調査はたいへんだと思います。 植物生態・分布に詳しい大阪大学の寺島一郎先生、基礎生物学研究所の塚谷裕一先生から頂いた情報を参考にしつつ、何度かアメリカ南西部を走り回った経験からお答えします。

アメリカ南西部、特にモニュメントバレー近辺の景観となると、ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の映画「駅馬車 Stagecoarch」の描写は大いに参考になります。モニュメントバレーの観光名所Monument Valley Navajo Tribal Parkがロケーションの地となっているからです。この映画をご覧になれば景観のイメージを掴むことができると思います。他にもここをロケ地とする映画はあると思います。
アメリカ南西部のコロラド台地は砂岩、石灰岩の地層が主で、コロラド川と長年の風雨に浸食されて特異な景観を作っています。これらの岩石は赤、青、黄色、緑など多彩な色をしています。アリゾナ州中部から北へ「ペインテッド・デザート」と呼ばれるほど多彩な色をしており、モニュメントバレー付近の岩石はほとんどが黄褐色から赤褐色に色づいています。この付近はいわゆ"Cold Desert"と呼ばれ、"WarmDesert"であるアリゾナ州南部、カリフォルニア州東部、南部にまたがるSonoran Desert, Chihuahuan Desert, Mojave Desertと違って冬季に長期間の凍結期間があります。少ない降雨、灼熱の太陽、夜間の凍結、崩れやすい地層などが原因となって植相は貧弱で、植物は景観の中では脇役にもなっていないものです。それでも、ビュート（Butte）と呼ばれる浸食されずに残った巨大な岩塊の麓には小さなイネ科の叢生植物、キク科のヨモギの仲間（Artemisia属）やノボロギクの仲間（Senecio属）、ハマビシ科のクレオーソートブッシュ（Creosote bush、Larrea属）、ハマアカザ科のソールトブッシュ（Saltbush、Atriplex属）、低高木としてはマメ科のメスキート
（Mesquite, Prosopis属）などが見られます。これらの特徴は、比較的肉厚の葉は小さく、白っぽく見え、瑞々しさのないことでしょう。モニュメントバレー付近には、他の砂漠地域（南のソノーラ砂漠、西のモヘーブ砂漠）に見られるようなサボテン類、ユッカ類はあまり見あたらず、景観がまったく違うものです。

このような地域ですから、市販の資料といえば観光資料かアメリカ原住民の歴史、生活、習慣、宗教の解説書、アメリカ砂漠植物相の専門書などとなります。それ以外にはインターネットで調べるとたくさんのサイトがあります。例えば「Monument Valley」で調べると代表的な写真が見られますしユタ州、アリゾナ州の公式サイトからもかなりの情報が得られます。それらの写真や解説を注意深く見ればそれなりのイメージが掴めるでしょうが、あの広大で荒涼たる大地、そこにそびえる奇怪な岩塊の形、朝日、夕日に映える色の変化などから受ける印象は現地でなければ得られないものです。春・夏か秋・冬か、昼か夜か、朝か夕方か、晴か曇か、によって印象はまるで違います。

参考資料
Indian Lands Ray Manley Photography, Inc. 発行
238 S. Tucson Blvd, Tucson, Arizona 85716 写真集

ARIZONA The Grand Canyon State Steven L. Walker 著
CANYONLANDS 4999 E. Empire Avenue, Flagstaff, Arizona 86004 発行
アリゾナ州内国立公園などの写真と地域の解説

Insight Guide NATIVE AMERICA APA Insight Guide
Worldwide distribution は
Hofer Communication Pte Ltd.
38 Joo Koon Road, Singapore 2262.
各地のアメリカ原住民の歴史、文化、宗教などの解説書
各保留地の景観などについての解説もある。

Stan D. Smith，R.K. Monson, J.E. Anderson (1997)
Physiological Ecology of North American Plants, Springer Berlin