質問者:
自営業
タツヤ
登録番号3184
登録日:2014-11-13
こんにちは。ヤドリギの光合成
ヤドリギをひょんな事から実際に触る事がありました。葉を触ると簡単に折れました。あの肉厚の葉は水分をずいぶんと含んでいると思うのですが、そうなると多肉植物を言ってよいかと思います。多肉植物の定義を調べると、『葉や茎や根が肥大化・多肉質化して水分を蓄えられるようになった、乾燥に強い植物のこと』とあります。
質問.1ヤドリギは多肉植物と言ってよいのでしょうか?
多肉植物といえば光合成方式はCAM型になるものが多いと思います。ヤドリギは小低木常緑樹に分類されているので、てっきりC4型と思い込んでました。
質問.2 ヤドリギの光合成の型はどれなのでしょう?
以上2点です。
よろしくお願いします。
タツヤ 様
ご質問をありがとうございます。
ヤドリギは興味ある植物ですね。この種の生物間関係においては、宿主からどのような栄養物が寄生植物に渡され、逆に、宿主がどのような栄養物などの供給を受けているかに関心がもたれますね。今回は、ご質問を受けている二つの問題に限定して回答させていただきます。回答文は、理化学研究所の篠原健司博士のご協力のもと、森林植物の生理生態にお詳しい宮澤真一博士(森林総合研究所)がご用意して下さいまましたので、参考になさっって下さい。なお、本コーナーにはヤドリギに関するQ/A(例えば、登録番号2460)がございますので、そちらの方もご参考になさって下さい。
-宮澤博士からの回答-
(質問1への回答)ご指摘のように、ヤドリギ(Viscum album)は多肉質の葉を有しています。また、ヤドリギの1種(Loranthus europaeus)も多肉質の葉を有し、貯水機能を示すことが報告されています(Glatzel & Gale 2009, Botany)。また、オオバヤドリギ(Scurrula yadoriki)は宿主よりも膨圧(植物細胞内に浸透した水によって細胞壁に加わる圧力)を高く維持できる耐乾性の強い葉を持ち、宿主から水分や養分の獲得を可能にしているという国内研究もあります。一般的に、多肉植物はサボテン科やベンケイソウ科など特定の科に属する植物を指すことが多く、通常ヤドリギは多肉植物として扱われることはありません。
(質問2への回答)一般的に、ヤドリギの光合成型はC3と考えられています。光合成型を見分けるためには、葉に放射性炭素でラベルされたCO2(14CO2)を短時間与え、14Cでラベルされた葉の代謝物の種類や消長を調べる方法が最も正確と思われます。しかし、ヤドリギに関しては、このような詳細な実験はなされていないようです。最近では、植物体の炭素安定同位体比から、光合成型を判断する手法がよく使われます。空気中には質量数の小さい炭素(つまり軽い炭素)を含むCO2(12CO2)と、質量数の大きい炭素(重い炭素)を含むCO2(13CO2)が混在しています。C3植物の初期炭酸固定酵素であるリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco、ルビスコ)は13CO2よりも12CO2を好む性質があります。一方で、C4植物の初期炭酸固定酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC、ペップシーと読む)にはこのような選り好みはほとんどありません。つまり、質量分析装置などによって植物体の炭素安定同位体比を調べれば、植物の光合成型がC3なのか、C4なのかを比較的簡単に推察できます(ちなみに、CAMの炭素安定同位体比はC3とC4の測定値にオーバーラップしており、区別は困難です)。現在までに、様々な種類のヤドリギについて、葉の炭素安定同位体比が調べられてきました。その結果、成熟した葉の炭素安定同位体比は、C3光合成でみられる炭素安定同位体比の値に近いことが確認されています。また、夜間に気孔を開くCAMとは異なり、ヤドリギは昼間に気孔を大きく開く傾向があります。このような葉の炭素安定同位体や気孔の開き具合から、ヤドリギの光合成型はC3と考えられています。
宮澤 真一(森林総合研究所・生物工学研究領域)
佐藤公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
ご質問をありがとうございます。
ヤドリギは興味ある植物ですね。この種の生物間関係においては、宿主からどのような栄養物が寄生植物に渡され、逆に、宿主がどのような栄養物などの供給を受けているかに関心がもたれますね。今回は、ご質問を受けている二つの問題に限定して回答させていただきます。回答文は、理化学研究所の篠原健司博士のご協力のもと、森林植物の生理生態にお詳しい宮澤真一博士(森林総合研究所)がご用意して下さいまましたので、参考になさっって下さい。なお、本コーナーにはヤドリギに関するQ/A(例えば、登録番号2460)がございますので、そちらの方もご参考になさって下さい。
-宮澤博士からの回答-
(質問1への回答)ご指摘のように、ヤドリギ(Viscum album)は多肉質の葉を有しています。また、ヤドリギの1種(Loranthus europaeus)も多肉質の葉を有し、貯水機能を示すことが報告されています(Glatzel & Gale 2009, Botany)。また、オオバヤドリギ(Scurrula yadoriki)は宿主よりも膨圧(植物細胞内に浸透した水によって細胞壁に加わる圧力)を高く維持できる耐乾性の強い葉を持ち、宿主から水分や養分の獲得を可能にしているという国内研究もあります。一般的に、多肉植物はサボテン科やベンケイソウ科など特定の科に属する植物を指すことが多く、通常ヤドリギは多肉植物として扱われることはありません。
(質問2への回答)一般的に、ヤドリギの光合成型はC3と考えられています。光合成型を見分けるためには、葉に放射性炭素でラベルされたCO2(14CO2)を短時間与え、14Cでラベルされた葉の代謝物の種類や消長を調べる方法が最も正確と思われます。しかし、ヤドリギに関しては、このような詳細な実験はなされていないようです。最近では、植物体の炭素安定同位体比から、光合成型を判断する手法がよく使われます。空気中には質量数の小さい炭素(つまり軽い炭素)を含むCO2(12CO2)と、質量数の大きい炭素(重い炭素)を含むCO2(13CO2)が混在しています。C3植物の初期炭酸固定酵素であるリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Rubisco、ルビスコ)は13CO2よりも12CO2を好む性質があります。一方で、C4植物の初期炭酸固定酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC、ペップシーと読む)にはこのような選り好みはほとんどありません。つまり、質量分析装置などによって植物体の炭素安定同位体比を調べれば、植物の光合成型がC3なのか、C4なのかを比較的簡単に推察できます(ちなみに、CAMの炭素安定同位体比はC3とC4の測定値にオーバーラップしており、区別は困難です)。現在までに、様々な種類のヤドリギについて、葉の炭素安定同位体比が調べられてきました。その結果、成熟した葉の炭素安定同位体比は、C3光合成でみられる炭素安定同位体比の値に近いことが確認されています。また、夜間に気孔を開くCAMとは異なり、ヤドリギは昼間に気孔を大きく開く傾向があります。このような葉の炭素安定同位体や気孔の開き具合から、ヤドリギの光合成型はC3と考えられています。
宮澤 真一(森林総合研究所・生物工学研究領域)
佐藤公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
宮澤 真一(森林総合研究所・生物工学研究領域)
回答日:2014-11-25