一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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菌類と共生しないコケ

質問者:   一般   ぴら
登録番号3195   登録日:2014-12-06
コケの講座で菌類との共生の解説を聞きました。

コケは種類によって共生する菌類の種類が異なり、裸地に生えるコケは接合菌や子嚢菌と共生していて、樹幹着生のコケは菌類と共生しないとのことでした。
また、「菌類と共生関係にある植物は菌類からの制約を受けている。よって共生関係から解放された樹幹着生のコケは、爆発的に種分化が進む」という説明もありました。

私が疑問に思ったのは、「裸地のコケが菌類と共生しているのに、樹幹着生のコケが菌類と共生しないのは、コケが生える場所によって菌類との関係が違ってくるのだろうか?」ということです。

次に、「コケが菌類と共生するメリットよりも、菌類から解放されるメリットの方が大きいから、共生関係がなくなると種分化が進むのだろうか?」ということです。

以上二点の質問です。よろしくお願いします。
ぴら様

ご質問頂きどうも有難うございました。
佐賀大学農学部応用生物科学科の辻田有紀先生に御回答頂きました。


 植物と菌類との共生関係は実に多様ですが、今回のご質問は植物と菌類がお互いに栄養分を与え合う菌根共生という共生タイプだと推察致しましたので、以下菌根共生系の視点でご質問にお答え致します。
植物の多くは菌根菌と呼ばれる菌類と共生関係をもち、植物が光合成で得た有機炭素(いわゆる糖分)を菌類へ受け渡すかわりに菌類は植物へリンや窒素などの栄養分を受け渡し、両者はお互い持ちつ持たれつの共生関係にあります。しかし、中には菌根菌へ栄養分の供給を頼らずに暮らせるように進化した植物もおり、これらは非菌根性植物とよばれています。着生植物や水生植物の多くは非菌根性植物であると考えられています。植物と菌根共生を構築できる菌類は、その多くが土壌で暮らしている菌類ですので、樹上や水中では共生関係を築くのが難しいため非菌根性植物の方が有利であると考えられています。
また、コケ植物ではタイ類は多くが菌根菌と共生しておりますが、一方でセン類は非菌根性の系統を多く含むと言われております。ただ、世界中のコケ植物について詳しく調べた文献がないので、あくまで現在での見解です。
動物のように動くことができない植物は、その場で出会った菌類と共生関係を築きます。場所によってそこに生育する菌類の種類も異なりますので、同じ種類の植物でも生えた場所によって共生している菌類の種類は違います。ほとんどの植物は、多様な種類の菌類と共生関係を築くことができますので、その場で出会った自分に合う菌類と共生関係を構築していると考えられています。
 樹上では、土壌に暮らす菌類と共生関係を構築するのは難しく、非菌根性植物が有利であるため種分化が進むことは十分考えられます。
ただし、最新の研究では、着生しているシダ植物も菌根菌と共生している場合があると報告されており、今後検討が必要な課題です。また、ラン科植物は樹上に着生する着生ランの多くが菌根菌と共生しており、必ずしもすべての植物にあてはまる傾向ではありません。

辻田 有紀(佐賀大学農学部応用生物科学科)

JSPP広報委員長
松永幸大
回答日:2014-12-15
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