一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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果樹(樹木)は、なぜ好アンモニア植物が多いとされているのか?

質問者:   会社員   小川と塩
登録番号3196   登録日:2014-12-08
果樹農家に肥料を進める際、アンモニア態窒素の肥料を進めております。
しかし、冬になるにつれて、野菜と同じ考えでは硝酸態窒素のほうが効きやすいじゃないかと考えることがあります。
果樹(樹木)の品種差もあるとは思いますが、なぜ果樹(樹木)は好アンモニア植物が多いのでしょうか、よろしくお願いいたします。
小川と塩さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問は果樹研究所の井上先生にお願いしましたところ、以下のような詳しい解説をいただきました。対象とする作物や施肥濃度、栽培環境、時期によっていろいろ異なるようです。

【井上先生のお答え】
 果樹では好アンモニア性植物が多いとされている、というのは誤解があるように思います。果樹の中でもブルーベリー等のベリー類は好アンモニア性植物とされていますが、他の樹種では好アンモニア性植物とはされていないのではないでしょうか。
 ブルーベリーの場合、低濃度であればアンモニア態窒素、硝酸態窒素ともに吸収できるのですが、高濃度の硝酸態窒素を与えると生育障害が現れるため、好アンモニア性植物と考えられています。
 一方、肥料についての考え方は別です。畑作物では一般的に硝酸態の窒素よりもアンモニア態の窒素(尿素、硫安など)で施肥されますが、それは、硝酸態の窒素肥料を畑にまくと、雨が降ったらすぐに溶脱してしまうからです。アンモニア態窒素であれば、いったん土壌中の粘土表面にくっつくので(粘土表面はマイナスの電気に対しアンモニア態窒素はプラスイオンなので電気的に引き寄せられる)、硝酸態窒素よりも溶脱の危険性が低く、植物に利用される可能性が高くなります(肥料利用率の向上)。そのため、果樹においても一般的には窒素肥料としてはアンモニア態窒素が使われます。
 冬の話が出てきましたが、冬季の間、落葉果樹(リンゴ、ニホンナシ、モモなど)では休眠の時期ですので肥料はほとんど吸収できません。アンモニア態、硝酸態に関わらず、肥料は必要ありません。しかしながら多くの落葉果樹では冬に元肥を与えることが多いのが実情です。
 冬の元肥を与えることとなった理由の一つは、果樹の根域は深いところにあり、冬に肥料をまくことで、冬の間に根域に広く肥料がいきわたり、春になって肥料が吸収できるとの考え方があったからだと思います。しかしながら土壌の物理性が良好で水はけがいい土壌(果樹栽培に求められる土壌)だと、冬に与えた窒素肥料は、アンモニア態窒素肥料であっても春までに大部分が溶脱することが、いくつかの研究事例から知られています。すなわち冬に元肥として窒素肥料を与えるのは無駄が多いといえます。そこで、今後は冬の元肥をやめ、春にこれ
までよりも少ない施肥量で元肥を行う施肥体系になるように、研究を進めているところです。

井上 博道(農研機構 果樹研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2014-12-15
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