質問者:
その他
ESU
登録番号3238
登録日:2015-03-19
植物園の池に植えられた、アダンという植物を調べていたら、固い鋸歯のある長い葉の、「主脈」の裏に、トゲが並んでいることが分かりました。トゲの方向
1、主脈の裏にトゲ、これはよくあることでしょうか?
2、そのトゲの向きが、葉の付け根の方は、付け根の方を向いています。葉の先端の方は、先端向きに曲がっています。ところが、一部、中央付近では、向きが、交互に並んでいるのです。
いったい、どういうメリットがあるのでしょうか。
トゲというのは、虫などを寄せ付けないための、自衛手段と思うのですが、交互に配列されるのが、謎です。
ESUさま
みんなにひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を熱帯の植物に詳しい東京大学の塚谷裕一先生にお願い致しましたところ、先生のご経験を踏まえた回答をお寄せ下さいました。塚谷先生がお薦めしておられるようにアダンの群落の中を歩いてみて下さい。
【塚谷先生からのご回答】
ESUさん、
質問をありがとうございます。
アダンを含むタコノキの仲間は、熱帯を中心にものすごい種数があるのですが、みなたいがい葉に刺があります。アダンは海浜性の種類なのでかなりごつい姿に育ちますが、森の中に暮らす種類では、より枝が細いものが多く見られます。枝分かれせずに巨大な葉をつくり、太い茎を一本だけ短く立てるものもあります。地面に生えるばかりでなく、木の上に着生する種類もあります。熱帯に行くとどこに行っても何かしらの種類が見られる、とても繁栄したグループです。
いずれにせよこうした種類が茂みになっているところを通ろうとすると、しばしば葉の先や茎の刺がひっかかって、帽子が後ろに取られたり、服を刺に引っ張られて動けなくなったりします。
なので、現地の人たちはそういう場面に出くわすと、魔女が森にいて「行かないで」とやっているのだと笑います。1回くらいならともかく、何度もそういう目にあうと嫌になりますから、そういう茂みに出くわすと、普通は遠回りをして避けるか、葉の先などを山刀で切り落としてから通ります。また種類によっては引っかかる程度では済まずに、皮膚が切れるほど刺が鋭いこともあります。
こうしたことから考えると、この刺には、動物がやたら自分の株周りに立ち入らないようにする効果がありそうです。アダンの場合は野外では果実を食べにオオコウモリが飛来しますし、そのおかげで種が散布されるのですが、オオコウモリは直接果実に飛びつくので、葉の刺は邪魔になりません。逆にタヌキのような動物だったら、果実のあるところまでよじ登るのは痛くて大変でしょう。そういう意味で、自分に近づくことのできる動物を制限しているのかもしれません。
もう一つありえるのは、他の植物に寄りかかるのに役立つ可能性です。アダンは幹がしっかりしているのでその必要はありませんが、やはり熱帯におおいつる性のヤシのラタンの類は、葉の先に延ばしたツルの刺を使って、周りの植物に引っかかり、足場として自分の体を安定化させます。それで他の植物の上へ上へとよじ登っていくのです。アダンの仲間にも、ツル性のものがたくさんあって(日本にもツルアダンが自生しています)、そうした種類は刺を使ってツルを他の植物の茂みに固定させたりしているかもしれません。
でも主な機能は、自分の周りに余計な動物が来ないようにすることだろうと思います。ぜひ一度、野生状態で確かめてみてください。アダンなら日本でも南西諸島のあちこちで普通に目にすることができます。
塚谷 裕一(東京大学)
【追加のご質問】
質問の仕方が、不備であったのか、私のお伺いしたかったことと、ずれがありましたので、もし、よろしければ、再度、ご教示いただけると、嬉しいのですが。
その1、トゲのある葉っぱは、いろいろな種類、沢山ありますが、そんな中で、「主脈の裏」に一直線に並んだトゲ、というのは、他にもあるのでしょうか、ということでした。身を守る、よじ登るという事は、想像がつきます。
その2、一直線に、主脈の裏に並んでいるトゲの曲がり方が、茎に近い方と、葉先とで、向きが違い、真ん中で、向きが交互になっていることが、不思議だったのです。
【塚谷先生から追加のご質問に対するご回答】
ESUさん、
遅くなって申し訳ありません。昨日まで学生実習の引率で西表島に行っており、アダンを多数個体見る機会を得ましたので、ご指摘の点を観察してきました。
しかし申し訳ないことに、結論としては、分からないという一言に尽きてしまいます。
アダンの主脈の裏に並んでいる刺を見てみると、葉の先端近くでは確実に先端の方を向いていましたし、基部ではほぼ確実に基部の方を向いていました。これらの向きの使い分けには、それぞれ意味があるとして解釈することが可能なように思います。しかしその間の、移行部に当たるようなところでは、ご指摘の通り、向きがバラバラでした。
それでも、バラバラなりにも何か規則性のようなものがないか、複数の葉について見てみたのですが、先端向き、基部向きが交互に来るとは限らず、また互い違いになる箇所も葉の中で特別決まっているようではありませんでした(中央よりは比較的基部側ではありましたが)。さらに、互い違いの起きる回数も葉によってまちまちでした。
一方、葉の縁にある刺は一貫して先端を向いていました。
このことからは、あくまで想像ですが、こんなことを思い浮かべます。葉の先端側では、葉の先端の方に刺の先が向くような信号が出ている。基部側では逆に,刺の先が基部を向くような信号が出ている。その途中の場所では、それらの信号が混線するので、向きがまちまちになり、葉によってその位置や回数も異なる。
以上は全くの想像です。数理生物学の人と組んだら何か面白いアイデアがもらえるかもしれないな、と南の島の空の下思っていました。
なお葉の主脈の浦に刺が並ぶ植物は、少なくありません。身近なものではキイチゴの仲間などもそうです。
今後、機会を見て今回ご指摘のことをもう少し考えることができればと思っています。ご質問ありがとうございます。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
みんなにひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を熱帯の植物に詳しい東京大学の塚谷裕一先生にお願い致しましたところ、先生のご経験を踏まえた回答をお寄せ下さいました。塚谷先生がお薦めしておられるようにアダンの群落の中を歩いてみて下さい。
【塚谷先生からのご回答】
ESUさん、
質問をありがとうございます。
アダンを含むタコノキの仲間は、熱帯を中心にものすごい種数があるのですが、みなたいがい葉に刺があります。アダンは海浜性の種類なのでかなりごつい姿に育ちますが、森の中に暮らす種類では、より枝が細いものが多く見られます。枝分かれせずに巨大な葉をつくり、太い茎を一本だけ短く立てるものもあります。地面に生えるばかりでなく、木の上に着生する種類もあります。熱帯に行くとどこに行っても何かしらの種類が見られる、とても繁栄したグループです。
いずれにせよこうした種類が茂みになっているところを通ろうとすると、しばしば葉の先や茎の刺がひっかかって、帽子が後ろに取られたり、服を刺に引っ張られて動けなくなったりします。
なので、現地の人たちはそういう場面に出くわすと、魔女が森にいて「行かないで」とやっているのだと笑います。1回くらいならともかく、何度もそういう目にあうと嫌になりますから、そういう茂みに出くわすと、普通は遠回りをして避けるか、葉の先などを山刀で切り落としてから通ります。また種類によっては引っかかる程度では済まずに、皮膚が切れるほど刺が鋭いこともあります。
こうしたことから考えると、この刺には、動物がやたら自分の株周りに立ち入らないようにする効果がありそうです。アダンの場合は野外では果実を食べにオオコウモリが飛来しますし、そのおかげで種が散布されるのですが、オオコウモリは直接果実に飛びつくので、葉の刺は邪魔になりません。逆にタヌキのような動物だったら、果実のあるところまでよじ登るのは痛くて大変でしょう。そういう意味で、自分に近づくことのできる動物を制限しているのかもしれません。
もう一つありえるのは、他の植物に寄りかかるのに役立つ可能性です。アダンは幹がしっかりしているのでその必要はありませんが、やはり熱帯におおいつる性のヤシのラタンの類は、葉の先に延ばしたツルの刺を使って、周りの植物に引っかかり、足場として自分の体を安定化させます。それで他の植物の上へ上へとよじ登っていくのです。アダンの仲間にも、ツル性のものがたくさんあって(日本にもツルアダンが自生しています)、そうした種類は刺を使ってツルを他の植物の茂みに固定させたりしているかもしれません。
でも主な機能は、自分の周りに余計な動物が来ないようにすることだろうと思います。ぜひ一度、野生状態で確かめてみてください。アダンなら日本でも南西諸島のあちこちで普通に目にすることができます。
塚谷 裕一(東京大学)
【追加のご質問】
質問の仕方が、不備であったのか、私のお伺いしたかったことと、ずれがありましたので、もし、よろしければ、再度、ご教示いただけると、嬉しいのですが。
その1、トゲのある葉っぱは、いろいろな種類、沢山ありますが、そんな中で、「主脈の裏」に一直線に並んだトゲ、というのは、他にもあるのでしょうか、ということでした。身を守る、よじ登るという事は、想像がつきます。
その2、一直線に、主脈の裏に並んでいるトゲの曲がり方が、茎に近い方と、葉先とで、向きが違い、真ん中で、向きが交互になっていることが、不思議だったのです。
【塚谷先生から追加のご質問に対するご回答】
ESUさん、
遅くなって申し訳ありません。昨日まで学生実習の引率で西表島に行っており、アダンを多数個体見る機会を得ましたので、ご指摘の点を観察してきました。
しかし申し訳ないことに、結論としては、分からないという一言に尽きてしまいます。
アダンの主脈の裏に並んでいる刺を見てみると、葉の先端近くでは確実に先端の方を向いていましたし、基部ではほぼ確実に基部の方を向いていました。これらの向きの使い分けには、それぞれ意味があるとして解釈することが可能なように思います。しかしその間の、移行部に当たるようなところでは、ご指摘の通り、向きがバラバラでした。
それでも、バラバラなりにも何か規則性のようなものがないか、複数の葉について見てみたのですが、先端向き、基部向きが交互に来るとは限らず、また互い違いになる箇所も葉の中で特別決まっているようではありませんでした(中央よりは比較的基部側ではありましたが)。さらに、互い違いの起きる回数も葉によってまちまちでした。
一方、葉の縁にある刺は一貫して先端を向いていました。
このことからは、あくまで想像ですが、こんなことを思い浮かべます。葉の先端側では、葉の先端の方に刺の先が向くような信号が出ている。基部側では逆に,刺の先が基部を向くような信号が出ている。その途中の場所では、それらの信号が混線するので、向きがまちまちになり、葉によってその位置や回数も異なる。
以上は全くの想像です。数理生物学の人と組んだら何か面白いアイデアがもらえるかもしれないな、と南の島の空の下思っていました。
なお葉の主脈の浦に刺が並ぶ植物は、少なくありません。身近なものではキイチゴの仲間などもそうです。
今後、機会を見て今回ご指摘のことをもう少し考えることができればと思っています。ご質問ありがとうございます。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2015-05-25
柴岡 弘郎
回答日:2015-05-25