質問者:
その他
辻野 代
登録番号3253
登録日:2015-04-11
花見のシーズンで、桜の花がキレイに咲いているのを見ました。桜や梅の樹は、なぜ先に生殖器官である花が咲き、後から栄養器官である葉が生えるのか。
花が散ると、その桜は毛虫の宝庫である葉桜に変わります。
植物の器官は、大きく分類すると、栄養器官と生殖器官に分かれる、と生物の授業で習いました。
より良い子孫を残すには、栄養器官で作られた栄養分をより多く使って子孫を残す方が有利だと思います。
それを考えると、葉(栄養器官)が出て、十分に光合成をしてから花(生殖器官)が咲く方が、より多く、さらに、外的要因によって栄養分が壊されるといった被害も少なく済むと思います。
ですが、桜や梅などは、先に花が咲き、花が散った後に葉が生えてきます。
なぜ、栄養器官で作られた栄養分を、作ってすぐに使わず、次の栄養器官を形成する直前になって初めて、生殖に使うのでしょうか?
他の一年生草本や、多年生草本、イチョウなどの樹は、葉が出て、十分に光合成してから、それにより得られた栄養分で生殖をして、子孫を残しているように感じられます。
なぜ、このような違いが生じたのでしょうか?
昆虫などとの共進化の可能性を考えたのですが、その共進化の過程で、春に花、夏に葉となった理由がいまいち想像できませんでした。
葉がある中で、花を咲かしたら、葉が邪魔になり、虫が花にたどり着きにくくなるのも、一つの要因なのかと思いましたが、それなら葉を全部散らしてから咲かすでも良かったのではないかとも思います。
なぜ、葉が生えるより先に花が咲くのか、気になって仕方がありません。
解答をいただけると幸いです。
辻野 代 さん
ご質問をありがとうございます。
春には、ウメ・コブシ・モクレン・サクラ・モモなど、新芽が出るよりも先に花が咲く樹木が多いことに気づかされます。しかし野山で観察すると、同じサクラでも葉の展開とほぼ同時に花が咲くものや葉の後で花が咲くものなど、いろいろあるようです。サクラの仲間には、“10月桜”や“冬桜”のように秋に花を咲かせたり、秋と春に二度開花する種類もあり、また、条件によっては春咲きのサクラが秋に花をつける事態に至ることもあるようです。
ところで、植物の生殖(増殖)の過程では、花が開くのが春であるか秋であるかには関係なく、先ずは葉が茂ることで光合成が営まれてエネルギー(栄養分)が蓄積し、それを受けて(日長条件や成長の程度などに関連して)花芽が形成され、花芽が成長して開花・受粉(受精)の過程を経て果実がつくられ、果実が成熟して母体を離れて新しい個体に育つというシナリオで事態は動いています。この過程には全体として大量のエネルギーが必要で、生殖の過程と光合成によるエネルギー獲得が同時進行するのが好都合のようにも考えることはできます。しかし、自然界では他の要因も関係するので、例えばヒガンバナにみられるように栄養成長と生殖成長の段階が明瞭に区別されていている場合もあります。生育場所での季節や成長のどのタイミングで開花させるかについての植物の戦略があり、栄養成長とは相いれない原理がそこには働いているようです。生殖成長にエネルギーが必要なことは言うまでもありませんが、ヒガンバナの場合には鱗茎に蓄えられている光合成産物、一般には幹や根における蓄えが最初のエネルギーの供給源となるようです。多量のエネルギーを必要とする果実成長の段階においては多くの場合光合成と同時進行、成熟の最終段階では時として植物体の消耗を伴って成熟の過程が進展します。
以上、補足説明が長くなりましたが、“染井吉野”などで花が咲くのが葉の展開に先行する理由としては、開花と新芽の展開は実際にはほぼ同時に進行する現象ではあるが、花芽が休眠中に大きく成長しているため、見かけ上では花の展開が芽生えの展開に先行するようになって現れるか、あるいは、仕組みとして開花と開葉は別々に制御されており、場合によっては開花の結果もたらされるシグナルが芽生えのスタートに関連していることも考えられます。何れの仕組みによるにしても、結果として生ずる開花と開葉の時間差は植物にとっては重大で、受粉の過程が影響を受ける可能性が高いと思われます。受粉の効率化の視点(風媒性や虫媒性にも関連、関係する動物の行動)から解析がなされているようですが、結論はまだ定まらないように私には見受けられます。どのような問題に、どのような実験をすれば確証が得られるかについて考えてみられることをお勧めします。
ご質問をありがとうございます。
春には、ウメ・コブシ・モクレン・サクラ・モモなど、新芽が出るよりも先に花が咲く樹木が多いことに気づかされます。しかし野山で観察すると、同じサクラでも葉の展開とほぼ同時に花が咲くものや葉の後で花が咲くものなど、いろいろあるようです。サクラの仲間には、“10月桜”や“冬桜”のように秋に花を咲かせたり、秋と春に二度開花する種類もあり、また、条件によっては春咲きのサクラが秋に花をつける事態に至ることもあるようです。
ところで、植物の生殖(増殖)の過程では、花が開くのが春であるか秋であるかには関係なく、先ずは葉が茂ることで光合成が営まれてエネルギー(栄養分)が蓄積し、それを受けて(日長条件や成長の程度などに関連して)花芽が形成され、花芽が成長して開花・受粉(受精)の過程を経て果実がつくられ、果実が成熟して母体を離れて新しい個体に育つというシナリオで事態は動いています。この過程には全体として大量のエネルギーが必要で、生殖の過程と光合成によるエネルギー獲得が同時進行するのが好都合のようにも考えることはできます。しかし、自然界では他の要因も関係するので、例えばヒガンバナにみられるように栄養成長と生殖成長の段階が明瞭に区別されていている場合もあります。生育場所での季節や成長のどのタイミングで開花させるかについての植物の戦略があり、栄養成長とは相いれない原理がそこには働いているようです。生殖成長にエネルギーが必要なことは言うまでもありませんが、ヒガンバナの場合には鱗茎に蓄えられている光合成産物、一般には幹や根における蓄えが最初のエネルギーの供給源となるようです。多量のエネルギーを必要とする果実成長の段階においては多くの場合光合成と同時進行、成熟の最終段階では時として植物体の消耗を伴って成熟の過程が進展します。
以上、補足説明が長くなりましたが、“染井吉野”などで花が咲くのが葉の展開に先行する理由としては、開花と新芽の展開は実際にはほぼ同時に進行する現象ではあるが、花芽が休眠中に大きく成長しているため、見かけ上では花の展開が芽生えの展開に先行するようになって現れるか、あるいは、仕組みとして開花と開葉は別々に制御されており、場合によっては開花の結果もたらされるシグナルが芽生えのスタートに関連していることも考えられます。何れの仕組みによるにしても、結果として生ずる開花と開葉の時間差は植物にとっては重大で、受粉の過程が影響を受ける可能性が高いと思われます。受粉の効率化の視点(風媒性や虫媒性にも関連、関係する動物の行動)から解析がなされているようですが、結論はまだ定まらないように私には見受けられます。どのような問題に、どのような実験をすれば確証が得られるかについて考えてみられることをお勧めします。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2015-04-15
佐藤 公行
回答日:2015-04-15