一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ザックスの有名な誤りとは

質問者:   自営業   初心者
登録番号3278   登録日:2015-05-14
J,Vザックスの植物生理学講義の訳者前書きに「この本を読みますともちろん有名な誤りもありますが・・・」とあるのですが、どの部分を指されているのか、このまま本を読み進めていくうえで非常に気になります。
教えていただけるとありがたいです。
初心者さま

ご質問どうも有難うございます。
田澤仁先生、増田芳雄先生、渡辺仁先生に御回答頂きました。

【田澤先生からのご回答】
ハルトムート・ギムラー編、田澤・松本・増田訳 『植物生理学・栄養学の創始者ユリウス・ザックス―今日に生きる苦闘と栄光』学会出版センター1992、の本のp213~217に「ザックスとダーウイン」の項目があります。そこには、ザックスはダーウィンの著書(1859)に痛く感銘を受けたが、後年このことにいくらか若気の過ちを感じ、以後今日のわれわれには理解しがたい激しさでダーウィンを攻撃した、とあります。ザックスのこの姿勢はさらに、進化学説にたいしてだけでなく、ダーウィンのそれ以外の研究に対してもとられた。p258にはザックスはダーウィンの『植物の運動力』(1880)に対しても、非妥協的な態度をとった、と書かれております。渡邊さんが指摘されたザックスの「誤り」がダーウィンの『自然淘汰』説の否定にあったかどうかは、ザックスの「植物生理学講義」をみればはっきりするでしょう。

 田澤 仁(東京大学名誉教授)


【増田先生からのご回答】
ご質問に対するお答えは私の知る限り以下のとおりです。おそらく最大の誤解は「マメ科植物の巻き髭運動」のことでしょう。ダーヴィンと論争し、ダーウィンが実験的に正しいとされています。たとえば、私の〔植物生理学講義」(2002、培風館)19ページに記述してあります。また、実験重視のダーウィンと理論に傾くザックスの間には何かにつけ対立があったことはギムラー編(田澤ら訳)の「植物生理学・栄養学の創始者ユリウス・ザックスー今日に生きる苦闘と栄光」(学会出版センター、1992)にも記してありますし、より詳しくはS.シャダレヴィアン(増田芳雄・桜井文子訳)「実験室の科学vs田舎屋敷における実験ーユリウス・ザックスとチャールズ・ダーウィンの間の論争」という論文で詳しく紹介しています。この論文は帝塚山学園の「人間環境科学」第11巻(p. 51~82)にも記してあります。この論文は帝塚山学園図書館にお問い合わせください。結論は「巻き髭運動」がザックスの有名な勇み足だったと思います。

 増田 芳雄(大阪市立大学名誉教授)


【渡辺先生からのご回答】
ザックスは植物の構造と生理作用について単細胞植物にも根と茎がある(訳本9p~11p)と述べています。私はそれに違和感を感じました。しかしそれはザックスの考え方であり、その時代の雰囲気であったことでしょう。

 渡辺 仁(ザックスの植物生理学講義・翻訳者、元高知大学教授)
JSPPサイエンスアドバイザー/JSPP広報委員長
柴岡弘郎/松永幸大
回答日:2015-05-25
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