一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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機能性野菜

質問者:   大学生   たっくん
登録番号3279   登録日:2015-05-15
さやいんげん等の豆類の豆に成分を含ませることって可能なのでしょうか。
ご回答宜しくお願い致します。
たっくん 様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。植物が本来自分で作らない物質を外から与えて植物の体内に蓄積させることは、蓄積の程度にもよりますが可能でしょう。無機,有機のいわゆる環境汚染物質が土壌から吸収される例は多々報告されています。このように植物は根からざま物質を吸収することができます。この植物の性質を利用して土壌の浄化(改善)をはかる方法はファイトレメディエーション(Phytoremediation)として知られています。登録番号2866,2570,2469参照)。植物への外来物質の与え方は根から吸収の他に、表面活性剤とともに葉に散布して吸収させる方法(成長調節剤にように)があります。また、化合物によって体内に入り易いものとそうでないものもあります。しかし、体内に入ってもそれが特定の場所(種子など)に集積するかどうかは別の問題です。
ご質問については京都大学生存圏研究所の矢崎一史教授にうかがったことに基づいて、以下のように回答をまとめました。 

ビタミンB12は微生物でしか合成されないビタミンです。動物性の食品にビタミンB12含まれる理由は、食物連鎖などで動物の内臓に生体濃縮されているからで、人間はそれを栄養として摂取しています。また動物はこのビタミンを細胞内に取り込む機構を有しています。これに対して、植物はB12を合成できないし(擬似B12と呼ばれるB12類縁体は合成しますが、ヒトにとってビタミンとしての機能はありません)、植物性の食品にもビタミンB12はほとんど含まれません。このことは、「植物は元々ビタミンB12を吸収する輸送機構を持っていない」ことを意味しています。 
カイワレの根から吸収させて、体内にB12を多く含ませる方法は大学の研究室とカイワレ生産業者との共同企画として生まれたようです。その方法は特許なっていると思います。ある特定の物質を多量に蓄積させるにはやはり特別の技法が必要とされ、それは植物の種類と化合物の種類によって一様ではないでしょう。カイワレの場合はB12をきわめて若い芽生え全体に含まれるようにすればいいのですが、ご質問の豆の場合は種子なので、事情は同じではないでしょう。種子はほとんどの場合その成長の過程において貯蔵物質を蓄積して,発芽に際し胚に供給される栄養の供給源として準備します。インゲンマメの場合は炭水化物が約60%,タンパク質約23%,脂肪約1%の他に多種類のビタミン類やミネラルが含まれます。これらに加えて、特定の物質を外から与えて種子に多量に蓄積させることはできるかどうかは、その植物がその物質を取り込む輸送体を持っているかどうかということでも決まります。B12は勿論難しいでしょう。物理的に取り込ませるという方法は考えられます。例えば、乾燥した豆をビタミンB12を含む水に入れて吸水させてやると、豆がふやける時に水と一緒にビタミンB12が豆の中に入るのではないか。しかし、やってみないとなんとも言えません。細胞と細胞の間の水分には入り込むとは思いますので、ある程度は「含ませる」ことはできるかもしれません。ただそれだと、豆に含まれ量は豆をふやかす時に使った水の中のビタミンB12の濃度とそう変わらない、ということになりますので、ビタミンB12を摂るのが目的ならば、わざわざその豆を食べるよりビタミンB12の入った水を飲むほうが効率的ということになります。
もう一つの方法は遺伝子組替えによって、特定の輸送体が豆で発現できるようにすることです。これはそういう品種を作出することですので、また別の問題でしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2015-05-23
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