一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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一度紅葉した葉が春になると緑色に戻る植物がありますが、

質問者:   一般   タイモモ
登録番号3283   登録日:2015-05-21
秋になって紅葉した葉が春になると緑色に戻る植物があります。ナンテンとか、ある種の針葉樹(品種名 ラインゴールドなど)ですが、
紅葉してる時の葉の葉緑体は無くなってしまっているのでしょうか?また春になって緑色になる時葉緑体は新しく再生されるのでしょうか?
また何故そんな事が起きるのでしょうか?
葉が散らないなら緑色のままでいれば良いと思うのですが?
理由など教えて頂きたくよろしくお願いします。
タイモモ さん

ご質問を有難うございました。この質問には色素体の動態についてお詳しい岡山大学の坂本先生が回答して下さいましたので、ご参考になさって下さい。

【坂本 亘先生からの回答】
タイモモさんご質問ありがとうございます。紅葉と聞いて、私はかつて住んでいた大学宿舎の大きな西洋カエデと、すごい数の落葉を思い出しました。確かにナンテンは紅葉するけれど葉が落ちないですね。葉が赤くなることと、落葉することは必ずしも一緒ではないということになります。ここでは、葉の「老化」と「ストレス応答」という言葉で説明します。

まず、老化について。植物は古くなったり必要でなくなった葉を積極的に壊し、新しい部分に自分の栄養分を転流させて再利用しています。この壊す作用を「老化」と言います。でも、人間が衰えたときに使う老化とは違い、植物は「積極的に」老化しています。例えばイネの収穫時に、田んぼは一斉に黄金色になりますが、これは積極的に老化して葉が枯れ、葉の養分を穂に送って実を大きくしています。葉の養分の多くは光合成をするための装置、つまり葉緑体にあるので、葉緑体が積極的に壊れます。
したがって、葉の老化で葉緑体が壊れる時は、クロロフィルも分解されるので緑がなくなりますが、藁がやや黄色く見えるのは、分解されないカロテノイドなど他の色素が残っているからです。樹木の落葉でいうと、色の違いはあっても葉緑体が分解されて残った色素で赤や黄色になっています。葉緑体が再生することはありません。

次にストレス応答について。植物は根を張って動けないので、日照りとか冬の寒さといったストレスに応答して生き延びようとします。ストレス応答にはいろいろありますが、老化のように死んでいくのではなく、生きた葉の反応です。葉がストレスを受けるとアントシアニンや色素を蓄積します。なぜ色素を作るのかはよくわかりません。日陰を好む植物が日照りにあうと、アントシアニンを作って紫になりますが、人間のサングラスのように光を吸収して光合成する葉を守っている、という説もあります。ストレス応答で作られるアントシアニンは生きた葉が作っていますので、葉緑体も分解されずに残っています。

もうわかったと思います。ナンテンの葉が落ちないで赤くなるのはストレス応答なので、ストレスを克服すると緑に戻ります。一方、紅葉で落葉する葉は老化で積極的に壊された後なので、葉緑体が分解されてもとに戻れません。どちらも色が付いているので同じように見えますが、植物からみた反応としては違うことになります。でも注意が必要です。ナンテンを赤くしようとすると、たくさんストレスをかけて植物をギリギリまでいじめることになるので、春に戻すまでに死んでしまい、落葉するかもしれません。そうなると、どちらも死んでしまうので、老化もストレス反応も区別がつかない、ということになります。

 坂本 亘(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2015-05-30