一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根が上向きに成長する理由について

質問者:   教員   カイワレ
登録番号3300   登録日:2015-06-16
私が担当している部活動ではないのですが、理科の実験をしている部活の生徒から質問を受け、恥ずかしながら見当がつかなかったため、質問させていただきます。

現在、その部活ではシャーレの上に脱脂綿を敷き、異なる水を与え、植物へのどんな影響を与えるか調べているそうです。

育てている植物はカイワレ大根で
環境は半日陰(薄暗く、たまに照明が当たる程度)
使用する水は 水・石鹸水・食塩水・洗剤水・砂糖水
水の濃度に関しては、かなり薄くしたとは言っていましたが、具体的に何%かは不明。

水遣りは毎日行い、カイワレ大根の種が水に半分浸るくらいまでシャーレに水を入れ、7日間水遣りを行なったところ、石鹸水で育てたカイワレ大根のみ、根が上に伸びてしまっていたそうです。

このホームページの他の方に対する回答を見ると、根が上に伸びる原因として近くにガスが漏れているということが考えられるということが回答されていました。

しかし、ガスが漏れていることは絶対にないと生徒が言っていました。

この場合、植物の根が上に向かって成長する原因として、どのようなことが考えられるのでしょうか。
カイワレ さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
生徒さんが行った実験条件がはっきりしませんので的確なお答えをすることができませんが、理科の部活の一環であれば,観察された現象に再現性があるのかを確かめることをお勧めください。石鹸水であれば、洗剤、濃度をいろいろに変えて実験し、どの濃度で試験植物のどの位の割合で同じことが再現できることをまず確かめることです。石鹸水の実験に再現性があれば大変面白い発見だと思います。どうしてかを考えるのはそれからの課題です。
異常な成長について私の経験から想像してみます。もやしの胚軸切片を湿ったろ紙上に横向きに並べておくと正の屈地性のため切片の両端が反りあがります。高濃度のオーキシンで湿らせたろ紙上のおくと、反対に両端が下向きに反り返り中央部が山形になります。これはオーキシンの作用で生成されたエチレンの効果と考えられます。水の場合には重力方向の側に(下向きに)オーキシンが分布して下側が伸長するので反り上がることになります。反対に山形の反り返った場合には、生成したエチレンの効果でオーキシンは上側に移動して、上側が伸長した結果と解釈できます。エチレンには葉柄などでもオーキシンを上側に移動させて上偏成長を起こし葉が下向きに垂れる作用があります。オーキシンの移動は特別な運搬体によるもので、運搬体は細胞膜上にありますが均一に分布するのでなく、環境刺激を感知して局所的に偏在し、オーキシンの濃度を局所的に調節しています。
エンドウ種子を、エチレンを含む空気中で発芽させると茎は上に真っ直ぐ成長しないででたらめの方向に伸び、全部ではありませんが根が上方に成長するものが出てきます。生徒さんが観察した「石鹸水で育てたとき根が上に伸びた」ものと似たようなものでしょう。
仕組みは分かっていませんが、エチレンがオーキシンを重力方向と反対側に移動させることはいくつかの生理学的実験から示されていますし、根ではオーキシン濃度が高くなった側の伸長が抑制されるので上向きに伸びる可能性があります。少なくともエチレンは植物が重力方向を感知してオーキシンを偏在させる仕組みを乱すことは確かなようです。
そこで本題でこれからは私の想像に近い推定です。根が上に伸びたことは明らかにオーキシンの偏在分布に異常が起きたことを示しています。細胞膜に異常が起これば移動たんぱく質の偏在にも異常が現れると予想されます。石鹸水は界面活性剤ですから脂質成分と親和性があります。細胞膜の主体となるものはリン脂質二重層ですから、石鹸水は濃度にもよりますが細胞膜を破壊したり、細胞膜の高次構造に大きな変化をもたらしたりします。石鹸水で細胞膜の高次構造に変化が起きれば、オーキシン移動たんぱく質の偏在性に、したがってオーキシン偏在性にも異常が起きることが考えられますので、予想外の成長状況が現れたのではないでしょうか。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2015-06-19