質問者:
一般
jyakotaro
登録番号3304
登録日:2015-06-24
ヨーロッパの植生に興味があり、調べています。現在イギリス在住ですが、イタリアが好きでよく遊びに行きます。イタリアの西岸海洋性気候、温暖湿潤気候のエリアに行くと、山が多く、イギリスよりも緑が濃い印象を受け、日本に近い印象を受けます。イタリアの温暖湿潤気候、西岸海洋性気候のエリアの植生について
イタリアの温暖湿潤気候の植生は同じく温暖湿潤気候に属する日本の植生に似ており、日本のように多様な在来植物を有するのでしょうか?また、イタリアの西岸海洋性気候に属するエリアの植生は、イギリスよりも豊かな印象を受けるのですが、実際はイギリスものと共通点が多いのでしょうか。
どなたかご教授いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
jyakotaro様
質問コーナーへようこそ。歓迎致します。ご質問は東京大学教授であられた植物生態学の専門家、大澤雅彦先生にご回答を頂きました。詳しい説明していただきましたが、更に質問がありましたら質問コーナーの方へお寄せ下さい。なお、添付資料の方は別途送ります。また過去に類似の質問があり、やはり大澤先生に回答をいただいていますすので、それも合わせて読んで下さい。(登録番号1098)
【大澤先生からのご回答】
ご質問ありがとうございます。
現地を実際にご覧になって感じられた疑問について大変良いご質問だと思います。
気候条件とそれが支える植物相、植物群落に関するご質問ですが、比較の対照がイタリアとイギリスと日本にまたがっているのでやや複雑な様相を呈しています。
1. まず、マクロな気候条件では、イギリスは西岸海洋性気候ですが、イタリアは厳密に言うと西岸海洋性気候ではなく地中海気候です。その違いは西岸海洋性気候はほぼ常に湿潤ですが、地中海気候は植物が生長・生育する夏に著しく乾燥するので植物にとっては厳しい環境です。冬は逆に雨が降り温暖な気候です。日本はモンスーン気候で夏も冬もモンスーンによって雨がもたらされます。特に日本の場合は大陸東岸に位置するので一般的には冬のモンスーンは雨をもたらさないはずなのですが、日本海があるために大陸からやってくる冬の乾燥した風が日本海の上を吹くときに暖流から大量の水分を受け取るので、日本海側で大雪が降ることはご存じのとおりです。結果的に一年を通して降水を雨と雪の形で受けとるので年間を通して湿潤な環境になっています。とはいっても夏は高気圧圏内に入るので雨は少なく、特に8月は年によって大変乾燥します。夏の雨はむしろ台風によってもたらされているといってもよいくらいです。最近では温暖化のせいもあって日本も亜熱帯のような気候になり、積乱雲の雷雨によるゲリラ豪雨で斜面崩壊や都市型水害などずいぶん気象の様子も変化していますね。ただ、この辺りはむしろ気象学・気候学の問題になってしまうので、さらに大きな大気循環のスケールでの要因と結び付けて考えなければなりません。ここでのご質問の範囲を逸脱してしまいますので、この辺にしておきましょう。
2. それから山に登ると湿潤だというのは、こうしたマクロな気候条件とは異なるメソスケールの地形的要因によって湿潤になっています。一般的に雨や水分をもたらすのはすべて垂直方向、水平方向の風の働きです。山があると斜面に沿って空気(風)は無理矢理上昇させられます。すると断熱膨張によって温度が下がり、結果的に大気中の水分が凝結し、湿潤な環境が生まれます(雲霧林)。ですから砂漠の中でも山に登れば次第に湿潤になり森林が現れてきます。地中海気候は本来、植物にとっては生育期間に雨が降らないので乾燥気候ですが山に登れば、上で述べたように湿潤な環境が現れます。イタリアによく行かれるそうですが、緯度的には少し南になりますがアフリカの西にマカロネシアという島々があり、特にカナリア諸島はヨーロッパの人たちのリゾート地で知られている素晴らしい島々です(スペイン領)。私たちはそこでも調査をしましたが、ここには日本の湿潤な森林と同じローレル林があります。これは地中海気候の島々ですが、雨は雲霧帯でもたらされるもので、貿易風逆転という気象現象が起こって大量の水分が雲となって山にぶつかり、そこで水分を供給しています(水平降雨といいいます)。これも大気大循環(ハドレー循環)によるものです。
3. イタリア山地、イギリス、日本の植物がどういう関係にあるかという本題に入りますが、これもいくつもの比較軸があり、一言では言えません。あまりに長くなってしまいますので、そのあたりのことを私が書いたものがありますので、それをpdfにしたものを添付します。まずは、それをご覧になってみて、再度質問の内容を絞ってください。具体的にご返事できると思います。
よく準備をせずに書き出してしまったので、長くなり、ご質問のポイントまでたどり着いていないように思いますが、取り急ぎご返事の一部をお送りします。
なお添付のファイル(*)にはちょうどご質問のイギリス、イタリア、日本の森林の比較をしていますので、ある程度のイメージを持っていただき、そのうえで再度ご質問いただければお答えいたします。
よろしくお願いします。
*『日本の地誌1』日本総論 I(自然編)中村和郎・新井 正・岩田修二・米倉伸之編,朝倉書店(2005年)
2)日本の深林(大澤雅彦)
大澤 雅彦(元東京大学大学院新領域創成科学研究科)
質問コーナーへようこそ。歓迎致します。ご質問は東京大学教授であられた植物生態学の専門家、大澤雅彦先生にご回答を頂きました。詳しい説明していただきましたが、更に質問がありましたら質問コーナーの方へお寄せ下さい。なお、添付資料の方は別途送ります。また過去に類似の質問があり、やはり大澤先生に回答をいただいていますすので、それも合わせて読んで下さい。(登録番号1098)
【大澤先生からのご回答】
ご質問ありがとうございます。
現地を実際にご覧になって感じられた疑問について大変良いご質問だと思います。
気候条件とそれが支える植物相、植物群落に関するご質問ですが、比較の対照がイタリアとイギリスと日本にまたがっているのでやや複雑な様相を呈しています。
1. まず、マクロな気候条件では、イギリスは西岸海洋性気候ですが、イタリアは厳密に言うと西岸海洋性気候ではなく地中海気候です。その違いは西岸海洋性気候はほぼ常に湿潤ですが、地中海気候は植物が生長・生育する夏に著しく乾燥するので植物にとっては厳しい環境です。冬は逆に雨が降り温暖な気候です。日本はモンスーン気候で夏も冬もモンスーンによって雨がもたらされます。特に日本の場合は大陸東岸に位置するので一般的には冬のモンスーンは雨をもたらさないはずなのですが、日本海があるために大陸からやってくる冬の乾燥した風が日本海の上を吹くときに暖流から大量の水分を受け取るので、日本海側で大雪が降ることはご存じのとおりです。結果的に一年を通して降水を雨と雪の形で受けとるので年間を通して湿潤な環境になっています。とはいっても夏は高気圧圏内に入るので雨は少なく、特に8月は年によって大変乾燥します。夏の雨はむしろ台風によってもたらされているといってもよいくらいです。最近では温暖化のせいもあって日本も亜熱帯のような気候になり、積乱雲の雷雨によるゲリラ豪雨で斜面崩壊や都市型水害などずいぶん気象の様子も変化していますね。ただ、この辺りはむしろ気象学・気候学の問題になってしまうので、さらに大きな大気循環のスケールでの要因と結び付けて考えなければなりません。ここでのご質問の範囲を逸脱してしまいますので、この辺にしておきましょう。
2. それから山に登ると湿潤だというのは、こうしたマクロな気候条件とは異なるメソスケールの地形的要因によって湿潤になっています。一般的に雨や水分をもたらすのはすべて垂直方向、水平方向の風の働きです。山があると斜面に沿って空気(風)は無理矢理上昇させられます。すると断熱膨張によって温度が下がり、結果的に大気中の水分が凝結し、湿潤な環境が生まれます(雲霧林)。ですから砂漠の中でも山に登れば次第に湿潤になり森林が現れてきます。地中海気候は本来、植物にとっては生育期間に雨が降らないので乾燥気候ですが山に登れば、上で述べたように湿潤な環境が現れます。イタリアによく行かれるそうですが、緯度的には少し南になりますがアフリカの西にマカロネシアという島々があり、特にカナリア諸島はヨーロッパの人たちのリゾート地で知られている素晴らしい島々です(スペイン領)。私たちはそこでも調査をしましたが、ここには日本の湿潤な森林と同じローレル林があります。これは地中海気候の島々ですが、雨は雲霧帯でもたらされるもので、貿易風逆転という気象現象が起こって大量の水分が雲となって山にぶつかり、そこで水分を供給しています(水平降雨といいいます)。これも大気大循環(ハドレー循環)によるものです。
3. イタリア山地、イギリス、日本の植物がどういう関係にあるかという本題に入りますが、これもいくつもの比較軸があり、一言では言えません。あまりに長くなってしまいますので、そのあたりのことを私が書いたものがありますので、それをpdfにしたものを添付します。まずは、それをご覧になってみて、再度質問の内容を絞ってください。具体的にご返事できると思います。
よく準備をせずに書き出してしまったので、長くなり、ご質問のポイントまでたどり着いていないように思いますが、取り急ぎご返事の一部をお送りします。
なお添付のファイル(*)にはちょうどご質問のイギリス、イタリア、日本の森林の比較をしていますので、ある程度のイメージを持っていただき、そのうえで再度ご質問いただければお答えいたします。
よろしくお願いします。
*『日本の地誌1』日本総論 I(自然編)中村和郎・新井 正・岩田修二・米倉伸之編,朝倉書店(2005年)
2)日本の深林(大澤雅彦)
大澤 雅彦(元東京大学大学院新領域創成科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2015-06-25
勝見 允行
回答日:2015-06-25