一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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孔辺細胞の光合成

質問者:   高校生   Tama
登録番号3307   登録日:2015-06-29
孔辺細胞には葉緑体があり
吸収した光エネルギーを利用して、能動輸送や物質合成を行い気孔を開いていると習いました。

孔辺細胞の葉緑体ではグルコースの合成は行われていないのでしょうか。
Tamaさん

ご質問をありがとうございます。
この質問には、気孔開閉のしくみについて研究しておられる島崎先生(九州大学)が回答文をご用意下さいました。なお、ご質問で意図されていることが幾分わかり難いので、孔辺細胞の葉緑体の機能全般について詳しく解説していただきました。ご参考にして下さい。

【島崎先生からの回答】
この質問は、孔辺細胞に葉緑体があるのに、まわりの表皮細胞にはなく、葉緑体が気孔の働きに重要な働きをもっている。その働きを知りたいという質問だと思います。
孔辺細胞葉緑体の働きは昔から研究されていますが、明確な答えは得られていません。おそらく、複数の働きを持つからだと考えられます。それを、以下に箇条書きにします。

1) 上にお書きのように、光エネルギーを用いてATPを合成し、気孔開口に必要な物質輸送に利用するというものです。この働きの存在は確かで、孔辺細胞にはH+-ATPaseというATPを加水分解して開口の駆動力を形成する酵素が、細胞膜にあります。この酵素は気孔開口に必要なK+を細胞内にとりこませます。ATPがH+-ATPaseで消費されるには、葉緑体から細胞質に運び出される必要がありますが、孔辺細胞葉緑体はこの経路を発達させています。この考えに一致して、気孔開口は光合成に有効な光によって促進されます。

2) 気孔開口にはK+のほかにリンゴ酸が必要です(K+の正電荷とリンゴ酸の負電荷が釣り合います)。リンゴ酸の一部は光合成電子伝達系から還元力をもらい葉緑体の中で合成されます。ここでも葉緑体が働きます。しかし、大部分のリンゴ酸は細胞質で合成されます。このとき、葉緑体内の澱粉が分解され、リンゴ酸合成の材料になります。澱粉は葉緑体で合成されるか、外部から輸送されてきた産物が合成、蓄積されたものです。

3) 孔辺細胞葉緑体が気孔開口に働く明確な例は、ホウライシダ(Adiantum)と言う植物で得られています。この植物の表皮に光をあてると気孔が良く開きます。そこに同時に、光合成電子伝達をとめるDCMU という薬物を入れておくと、開口が完全に止まります。(しかし、同様な実験をツユクサやソラマメで行うと、部分的に阻害するにとどまります。)

つまり、葉緑体は気孔開口に必要なATPの供給と澱粉の蓄積を行っているというのが答えです。

「孔辺細胞の葉緑体ではグルコースの合成は行われていないのでしょうか」と問われていますが、グルコースは葉緑体内でも合成されますが、つくられても別の物質に代謝され、気孔開口への直接的関与は少ないと考えられています。

 島崎 研一郎(九州大学大学院・理学研究院・生物科学部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2015-07-01
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