質問者:
自営業
Titanium
登録番号3312
登録日:2015-07-05
何故、「警戒色」を持つ「有毒植物の葉」は、存在し無いのでしょうか。何故、「警戒色」を持つ「有毒植物の葉」は、存在し無いのでしょうか。
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自然界の有毒動物は、眼紋状、ストライプ、又は、その他のランダムな斑紋構成による、派手な色彩配列の警戒色を持つものが多い事で有名です。(例: ガラガラヘビ、毒ガエル類、ヒョウモンダコ、ゴケグモ類、スズメバチなど。)
しかし、「有毒植物の葉」では、何故かその様な傾向は無い様です。
最近話題に成った下記の論文の概要によれば、
「人間がある種の斑紋(無数の小穴や顆粒の雑然とした集合体、例として、ハスの実の写真など)に生理的嫌悪感を憶え、皮膚の痛痒間感を生じ、更には、人によっては重篤な恐怖症を発症する事がある。
これはTrypophobiaと呼ばれている。
その原因は、本来無意味なはずの、小穴や顆粒の集合体の配列が、上記の有毒動物の斑紋と、偶然にも数理学的な近似性がある為で、Trypophobiaは、人間に生来備わった、上記の有毒動物に対する、生得的忌避反応である事が判明した。」
Cole, Geoff G.; Wilkins, Arnold J. (2013). "Fear of Holes" . Psychological Science (SAGE Publications) 24 (10): 1–6. doi:10.1177/0956797613484937
そこで、質問致しますが、何故、植物界の場合は、上記有毒動物の様な「警戒色」を持つ「有毒植物の葉」は、存在し無いのでしょうか。(例として、ウルシやイラクサの葉でも普通の緑色です。)
その方が、生態系の頂点にある捕食動物や危害動物(人間を含む)に対し、植物の生体防御上、より有効である可能性は無いのでしょうか。
Titanium さま
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。面白いことに疑問をもたれましたね。生物界では外敵から自分を守るために、さまざまな生物がさまざまな方法を講じています。これらは有毒物質や忌避物質等を利用する化学的方法(味,匂いなど)、形や色でカモフラージュする形態的方法などがあります。外敵の敵を利用する間接的な方法なども広く見られます。このような現象は植物でも同じです。植物はどんな環境の変化が起きても、あるいは外敵に曝されても逃げることは出来ません。従って、植物ではこれらに対処する機能が種それぞれにとてもうまく備わっています。
さて、ご質問ですが、植物の外敵に対する防御機構でもっとも一般的なのは葉などに含まれる外敵にとっての有毒(害)あるいは不快(忌避)物質が存在すること、あるいは外敵の攻撃に際に作り出すことですが、これらの物質が含まれている植物をいわゆる「有毒植物」とはよべません。生物が警戒色のようなものを示すのは、外敵に対する一種の防御メカニズムですが、植物の場合は大体化学的メカニズムが一般的なようです。植物はいわば「警戒臭」を代わりに使っているとでもいえるでしょう。葉に特別な色や模様を形成して外敵を防いでいる例は知られていません。何故ないかと云うことは答えられません。進化の上でそのようなメカニズムは生まれなかったと云うより他ないでしょう。強いていうことになれば、想像(良く云って推定)の域を脱しませんので、これは科学から外れることになります。
期待された答かどうか分かりませんが,関連した研究を紹介しましょう(文献1およびその中の引用文献参照)。以前から、若い葉にアントシアニンが蓄積するのはなぜかという疑問が出されていました。これらの葉は成長が進むと消えて、緑になります。二つの事が考えられました。一つは、若い葉が強い日光にさらされて光障害を受けないためという考えです。もう一つは、ある意味での警戒色で、この葉を食べられるものではないという信号であるという考えです。この研究ではアントシアニンの含有量に様々な差がみられるQuercus coccifera L. (ケルメスオーク)の変異株を使って、この二つの仮説を検証しています。詳しいことはこの論文を読んで下さい。webでもみられます。必要な結論だけをいいますと、1. 昆虫に喰われた葉の数と喰われた葉の面積を調べると、赤色系の葉は緑の葉に比べて食害が少なかった。2. 葉における、昆虫にとって有害なプェノール化合物の含量とアントシアニンの含量との間には正の相関があった。3. また,若い赤い葉ではクロロフィルは少ないので、光スペクトルの緑色部での反射率は低下しているため、ある種の昆虫には葉を認識し難いとも考えられる。つまりこの場合赤色は警戒色の働きをしている可能性があるということです。この他に春や秋の紅葉はアブラムシを誘引し、それが尻から出す蜜に引かれてアリが来訪して他の食害を及ぼす昆虫から植物を守る働きがあるという仮説もあります(文献2およびその中の引用文献参照参照)。
文献1:Panagiota Karageorgou & Yiannis Manetas (2006) The importance of being red when young:
anthocyanines and the protection young leaves of Quercus coccifera from insect herbivory and excess light. Tree Physiology 26,613-621.
文献2:Kazuo Yamazaki (2008) Colors of young and old spring leaves as a potential signal for ant-atnded hemipterans. Plant Signaling & Behavior 3:9884-985.
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。面白いことに疑問をもたれましたね。生物界では外敵から自分を守るために、さまざまな生物がさまざまな方法を講じています。これらは有毒物質や忌避物質等を利用する化学的方法(味,匂いなど)、形や色でカモフラージュする形態的方法などがあります。外敵の敵を利用する間接的な方法なども広く見られます。このような現象は植物でも同じです。植物はどんな環境の変化が起きても、あるいは外敵に曝されても逃げることは出来ません。従って、植物ではこれらに対処する機能が種それぞれにとてもうまく備わっています。
さて、ご質問ですが、植物の外敵に対する防御機構でもっとも一般的なのは葉などに含まれる外敵にとっての有毒(害)あるいは不快(忌避)物質が存在すること、あるいは外敵の攻撃に際に作り出すことですが、これらの物質が含まれている植物をいわゆる「有毒植物」とはよべません。生物が警戒色のようなものを示すのは、外敵に対する一種の防御メカニズムですが、植物の場合は大体化学的メカニズムが一般的なようです。植物はいわば「警戒臭」を代わりに使っているとでもいえるでしょう。葉に特別な色や模様を形成して外敵を防いでいる例は知られていません。何故ないかと云うことは答えられません。進化の上でそのようなメカニズムは生まれなかったと云うより他ないでしょう。強いていうことになれば、想像(良く云って推定)の域を脱しませんので、これは科学から外れることになります。
期待された答かどうか分かりませんが,関連した研究を紹介しましょう(文献1およびその中の引用文献参照)。以前から、若い葉にアントシアニンが蓄積するのはなぜかという疑問が出されていました。これらの葉は成長が進むと消えて、緑になります。二つの事が考えられました。一つは、若い葉が強い日光にさらされて光障害を受けないためという考えです。もう一つは、ある意味での警戒色で、この葉を食べられるものではないという信号であるという考えです。この研究ではアントシアニンの含有量に様々な差がみられるQuercus coccifera L. (ケルメスオーク)の変異株を使って、この二つの仮説を検証しています。詳しいことはこの論文を読んで下さい。webでもみられます。必要な結論だけをいいますと、1. 昆虫に喰われた葉の数と喰われた葉の面積を調べると、赤色系の葉は緑の葉に比べて食害が少なかった。2. 葉における、昆虫にとって有害なプェノール化合物の含量とアントシアニンの含量との間には正の相関があった。3. また,若い赤い葉ではクロロフィルは少ないので、光スペクトルの緑色部での反射率は低下しているため、ある種の昆虫には葉を認識し難いとも考えられる。つまりこの場合赤色は警戒色の働きをしている可能性があるということです。この他に春や秋の紅葉はアブラムシを誘引し、それが尻から出す蜜に引かれてアリが来訪して他の食害を及ぼす昆虫から植物を守る働きがあるという仮説もあります(文献2およびその中の引用文献参照参照)。
文献1:Panagiota Karageorgou & Yiannis Manetas (2006) The importance of being red when young:
anthocyanines and the protection young leaves of Quercus coccifera from insect herbivory and excess light. Tree Physiology 26,613-621.
文献2:Kazuo Yamazaki (2008) Colors of young and old spring leaves as a potential signal for ant-atnded hemipterans. Plant Signaling & Behavior 3:9884-985.
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2015-07-09
勝見 允行
回答日:2015-07-09