一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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イタリアの植生について

質問者:   その他   jyakotaro
登録番号3314   登録日:2015-07-10
先日イタリアとイギリスと日本の植生の違いについて質問をしたものです。
お礼が大変遅くなってしまいましたが、大澤雅彦先生、丁寧に質問に答えて下さり、なおかつ非常に参考になる資料を提供してくださりありがとうございました。的を絞れていない曖昧な質問をしてしまい大変申し訳ありません。

勝見様、資料を送付してくださりありがとうございました。

いただいた情報をもとに、もう少し絞った質問をさせて頂ければと思い、こちらに再度投稿させていただきました。
よろしくお願いいたします。

もしご存じであれば、イタリアの樹木種数と草本の数を教えてください。イギリスの数と比較してみたいと思っています。
イギリスの自生の樹木が34種類と少ないのは、資料に書いてあったとおり、氷河時代の影響が大きいかと思いますが
地形に高低差がないのも影響しているのかなと考えています。実際に住んでいて思うのですが、特にイングランドは
山が全くなく、どこに行ってもひたすら草原が広がります。北部には山が少しありますが、草原で覆われているような山であり、樹木は少ない印象です。一方、イタリアは、地中海性気候の植生に合わせ、北側のアルプスのふもとは落葉樹林が存在していること、またイギリスと比べると山間部が多いので、高低差がある分植物の数が多いのではないかと考えています。お手数おかけしますが、もしご存じでしたら教えていただけると幸いです。
jyakotaro様

再度のご質問歓迎いたします。前回と同じく大澤雅彦先生に回答をお願いしましたところ、次のようなお返事をいただきました。
「しばらく留守にしており回答が遅くなり申し訳ありません。当面の回答を添付ファイでお送りします。いろいろ前提となる条件があり、一言でお答えできませんが、8月は3日から1か月雲南大学へ出かけるので対応が遅れると思います。」
と言う訳で、大澤先生から送付頂いた資料をとりあえず回答としておくります。もし、帰国されてから回答への追加説明が送られて来ましたら、転送します。

【大澤先生からのご回答】
再度のご質問拝見しました。
イタリアもイギリスも昔からよく調べられている地域ですから文献的には相当詳しくわかっていますので資料を漁れば樹木種数、草本種数もわかると思いますが、今は手元に資料がありませんので少し調べてみます。

それから別の問題として樹木と草本という生活型をどのように定義するのかという問題もあります。たとえば矮性低木の日本名コケモモ, cowberry(Vaccinium vitis-idaea)は世界の高山に広く分布するコスモポリタン種とよばれる種のひとつですが、資料が違うとコケモモを樹木に入れたり、草本に入れたりしているので樹木と草本の割合が変わることになります。また同じ種でも生育地によって樹木になる場合も、矮性低木といって草本に入れる場合もあり、厳密には単純に種リストだけで判定できないこともあります。常緑・落葉なども日本ではほとんど明白ですが、亜熱帯になるとリーフ・エクスチェンジングといって、一斉落葉の直後に新葉が出て、落葉期間がほとんどないタイプも出てきます。

さらにイタリアという国ということになると地中海で最も大きいシシリー島、サルディニア島などもあり、その植物相は半島部とはかなり違いものもあるので、これを含めるとフロラは多様です。また、イタリアアルプスはご存じのようにヨーロッパ最高峰モンブラン(4810.9m)も国境にありますから高山帯から氷雪帯まで含む多様性を有しており、こうした地形要因も重要で最高峰が1344mというイギリスに比べたらはるかに多様性は高いということになります。

以上を前提として、イタリアのフロラの多様性をイギリスと比較してみます。樹木種数と草本種数を区別したデータはのっていませんが自生の維管束植物は全体で4750~4900種というデータがあります(IUCN 1986)。これはIUCN(国際自然保護連合)という国際NGOが編纂した「IUCN (1986) Plants in Danger, What do we know?」という資料です。同じ資料でイギリスは1700~1850種となっています。参考までに同じ資料で日本は4022種です。種数というのは一見すると確実のように見えますが、たとえば変種、品種、亜種などをどうカウントするかという問題もあり、この程度の幅はやむをえません。

もう少し、比較の基準を整理すると、よく知られた理論では「島の生物地理学理論」というのがあります。これは島の面積と大陸からの距離という2つの要因で、ある島にみられる平衡種数を説明しようとするものです(cf. MacArthur, R. 1972 Geographical Ecology, Patterns in the Distribution of Species Harper & Row)。この発想ではイギリスは島ということになり、半島とはいえ大陸の一部のイタリアとは異なります。

 大澤 雅彦(元東京大学大学院新領域創成科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2015-07-16
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