質問者:
自営業
いろどり
登録番号3328
登録日:2015-07-30
旬の野菜は、栄養価が高いと知りました。例えば、みんなのひろば
旬の野菜の栄養価が高いのはなぜ
http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/joho/0811/joho01.html
その理由(植物のなかでどういう現象が起きているか)を知りたいです。
例えば、上記でトマトは夏にカロテンが多く、冬は少ないのは、光合成量の違いかと推測されます。
一方でホウレンソウでビタミンCが冬に多くなるのは、どういう理由が考えられるでしょうか?
参考文献などありましたらあわせてお教えください
よろしくお願いいたします。
いろどり さん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
旬という言葉は食事文化上の言葉ですがいくつかの意味合いが含まれています。一般には「収穫量の一番多い時期」「食べて一番おいしい時期」などを指しているようです。人が食物としてみた場合の表現で植物生理学的には一定の時期ではありません。蔬菜類では「栄養成長のもっとも盛んな時期」ですが根菜類では「栄養成長が終わり貯蔵器官にもっとも多くの貯蔵物質が蓄積した時期」に当たります。いずれも「食べて美味しい時期」と主観的です。一方、栄養価は三大栄養素、ビタミン、ミネラルなどと熱量を含めた総合値で判断されていますので、これらの物質の生合成活性の強さに依存しています。すべての栄養成分が同時に一定の速度で合成されているわけでなく、個々の物質の生合成速度、蓄積速度、蓄積量などは内部環境、外部環境の変化によって固有の変化をしています。
ビタミンCに関しては、生合成及びその調節の研究を進められている中部大学の吉村和也先生にお答えをお願いし次のような解説をいただきました。
【吉村和也先生の解説】
ビタミンCの生合成の制御は非常に多岐の要因に影響を受けますので、なかなか難しいのですが、以下は一般論です。
ビタミンCは、光合成の産物である糖を材料に生合成されていますので、その蓄積量は光合成と密接に関係があります。具体的にはフルクトースから、マンノース、ガラクトースへと異性化され、最終的にビタミンC(アスコルビン酸)がつくられています。この経路は、D-マンノース/L-ガラクトース経路と呼ばれ、すべての植物の葉におけるメインの生合成経路と考えられています。
(果実では、細胞壁多糖の分解産物からつくられる経路や、他組織からの輸送がメインだと考えられています。)したがって、栽培環境が当該植物の光合成に最適であれば、ビタミンC量も増えます。関連して、一般に栽培期間が経過するに連れて葉組織が成熟化して光合成能が上昇しますので、若葉よりも成熟葉でビタミンC量が増えますが、老化ステージになると減少します。(老化ステージで減少する理由は、後述の抗酸化剤としての役割に関係します。)
また、ビタミンCの主な生理機能として、抗酸化剤としての役割が挙げられますが、そのために、生合成も様々なストレス下では活性化される傾向にありますが、同時に、抗酸化剤として利用されて酸化型に変換されますので、ストレス下での活性型(還元型)のビタミンC量は維持されるか、減少します。
引用された論文のデータに使われている、6月~9月に栽培したホウレンソウの栽培環境が不明ですが、ホウレンソウは、栽培最適温度が低く、光合成の光飽和点も低いため、おそらく、6月~9月は高温、強光により光合成が最大ではなく、冬場に比べて生育も不良であるため、さらに、ストレスによる影響のために、ビタミンC量が低くなっているのだと思われます。
また、ビタミンCの生合成経路は光により活性化されます。具体的には、D-マンノース/L-ガラクトース経路の律速段階を触媒する酵素遺伝子(VTC2)の発現は明条件で誘導され、暗条件で抑制されます。光合成明反応の阻害剤処理により、その発現は抑制されるという結果もあります。ですので、ビタミンC量は、一日の中でいつ収穫されたのか? 収穫後、どの様な状態で保存されていたのか? によっても大きく変わります。さらに、ビタミンCは異化されるとシュウ酸、酒石酸になりますが、ホウレンソウの場合、シュウ酸が多いので、他の作物よりも異化経路が活発だと思われますので、その影響もあると思います。
ビタミンCの生合成の経路や制御に関しては多くの文献があるのですが、近畿大学の重岡先生の総説の図(Fig.3)がわかりやすいと思います。
Biosci Biotechnol Biochem. 2014;78(9):1457-70
吉村 和也(中部大学 食品栄養科学科)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
旬という言葉は食事文化上の言葉ですがいくつかの意味合いが含まれています。一般には「収穫量の一番多い時期」「食べて一番おいしい時期」などを指しているようです。人が食物としてみた場合の表現で植物生理学的には一定の時期ではありません。蔬菜類では「栄養成長のもっとも盛んな時期」ですが根菜類では「栄養成長が終わり貯蔵器官にもっとも多くの貯蔵物質が蓄積した時期」に当たります。いずれも「食べて美味しい時期」と主観的です。一方、栄養価は三大栄養素、ビタミン、ミネラルなどと熱量を含めた総合値で判断されていますので、これらの物質の生合成活性の強さに依存しています。すべての栄養成分が同時に一定の速度で合成されているわけでなく、個々の物質の生合成速度、蓄積速度、蓄積量などは内部環境、外部環境の変化によって固有の変化をしています。
ビタミンCに関しては、生合成及びその調節の研究を進められている中部大学の吉村和也先生にお答えをお願いし次のような解説をいただきました。
【吉村和也先生の解説】
ビタミンCの生合成の制御は非常に多岐の要因に影響を受けますので、なかなか難しいのですが、以下は一般論です。
ビタミンCは、光合成の産物である糖を材料に生合成されていますので、その蓄積量は光合成と密接に関係があります。具体的にはフルクトースから、マンノース、ガラクトースへと異性化され、最終的にビタミンC(アスコルビン酸)がつくられています。この経路は、D-マンノース/L-ガラクトース経路と呼ばれ、すべての植物の葉におけるメインの生合成経路と考えられています。
(果実では、細胞壁多糖の分解産物からつくられる経路や、他組織からの輸送がメインだと考えられています。)したがって、栽培環境が当該植物の光合成に最適であれば、ビタミンC量も増えます。関連して、一般に栽培期間が経過するに連れて葉組織が成熟化して光合成能が上昇しますので、若葉よりも成熟葉でビタミンC量が増えますが、老化ステージになると減少します。(老化ステージで減少する理由は、後述の抗酸化剤としての役割に関係します。)
また、ビタミンCの主な生理機能として、抗酸化剤としての役割が挙げられますが、そのために、生合成も様々なストレス下では活性化される傾向にありますが、同時に、抗酸化剤として利用されて酸化型に変換されますので、ストレス下での活性型(還元型)のビタミンC量は維持されるか、減少します。
引用された論文のデータに使われている、6月~9月に栽培したホウレンソウの栽培環境が不明ですが、ホウレンソウは、栽培最適温度が低く、光合成の光飽和点も低いため、おそらく、6月~9月は高温、強光により光合成が最大ではなく、冬場に比べて生育も不良であるため、さらに、ストレスによる影響のために、ビタミンC量が低くなっているのだと思われます。
また、ビタミンCの生合成経路は光により活性化されます。具体的には、D-マンノース/L-ガラクトース経路の律速段階を触媒する酵素遺伝子(VTC2)の発現は明条件で誘導され、暗条件で抑制されます。光合成明反応の阻害剤処理により、その発現は抑制されるという結果もあります。ですので、ビタミンC量は、一日の中でいつ収穫されたのか? 収穫後、どの様な状態で保存されていたのか? によっても大きく変わります。さらに、ビタミンCは異化されるとシュウ酸、酒石酸になりますが、ホウレンソウの場合、シュウ酸が多いので、他の作物よりも異化経路が活発だと思われますので、その影響もあると思います。
ビタミンCの生合成の経路や制御に関しては多くの文献があるのですが、近畿大学の重岡先生の総説の図(Fig.3)がわかりやすいと思います。
Biosci Biotechnol Biochem. 2014;78(9):1457-70
吉村 和也(中部大学 食品栄養科学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2015-08-03
今関 英雅
回答日:2015-08-03