一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹液の出る時間帯

質問者:   会社員   知りたがり症候群
登録番号3340   登録日:2015-08-07
樹液の出る量が昼間よりの夜の方が多く出たりするのかお伺いしたいです。
カブトムシやクワガタなど、樹液をエサとする昆虫について調べており、樹液には時間帯によって出る量に違いがあるのか疑問に思いました。
基本的に「水分の吸収は1日中行っていて、昼間は光合成や蒸散が活発になり、夜は行わない」ということは分かりそれによって水分の蒸散がない夜〜朝方にかけては樹液が多く出やすいと言えるのでしょうか?
知りたがり症候群 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問は樹液を利用する昆虫の生態学に関連したもので、樹液滲出についての植物生理学的研究はあまりありませんので的確なお答えはできません。しかし、樹液は植物の物質転流の点からは重要な項目ですので樹液そのものの一般論は登録番号0804にお答えした通りです。しかし、登録番号0804では樹液について、傷の程度や草本、木本をあまり区別しないで漠然と「茎を切った時に出てくる液」といった程度で解説しました。このご質問ではカブトムシやクワガタなどが求める樹液についてですのでもう少し狭い意味での樹液滲出についてご説明します。樹皮は死んだ組織である外樹皮と生きている篩部を主とする内樹皮に分けており、内樹皮まで達する傷を受けると篩管内液とともに篩細胞及び周辺の細胞が破壊されてそれらの細胞内液が滲み出した樹液となります。
さらに深い傷がつけられれば最外側の木部(辺材)細胞も破壊しますので導管内液(広葉樹の場合)も加わって傷口からしみだしてきます。人為的あるいは大型動物の爪などで樹皮が傷つけられたときには、多くは1回限りの傷害刺激ですから傷の修復作業によって樹液滲出は継続しないで停止します。乾燥した樹液成分は保護的に作用するとも考えられます。内樹皮が傷を受けて進出する樹液は篩管液や破壊細胞の内液ですから昆虫が好む糖類、アミノ酸類を含んでいることになります。樹液がある期間継続して進出する傷のほとんどはスズメバチやカミキリなど昆虫類が餌、巣材のためや産卵のために齧ったもの、孵化した幼虫が齧り続けているもののようです。昆虫の幼虫が齧り続けることは新たな傷を作り続けることで樹液の滲出がある期間続くことになります。樹液の滲出が昼夜やある時間帯といった短期間で変化するかどうかは分かりませんが、樹液を滲出する箇所の数(傷を受ける数)は気温と関係しているとの調査報告はあります。昆虫の活動数との関係かもしれません。
ある種の草本類には排水(guttation)という現象があります。朝、葉の周縁に水玉がつく現象で露ではなく、葉の先端や周縁に分布する特殊な排水構造体から分泌される導管液で、蒸散の無い夜間に導管内圧を支配する根圧によるものとされています。この現象はご指摘の「水分の蒸散がない夜~朝方にかけては樹液が多く出やすい」ことと合致しますが、昆虫が齧ることで滲出する樹液の主体は篩管液と破壊細胞内液で導管液は主体ではありませんので根圧の影響はないと思われます。
樹液と昆虫との関わりについてはお答えできる範囲を超えていますが、次の論文はご参考になると思います。
http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010790702.pdf
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2015-08-10