質問者:
教員
kiyokiyo
登録番号3366
登録日:2015-09-11
光合成の実験でオオカナダモを使った気泡計数法がありますが、そのとき茎の切り口からどのような仕組みで気体が発生するのでしょうか。気体の成分が100%酸素ではなく、空気よりも少し酸素が多めの気体と聞いたことがあります。すると水草の茎の中にあれだけの空気が入っていたということなのでしょうか。
みんなのひろば
水草の茎の切り口から気体が発生するしくみについて
kiyokiyo 様
再度、このコーナーをご利用下さりありがとうございます。
事情で回答が遅くなって申しわけありません。ご質問には琉球大学の高相先生から大変詳しい回答をいただきましたので、参考になさって下さい。
(高相先生からの回答)
水生植物の体内には酸素と窒素の割合が異なりますが空気と言って良い気体が大量に含まれていて、いろいろな方法で生活に役立てています。植物体が浮いたり、果実・種子などの散布体が浮いて分布を広めることも体内の気体の存在によります。
オオカナダモの茎には通気組織がありますが、体内の気体のほとんどはこの組織に存在すると考えられます。葉は薄くて細胞数が少ないため、維持できる気体の量は多くないと考えられます。通気組織は細胞壁と細胞壁の間が離れてできた間隙(離生細胞間隙)と細胞が破壊されてできた間隙(破生細胞間隙)のいずれかに由来します。オオカナダモの茎の通気組織がどちら起源かは調べないとわかりませんが、同じトチカガミ科のウミクサ類、ウミショウブの観察を基にした葉の通気組織の説明をします。
この組織は離生起源です。ウミショウブの葉は、地下茎から海中を立ち上がるのですが、一般の葉と違い、茎に接する部位で長期間、細胞分裂を繰り返します。ここでの細胞は小さく、原形質で満たされています。この部位の横方向3つ、上中下の3段の細胞(計9細胞)を連続するユニットの一つと想像してみて下さい。中段の両端の細胞だけが細胞分裂と伸長を繰り返すと、中央の細胞は、直ぐに上下どちらかの細胞と離れ、ここに間隙が生じます。この間隙の両側の細胞群がさらに分裂と伸長を繰り返せば、間隙は長い柱状態になります。これが通気組織で、気体の留まるスペースとなります。オオカナダモでも類似の方法で通気組織が形成されると推測されます(破生起源であっても最終的には細胞群の伸長が関係するでしょう)。
余談となりますが、ウミショウブの話を少し続けます。葉は幅が2cmほどになり、長さが1m以上にもなるのですが、基部から先端部に向かって次第に間隔が広がる横筋が形成されます。この横筋は、前記の上段と下段の細胞に由来するもので、この段の細胞の全ては分裂をしないか、してもほんのわずかと推測されます。横筋の間は周りを細胞に囲まれた通気組織です。ウミショウブの葉は先端部に大きな通気組織(大きな浮き輪)を内蔵し、基部に向かって順次小さくなる通気組織(小さな浮き輪)を持つ構造となっています。通気組織の大きさは周りの細胞の伸長の程度差によりますが、この大きさの違いによって、葉が海中で立った状態を維持できます。
総合地球環境学研究所の陀安一郎先生にウミショウブの葉から出る気体、また根と果実の中に存在する気体の酸素と窒素の割合を調べて頂きましたが、日中に採取した葉から出る気体については酸素濃度が空気より高いことが測定され、光合成が関与していることが確かめられました。果実と根につては、海水を満たした袋の中でこれらの器官から絞り出した気体を分析したのですが、根では酸素の割合が低く、呼吸の影響を受けていると推測されました。また、果実では空気とほぼ同じ組成であることが分かりました。
オオカナダモに話しを戻しますが、光合成によって酸素が形成され、これによって植物体内の気体圧力が高まり、気泡が出ることになります。光合成で作られた酸素が通気組織内に存在していた気体と混ざって濃度が薄められるため、茎の断面から出る気体の酸素濃度が100%にならないと言えます。植物体内の気体の組成については、みんなのひろば、植物組織内・器官内の気体について(登録番号1061)を参照して下さい。
高相 徳志郎(琉球大学・熱帯生物圏研究センター)
再度、このコーナーをご利用下さりありがとうございます。
事情で回答が遅くなって申しわけありません。ご質問には琉球大学の高相先生から大変詳しい回答をいただきましたので、参考になさって下さい。
(高相先生からの回答)
水生植物の体内には酸素と窒素の割合が異なりますが空気と言って良い気体が大量に含まれていて、いろいろな方法で生活に役立てています。植物体が浮いたり、果実・種子などの散布体が浮いて分布を広めることも体内の気体の存在によります。
オオカナダモの茎には通気組織がありますが、体内の気体のほとんどはこの組織に存在すると考えられます。葉は薄くて細胞数が少ないため、維持できる気体の量は多くないと考えられます。通気組織は細胞壁と細胞壁の間が離れてできた間隙(離生細胞間隙)と細胞が破壊されてできた間隙(破生細胞間隙)のいずれかに由来します。オオカナダモの茎の通気組織がどちら起源かは調べないとわかりませんが、同じトチカガミ科のウミクサ類、ウミショウブの観察を基にした葉の通気組織の説明をします。
この組織は離生起源です。ウミショウブの葉は、地下茎から海中を立ち上がるのですが、一般の葉と違い、茎に接する部位で長期間、細胞分裂を繰り返します。ここでの細胞は小さく、原形質で満たされています。この部位の横方向3つ、上中下の3段の細胞(計9細胞)を連続するユニットの一つと想像してみて下さい。中段の両端の細胞だけが細胞分裂と伸長を繰り返すと、中央の細胞は、直ぐに上下どちらかの細胞と離れ、ここに間隙が生じます。この間隙の両側の細胞群がさらに分裂と伸長を繰り返せば、間隙は長い柱状態になります。これが通気組織で、気体の留まるスペースとなります。オオカナダモでも類似の方法で通気組織が形成されると推測されます(破生起源であっても最終的には細胞群の伸長が関係するでしょう)。
余談となりますが、ウミショウブの話を少し続けます。葉は幅が2cmほどになり、長さが1m以上にもなるのですが、基部から先端部に向かって次第に間隔が広がる横筋が形成されます。この横筋は、前記の上段と下段の細胞に由来するもので、この段の細胞の全ては分裂をしないか、してもほんのわずかと推測されます。横筋の間は周りを細胞に囲まれた通気組織です。ウミショウブの葉は先端部に大きな通気組織(大きな浮き輪)を内蔵し、基部に向かって順次小さくなる通気組織(小さな浮き輪)を持つ構造となっています。通気組織の大きさは周りの細胞の伸長の程度差によりますが、この大きさの違いによって、葉が海中で立った状態を維持できます。
総合地球環境学研究所の陀安一郎先生にウミショウブの葉から出る気体、また根と果実の中に存在する気体の酸素と窒素の割合を調べて頂きましたが、日中に採取した葉から出る気体については酸素濃度が空気より高いことが測定され、光合成が関与していることが確かめられました。果実と根につては、海水を満たした袋の中でこれらの器官から絞り出した気体を分析したのですが、根では酸素の割合が低く、呼吸の影響を受けていると推測されました。また、果実では空気とほぼ同じ組成であることが分かりました。
オオカナダモに話しを戻しますが、光合成によって酸素が形成され、これによって植物体内の気体圧力が高まり、気泡が出ることになります。光合成で作られた酸素が通気組織内に存在していた気体と混ざって濃度が薄められるため、茎の断面から出る気体の酸素濃度が100%にならないと言えます。植物体内の気体の組成については、みんなのひろば、植物組織内・器官内の気体について(登録番号1061)を参照して下さい。
高相 徳志郎(琉球大学・熱帯生物圏研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2015-09-28
佐藤 公行
回答日:2015-09-28