質問者:
一般
Nakamoto
登録番号3385
登録日:2015-11-05
葉を持たないランとして日本に自生しているクモランの件です(腐植ランとは違います)みんなのひろば
無葉ランの呼吸について
根だけで光合成をし、成長を続けるらしいのです
たしかに、根に葉緑素をもっているようで緑色の根ですが、
光合成で作られたでんぷんの合成はどのように行われているのでしょうか?
根の働きの本来の呼吸は酸素を取り入れ二酸化炭素を放出していると仮定した場合、葉が退化したのか?それと進化途中で葉がないクモランは二酸化炭素をどのように取り入れているのでしょうか?
やはり、根が二酸化炭素を取り入れているのでしょうか?
その場合、気孔のようなものが根にもあるということでしょうか?よろしくお願い致します。
Nakamoto 様
質問をお寄せ下さりありがとうございます。
ご質問には根の緑化のメカニズムなどについて解析しておられる東京大学の小林先生がご回答下さいましたので参考になさって下さい。
【小林先生からの回答】
葉を持たない着生ランのクモランが根でどのように炭素固定を行っているのか、というご質問について回答いたします。
クモランの光合成を詳細に調べた文献は見つけられませんでしたが、同じく葉を持たない着生ランであるキロキスタ(Chiloschista usneoides)では研究例が報告されており、根で光合成を行うことが示されています(Cockburn et al., Plant Physiol.1985:77, 83-86)。
着生ランにはCAM型光合成を行う種が非常に多いことが知られています。CAM型光合成とは、夜間に取り込んだ二酸化炭素をリンゴ酸として固定・濃縮し、昼にまた二酸化炭素に戻して光合成によるデンプン合成に用いるというものです。これにより、日差しの厳しい昼間に気孔を開けなくてすむので、水分の蒸発を抑えることができます。着生ランは樹上などの水分を得づらい環境で生育するため、このような光合成の様式をとっていると考えられます。
それでは、葉を作らないキロキスタの場合はどうかというと、やはりこの植物も根でCAM型の光合成を行うようです。キロキスタの根には気孔はありませんが、根被にガス交換を行うための特殊化した構造を持ち、それで二酸化炭素を取り込むと考えられています。この構造を通して夜の間に二酸化炭素を取り込んでおき、昼にそれを利用することで効率的に光合成を行っているようです。森林では、日中二酸化炭素を吸収していたC3植物が夜には逆に排出するようになるので、二酸化炭素の利用という点でも、着生ランの行うCAM型光合成は有利に働く可能性があります。一方で、根の通気組織は気孔のように開けたり閉めたりできないことから、水の蒸散やガス交換をどのようにコントロールしているのかについては、今後の研究課題として残されています。また、多くのランがその生育を菌根菌(蘭菌)に依存しているように、クモランのように葉を無くしたランも根における光合成だけで生きているわけではなく、菌根菌の働きに頼って生きていると考えられています(詳しくは、塚谷裕一先生の著書「蘭への招待(集英社新書)」などをご参照下さい)。
植物の光合成というと、その専門器官である葉に焦点が当てられがちですが、根などの器官でも意外と生育環境や条件に応じて光合成を行うことが分かってきています(ご興味がありましたら、最近東京大学の教養学部報に寄せた拙著をご参照ください/http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/577/open/577-2-2.html)。今回のご質問にあるような観点からもう一度光合成を考えてみると、また新しいことが分かってくるかもしれません。ご質問をありがとうございました。
小林 康一 (東京大学大学院総合文化研究科)
質問をお寄せ下さりありがとうございます。
ご質問には根の緑化のメカニズムなどについて解析しておられる東京大学の小林先生がご回答下さいましたので参考になさって下さい。
【小林先生からの回答】
葉を持たない着生ランのクモランが根でどのように炭素固定を行っているのか、というご質問について回答いたします。
クモランの光合成を詳細に調べた文献は見つけられませんでしたが、同じく葉を持たない着生ランであるキロキスタ(Chiloschista usneoides)では研究例が報告されており、根で光合成を行うことが示されています(Cockburn et al., Plant Physiol.1985:77, 83-86)。
着生ランにはCAM型光合成を行う種が非常に多いことが知られています。CAM型光合成とは、夜間に取り込んだ二酸化炭素をリンゴ酸として固定・濃縮し、昼にまた二酸化炭素に戻して光合成によるデンプン合成に用いるというものです。これにより、日差しの厳しい昼間に気孔を開けなくてすむので、水分の蒸発を抑えることができます。着生ランは樹上などの水分を得づらい環境で生育するため、このような光合成の様式をとっていると考えられます。
それでは、葉を作らないキロキスタの場合はどうかというと、やはりこの植物も根でCAM型の光合成を行うようです。キロキスタの根には気孔はありませんが、根被にガス交換を行うための特殊化した構造を持ち、それで二酸化炭素を取り込むと考えられています。この構造を通して夜の間に二酸化炭素を取り込んでおき、昼にそれを利用することで効率的に光合成を行っているようです。森林では、日中二酸化炭素を吸収していたC3植物が夜には逆に排出するようになるので、二酸化炭素の利用という点でも、着生ランの行うCAM型光合成は有利に働く可能性があります。一方で、根の通気組織は気孔のように開けたり閉めたりできないことから、水の蒸散やガス交換をどのようにコントロールしているのかについては、今後の研究課題として残されています。また、多くのランがその生育を菌根菌(蘭菌)に依存しているように、クモランのように葉を無くしたランも根における光合成だけで生きているわけではなく、菌根菌の働きに頼って生きていると考えられています(詳しくは、塚谷裕一先生の著書「蘭への招待(集英社新書)」などをご参照下さい)。
植物の光合成というと、その専門器官である葉に焦点が当てられがちですが、根などの器官でも意外と生育環境や条件に応じて光合成を行うことが分かってきています(ご興味がありましたら、最近東京大学の教養学部報に寄せた拙著をご参照ください/http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/577/open/577-2-2.html)。今回のご質問にあるような観点からもう一度光合成を考えてみると、また新しいことが分かってくるかもしれません。ご質問をありがとうございました。
小林 康一 (東京大学大学院総合文化研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2015-11-11
佐藤 公行
回答日:2015-11-11