一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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野菜の香り成分の溶解性について

質問者:   自営業   noi
登録番号3399   登録日:2015-11-29
はじめまして。香り成分についての質問です。
わたしは料理をする仕事をしています。野菜の香りを十分に引き出した料理をしたいと思っており、その香り成分の性質を勉強しています。
もともと大学で有機化学の専攻をしていたこともあり、分子の構造をみると大体の性質は想像できます。

香り成分を調べると、テルペン類、エステル類、含硫化合物、窒化合物等があります。疎水性が多いです。

親油性を生かして、油に香りを移したりすることも可能ですが、野菜をゆでると茹汁は野菜の香りがします。

茹で汁の香りは、揮発成分を鼻で感知している可能性もありますが、味としても口の中で香ります。不揮発性分が香っているとしても、その香り成分が水溶性でないとすると、どうやってその水溶液中に香り成分が存在しているのか、まだよくわかっていない状態です。

どうして茹で汁が香るのか、教えていただきたいです。
noiさん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
化学を専攻された調理研究者がもっとも的確なお答えができるご質問だと思います。植物化学においては天然植物成分の化学を取り扱いますが多くは限られた範囲の物質群を対象としています。野菜の「茹で汁」という複雑系を研究されている方は見当たりませんが私で考えられる限りの範囲を述べることでお答えといたします。
まず、ある物質が水に溶けるか溶けないかで水溶性、水不溶性と分けていますが、溶ける、溶けないの境界ははっきりしません。日本薬局方では、1gの物質を溶かす水の量によって、きわめて溶けやすい、溶けやすい、やや溶けやすい、やや溶けにくい、・・・・・、きわめてお溶けにくい、ほとんど溶けない、などと分類しています。ということは、水に完全に(まったく)溶けない物質はきわめて少ないということを意味しています。例えば、多くの食品に含まれるリモネンというモノテルペンは「水不溶性」とされてはいますが水に対する溶解度は13.8mg/L(25℃)とされ少ないながらも水にとけることを示しています。その溶液を放置すればリモネンが空中に揮散します。一方、人の嗅覚は空中に揮散している物質分子が鼻の受容体に結合し、信号を脳に送り「匂いを感ずる」ことになります。何分子の受容体が匂い物質を受容した時に人は匂いを感ずるかは物質によって大きく異なるでしょうが少ない分子数で十分と思われ、飽和したリモネン溶液から揮散するリモネン分子を感受して匂いを感ずることは容易に推定されます。実際ミカンの皮の小片をいれた水はミカンの香りがしますね。さらに植物組織には多かれ少なかれサポニンをはじめいくつかの界面活性作用を持つ物質が含まれています。それらは組織を茹でて細胞を殺せば、脂溶性物質を包み込んで水に分散させる性質があります(マヨネーズや牛乳のように)。そのため「茹で汁」に含まれる物質は物質相互の作用によって、それぞれ純品の性質とは違った挙動をして溶解度以上が存在する可能性があります。かつて学生の頃、植物の葉を熱水で抽出してある成分を精製することをしましたが、熱水抽出液の中にはかなりの量の脂質成分も「溶けだして」おりそれを除く必要があったことを記憶しています。
「茹で汁」が香るのは香りの成分も溶けているからということになります。今は、メタボロミックスという手法で、ある複雑系に含まれる成分を網羅的に分析解析することができる時代です。茹で汁もメタボロミックスの対象として分析されたらはっきりしたことがわかってくると思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2015-12-01
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