一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クロロフィルのエネルギー伝達

質問者:   教員   yyy
登録番号3402   登録日:2015-11-30
植物生理学の教科書には「クロロフィルが光を吸収し生じたエネルギー(電子の励起エネルギー)はクロロフィル間を伝達されていく」とあります。伝達の際のエネルギーロスはないのでしょうか?ない場合にはどのようなイメージを持てばよいでしょうか?
yyy 様

ご質問を有り難うございます。
光合成において、クロロフィル(および他の色素)により吸収された光エネルギーは、色素分子の電子的励起(励起エネルギー)の形で分子間を移動し、最終的には「光化学反応中心」を構成する分子の間での電子移動(初期電荷分離)反応に利用されます。

この反応で、吸収される光量子数当たり移動する電子数として計算される光合成・光化学反応の「量子収率」は、最大値としては1に近い実測値が得られます。この値から言えるのは、反応系には多数のクロロフィル分子が介在している事実があるので、クロロフィル間のエネルギー伝達のロスは非常に少ないものであることです。ただし、励起エネルギーを積極的に散逸させる仕組みも生体には備わっておりますので、光飽和などの条件下では量子収率の値は非常に低いものとなります。

なお、「エネルギー収率」となると話は別です。光量子当たりのエネルギーは光の波長により大きく異なります(エネルギーの大きさは波長の逆数に比例する)ので、たとえ量子収率が高くとも、吸収されたエネルギーに対する反応に利用されたエネルギーの比較から求められるエネルギーロスは相当なものになります。

エネルギーの供与体となる分子から受容体分子への電子的励起状態の移動は、両分子間にまたがる電子間クーロン相互作用によりひき起こされます。生体内でクロロフィルはタンパク質との複合体として存在し、各クロロフィル分子は特定の分子環境下に一定の位置関係で配置されており、これらのクロロフィル分子間の励起エネルギー移動の仕組みは分子間相互作用の強さにより異なってきます。イメージとしては、エネルギーの供与体と受容体が近接しているため電子雲の重なりが生じていて励起状態が複数の分子間で非局在化している場合や、励起分子の作る電場の中に他の分子が配置されていて、空気中での音叉から音叉への振動の移動のように、共鳴機構でエネルギーが伝わる場合を想像して見て下さい。

なお、最近ではクロロフィルタンパク質類の高分解能での構造が解明されつつあり、その構造を基にした理論的な計算も可能になり、色素分子間エネルギー伝達の仕組みについての理解が相当進んでおりますので、詳しくは専門書をご参照ください。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2015-12-01
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