一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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種ができる時期と種を蒔く時期について

質問者:   その他   藤島 智恵
登録番号0341   登録日:2005-08-14
初めてお便りします。質問の仕方がわからないので、何か失礼があったら、ご寛恕下さい。

ペチュニアの花柄詰みをサボっていた一角に、種ができてしまったのですが、蒔いてみようと採取し、蒔き時を調べたら、4月と書いてありました。
生き物であるなら、種ができて、地面に落ちたときが蒔き時でしかるべきだと思うのですが、何故、種ができる時期と蒔き時にタイムラグがあるのですか?

風雪で、十分、土を被ったりすることが必要なのかとも思ったのですが、ペチュニアは採光性(?)とやらで土をかぶせないで蒔けと書いてあるし、不思義です。
自然の中では生きていけないのではと思います。

他の植物も種の作られる時期と、蒔き時にはタイムラグがあったと記憶していますが、何故なのでしょう?
畑のジャガイモやトマトは、もし実を取らずに放っておいたら、ちゃんと来年には世代交代して、新しい実を結ぶのですか?
藤島 智恵 さん:

ご質問に対する回答を以下のようにまとめました。
植物を相手にいろいろ試してみるとたくさんの疑問が湧いてくるものです。
ご遠慮なく当学会の質問コーナーをご利用下さい。



 植物の生き方には不思議に思うことがたくさんあります。でも、これは人の立場から見たときに不思議なので、植物の立場から見ると当たり前のことが多いのです。
 自然の状態では、植物に種子ができて成熟すると種子は地上に落ちます。動物に果実を食べられて種子が遠くに運ばれることはあっても最後は地上に落ちます。たしかに、自然に起こる「種子蒔き」は種子が作られたときですね。しかし、野生植物は種(しゅ、自分の仲間)を絶やさないよう、したたかな「生存戦略」をもっています。
野生植物の開花時期を見ると春から夏にかけて咲くもの、夏から秋にかけて咲くものなどがありますが、春に開花するものは春遅くから夏にかけて種子ができます。このような植物の種子は地上に落ちると発芽するものもありますが、野菜の種子のように「一斉に発芽」することはありません。半年から一年以上にわたって少しずつ発芽します。つまり、同じ時期にできた種子でも「不揃いに発芽」する性質をもっています。また、夏から秋にかけて咲く植物の種子は秋から冬にかけて地上に落ちますが、これらは直ぐには発芽しません。冬の低温に曝されてはじめて春になると発芽をはじめます。この場合も「一斉に発芽」することはありません。種子が発芽に適当な条件(充分の水分、適当な温度、酸素の供給)におかれても発芽しない状態を種子休眠と呼んでいます。種子の休眠は、乾燥状態で一定期間経過したり、あるいは低温に曝されたりすると破れて、種子は発芽しはじめます。種子休眠にはいろいろな仕組みがあって複雑ですが、「種の保存」に役立っていると考えられます。秋に発芽しないのは、幼植物が冬の低温や凍結という不利な環境を避けるための、また「一斉に発芽」しないことは、自然の環境が急変しても「どれかが生き残る」戦略となっています。実際は、長い進化の過程で、このような性質を持った(獲得した)植物種だけが現代まで生き残ってきたものと解釈されています。ですから多くの場合、結実時期と発芽時期との間に時間差があるのがふつうの姿です。
 一方、栽培植物は、人が何らかの目的のために意図的に育種を繰り返してきたものです。何代も何代も交雑を繰り返し、「目的に合った」性質も持つ後代だけを選別してきたものです。種子繁殖をする栽培植物については、この「目的」の中に「容易に発芽する(種子休眠が弱い)」「一斉に発芽する」「同じような生育速度をもつ」「一斉に開花、結実する」性質なども含まれていたのです。ペチュニアは「花鑑賞」を目的に育種改良を繰り返されている栽培植物の代表の一つとも言えます。育種に終わりはなく、今でもどこかの育種家が「新しい品種」を求めて繰り返しています。「初夏から秋口にかけて咲く」性質は残されていますので種子のできた秋に蒔けば発芽しないか、発芽しても幼植物で越冬することになり栽培管理が難しくなります。春に蒔けば、容易に発芽し、生育条件もよくて栽培管理が容易ということになります。栽培植物の種子でも休眠していて低温処理で休眠を破らなければ発芽しないものもあります。種子休眠は光をあてると破られる植物もあります。このような種子を「光発芽種子」と呼んでいますが、ペチュニアもこの仲間に入ります。このような種子は、発芽床に蒔いたあと覆土しないで光にあたるようにする必要があります。
 最後のご質問の家庭栽培でできたジャガイモやトマトの種子を蒔いたら翌年種子をつけるかどうか、という点はジャガイモとトマトではかなり違います。ふつう、家庭で栽培するジャガイモはイモを食べるための品種で「男爵」とか「メイクイーン」がほとんどだと思います。ところが、これらの品種は花粉が十分成熟しない性質をもっていて、花は咲きますがまず果実をつけません。デンプンをとるための品種、ポテトチップス用の品種、例えば「トヨシロ」という品種では雌しべ、花粉ともに正常で果実、種子をつけます。このような種子を蒔いてできる1年目の植物は弱々しく、イモも小形で色、形が安定していない上収穫量もかなり少なくなります。一方、トマトの種子を蒔いて育てれば翌年、果実を採ることができます。しかし、最近の市販栽培植物の多くは「1代雑種(F1ハイブリッド)」で「雑種強勢」を利用して優良形質がでるようになっています。その種子(雑種2代目)では雑種の両親の形質が分離しますので、親の優良形質は再現しませんので失望することになります。栽培植物は人の手によって選別され栽培される、いわば「飼い慣らされた」品種ですので、人の手から離れた自然環境下ではその特性を次第に失ってしまいます。
JSPPサイエンスアドバイザー
 今関 英雅
回答日:2009-07-03