質問者:
大学生
Minami.N
登録番号3421
登録日:2016-01-25
植物の花芽の形成に欠かせないのがフロリゲンという物質であることを先日大学の講義で学びました。そしてそのフロリゲンはロゼット型植物のシロイヌナズナから発見されたということですが、このシロイヌナズナのようなロゼット型植物の茎を成長させるのもフロリゲンの作用によるものなのでしょうか。それとも、フロリゲンは花芽の形成にのみ関与し、茎の成長には別の物質が関わっているのでしょうか。ご回答お願いいたします。
みんなのひろば
ロゼット型植物の茎が伸びるために必要な物質
Minami.N様
ご質問どうも有難うございました。
フロリゲンおよび花芽形成を研究されている京都大学生命科学研究科の荒木崇先生にご回答頂きました。
【荒木先生からのご回答】
ご質問ありがとうございます。
まず、ご質問への答えですが、ロゼット植物の茎の伸長にはフロリゲン以外の別の物質(例えば、植物ホルモンのひとつであるジベレリンなど)が関わっていると考えられます。
大学生ということなので、専門的な内容も含めて、少し説明を加えます。
まず、ジベレリンと茎の伸長の関係ですが、ジベレリン合成ができないシロイヌナズナの ga1変異体(ent-カウレン合成酵素が欠損)では、短日条件では茎の伸長も花成も起こらずに、ロゼットのまま成長を続けます。このことは、この生育条件では、茎の伸長と花成にジベレリンが必須であることを示しています。しかし、長日条件では、抑制はされるものの茎の伸長は起こります(花成もです)。したがって、ジベレリンは重要ですが、主茎の伸長を引き起こす唯一の制御要因というわけではなさそうです。
次に、フロリゲンと茎の伸長の関係です。
シロイヌナズナには、FTとTSF(TWIN SISTER OF FT)という2つのフロリゲン遺伝子があります。したがって、これら2つの遺伝子の機能が失われるとフロリゲンはつくられないことになります。実際、そのような植物(ft tsf 二重変異体)をつくると、花成は大幅に遅れます(しかし、起こります)が、茎の伸長は正常に起こります。2つのフロリゲン遺伝子が正常な野生型と伸長速度にも差はありません。このことは、茎の伸長には、(ジベレリンがあれば)フロリゲンは必須ではないことを示しています。しかし、興味深いことに、側枝の伸長は、2つのフロリゲン遺伝子のいずれかが失われると抑制されます。伸長開始が遅れ、伸長速度が減少するためです。つまり、シロイヌナズナのフロリゲン遺伝子は、茎(側枝の茎と区別するため、以下、主茎とします)の伸長には必須ではないが、側枝の成長を促進する役割をもつということです。いくつかの実験から、側枝の成長に対する影響は、花成に対する影響の二次的な効果ではないことがわかっています。その仕組みはわかりませんが、フロリゲンは側枝の伸長に直接関わっているように思われます。
ただし、少し注意が必要です。ft tsf 二重変異体の場合には、ジベレリンは正常に合成されます。そのため、「(ジベレリンがあれば)」主茎の伸長にはフロリゲンは必須ではない、と書きました。ジベレリン合成ができないga1変異体では、長日条件では花成と主茎の伸長がともに起こるのに対して、短日条件(フロリゲンの合成がほとんどない)ではどちらも起こらないことから、ジベレリンがない場合には、フロリゲンが主茎の伸長に必要である可能性は否定できません。もっとも、短日条件では欠けている「フロリゲン以外の何か」が花成と主茎の伸長に関わる可能性もあります。
ロゼット植物では、主茎の伸長と花成は密接に結びついているように見えます。上に紹介した短日条件のga1変異体の例などからも2つの密接な関連が看て取れます。さて、シロイヌナズナでは2つのフロリゲン遺伝子の機能が失われても、大幅に遅れるものの、花成は起こります(この点はイネの場合とは異なります。イネでは2つのフロリゲン遺伝子、Hd3aとRFTの機能が失われると花成は起こりません)。しかし、あと二つの遺伝子、SOC1とLFYの機能が失われた場合(ft tsf soc1 lfy 四重変異体)には、花芽形成はまったく起こらなくなります。でも、そのような場合でも、主茎の伸長は起こります。このことは、(シロイヌナズナの場合には)主茎の伸長は必ずしも花成には依存しない(花成の結果として主茎の伸長が起こるのではない)ことを意味しています。
話が複雑になりましたね。私自身も関心を持っている問題でしたので、説明が少し細部におよびました。
研究が進んで、植物の成長について多くのことがわかるようになりましたが、ご質問の問題のように、突き詰めて考えるとまだ十分にわかっていないことは多いです。
荒木 崇(京都大学生命科学研究科)
ご質問どうも有難うございました。
フロリゲンおよび花芽形成を研究されている京都大学生命科学研究科の荒木崇先生にご回答頂きました。
【荒木先生からのご回答】
ご質問ありがとうございます。
まず、ご質問への答えですが、ロゼット植物の茎の伸長にはフロリゲン以外の別の物質(例えば、植物ホルモンのひとつであるジベレリンなど)が関わっていると考えられます。
大学生ということなので、専門的な内容も含めて、少し説明を加えます。
まず、ジベレリンと茎の伸長の関係ですが、ジベレリン合成ができないシロイヌナズナの ga1変異体(ent-カウレン合成酵素が欠損)では、短日条件では茎の伸長も花成も起こらずに、ロゼットのまま成長を続けます。このことは、この生育条件では、茎の伸長と花成にジベレリンが必須であることを示しています。しかし、長日条件では、抑制はされるものの茎の伸長は起こります(花成もです)。したがって、ジベレリンは重要ですが、主茎の伸長を引き起こす唯一の制御要因というわけではなさそうです。
次に、フロリゲンと茎の伸長の関係です。
シロイヌナズナには、FTとTSF(TWIN SISTER OF FT)という2つのフロリゲン遺伝子があります。したがって、これら2つの遺伝子の機能が失われるとフロリゲンはつくられないことになります。実際、そのような植物(ft tsf 二重変異体)をつくると、花成は大幅に遅れます(しかし、起こります)が、茎の伸長は正常に起こります。2つのフロリゲン遺伝子が正常な野生型と伸長速度にも差はありません。このことは、茎の伸長には、(ジベレリンがあれば)フロリゲンは必須ではないことを示しています。しかし、興味深いことに、側枝の伸長は、2つのフロリゲン遺伝子のいずれかが失われると抑制されます。伸長開始が遅れ、伸長速度が減少するためです。つまり、シロイヌナズナのフロリゲン遺伝子は、茎(側枝の茎と区別するため、以下、主茎とします)の伸長には必須ではないが、側枝の成長を促進する役割をもつということです。いくつかの実験から、側枝の成長に対する影響は、花成に対する影響の二次的な効果ではないことがわかっています。その仕組みはわかりませんが、フロリゲンは側枝の伸長に直接関わっているように思われます。
ただし、少し注意が必要です。ft tsf 二重変異体の場合には、ジベレリンは正常に合成されます。そのため、「(ジベレリンがあれば)」主茎の伸長にはフロリゲンは必須ではない、と書きました。ジベレリン合成ができないga1変異体では、長日条件では花成と主茎の伸長がともに起こるのに対して、短日条件(フロリゲンの合成がほとんどない)ではどちらも起こらないことから、ジベレリンがない場合には、フロリゲンが主茎の伸長に必要である可能性は否定できません。もっとも、短日条件では欠けている「フロリゲン以外の何か」が花成と主茎の伸長に関わる可能性もあります。
ロゼット植物では、主茎の伸長と花成は密接に結びついているように見えます。上に紹介した短日条件のga1変異体の例などからも2つの密接な関連が看て取れます。さて、シロイヌナズナでは2つのフロリゲン遺伝子の機能が失われても、大幅に遅れるものの、花成は起こります(この点はイネの場合とは異なります。イネでは2つのフロリゲン遺伝子、Hd3aとRFTの機能が失われると花成は起こりません)。しかし、あと二つの遺伝子、SOC1とLFYの機能が失われた場合(ft tsf soc1 lfy 四重変異体)には、花芽形成はまったく起こらなくなります。でも、そのような場合でも、主茎の伸長は起こります。このことは、(シロイヌナズナの場合には)主茎の伸長は必ずしも花成には依存しない(花成の結果として主茎の伸長が起こるのではない)ことを意味しています。
話が複雑になりましたね。私自身も関心を持っている問題でしたので、説明が少し細部におよびました。
研究が進んで、植物の成長について多くのことがわかるようになりましたが、ご質問の問題のように、突き詰めて考えるとまだ十分にわかっていないことは多いです。
荒木 崇(京都大学生命科学研究科)
JSPP広報委員長
松永 幸大
回答日:2016-02-03
松永 幸大
回答日:2016-02-03