質問者:
一般
二上山の風
登録番号3425
登録日:2016-01-31
イヌビワなどのイチジク状花(果)の口は堅く閉じられています。ここからは花粉は散布されないと考えられます。では花の香りは出ているのでしょうか。それも花の構造上、出にくくなっていると考えられます。みんなのひろば
イチジクコバチはどのようにイチジクを見つけるか
また、一方で視覚によって、コバチはイチジクの果のうを見つけるという方法は森の中では不利な方法だと考えられます。
いったいコバチはどのような方法でイチジクを見つけているのでしょうか。
実験方法も思いつきませんので教えていただきたいと思います。
二上山の風さま
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を、イヌビワならこの方と言われる岡本素治先生にお願いいたしましたところ、丁寧なご回答をお寄せ下さいました。参考になると思います。しっかり勉強して下さい。
【岡本先生からのご回答】
ご質問の文面から、イチジクの仲間の受粉システムやイチジクコバチとの共生関係についてはご存知のことと推察いたしました。もしご不明の点があれば、当質問コーナーのバックナンバーをご参照下さい。
イチジクコバチが、どのような方法でイチジクを見つけるのかというご質問ですが、研究者は臭い物質に違いないと考えてきました。ご指摘のとおり、コバチを受け入れる時期のイチジク果嚢は、視覚で見つけるにはあまりにも目立たないものですし、それにもかかわらず、とんでもなく隠れた場所にあるイチジクにもコバチはやって来るからです。
果嚢の形態からみて、内部にある花の匂い物質は外には出にくいのではないかということですが、コバチを受け入れる時期は果嚢の入り口の鱗片が最もゆるんでいる時期なので、匂い物質が出ることも可能なのだと思います。
1990年代あたりから、イチジクの仲間の花の匂い物質の特定が精力的に行われています。その結果分かってきたことは;
(1)コバチを受け入れる時期の果嚢、すなわち内部の雌花が開花している時期のものは、他の時期とは異なる匂い物質を出している。<物質的には、terpenoidやaliphatic compoundsやシキミ酸経路由来物質>
(2)調べられたほとんどの種が複数(10種類程度)の匂い物質を出している。
(3)それぞれの種に数種類の量的に主要な匂い物質があるが、それらは他の花にも見られる物質で、イチジク属やその種に特異的なものではない。
(4)中には、他の花や他のイチジク種では知られていない臭い物質をもつものもあるが、すべての種がそんな特異な匂い物質をもっているわけではなく、また、量的にはその種の匂い物質の中で主要なものではない。
以上のようなことから、単独の種特異的な匂い物質がコバチの誘引物質となっているケースもあるかもしれないが、多くの場合は、それほど特異的ではない匂い物質の混合割合で種特異性が保たれているのであろう、と考えられています。このようなシステムでは、かなりの融通性も予想されるわけですが、実際に、近縁な2種のコバチが1種類のイチジクを利用している例や、1種類のコバチが2種類のイチジクを利用している例も知られています。
私の最も感動した観察経験を紹介しておきます。ビデオ撮影用に三脚の上に1個のコバチ受け入れ期のイヌビワ果嚢をセットしていた時のことです。気付くと、いつのまにか1匹のイヌビワコバチが、その果嚢の1mばかり上でクルクルと輪を描いて飛んでいたのです。そのときは、あわててネットで捕獲してイヌビワコバチであることを確認したのですが、馬鹿なことをしたと今でも後悔しています。じっと待っていたら、やがてスーと糸を引くようにイヌビワ果嚢上に着地したに違いないのです。
匂い物質の特定には高価な機器が必要ですが、まずは身近な観察から。そこから、おもしろい実験方法も産まれてくるかもしれません。ただし、イチジクコバチの観察には早起きが肝要です。遅くとも6時には観察体勢に入っていることが必要です。
岡本 素治(きしわだ自然資料館)
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を、イヌビワならこの方と言われる岡本素治先生にお願いいたしましたところ、丁寧なご回答をお寄せ下さいました。参考になると思います。しっかり勉強して下さい。
【岡本先生からのご回答】
ご質問の文面から、イチジクの仲間の受粉システムやイチジクコバチとの共生関係についてはご存知のことと推察いたしました。もしご不明の点があれば、当質問コーナーのバックナンバーをご参照下さい。
イチジクコバチが、どのような方法でイチジクを見つけるのかというご質問ですが、研究者は臭い物質に違いないと考えてきました。ご指摘のとおり、コバチを受け入れる時期のイチジク果嚢は、視覚で見つけるにはあまりにも目立たないものですし、それにもかかわらず、とんでもなく隠れた場所にあるイチジクにもコバチはやって来るからです。
果嚢の形態からみて、内部にある花の匂い物質は外には出にくいのではないかということですが、コバチを受け入れる時期は果嚢の入り口の鱗片が最もゆるんでいる時期なので、匂い物質が出ることも可能なのだと思います。
1990年代あたりから、イチジクの仲間の花の匂い物質の特定が精力的に行われています。その結果分かってきたことは;
(1)コバチを受け入れる時期の果嚢、すなわち内部の雌花が開花している時期のものは、他の時期とは異なる匂い物質を出している。<物質的には、terpenoidやaliphatic compoundsやシキミ酸経路由来物質>
(2)調べられたほとんどの種が複数(10種類程度)の匂い物質を出している。
(3)それぞれの種に数種類の量的に主要な匂い物質があるが、それらは他の花にも見られる物質で、イチジク属やその種に特異的なものではない。
(4)中には、他の花や他のイチジク種では知られていない臭い物質をもつものもあるが、すべての種がそんな特異な匂い物質をもっているわけではなく、また、量的にはその種の匂い物質の中で主要なものではない。
以上のようなことから、単独の種特異的な匂い物質がコバチの誘引物質となっているケースもあるかもしれないが、多くの場合は、それほど特異的ではない匂い物質の混合割合で種特異性が保たれているのであろう、と考えられています。このようなシステムでは、かなりの融通性も予想されるわけですが、実際に、近縁な2種のコバチが1種類のイチジクを利用している例や、1種類のコバチが2種類のイチジクを利用している例も知られています。
私の最も感動した観察経験を紹介しておきます。ビデオ撮影用に三脚の上に1個のコバチ受け入れ期のイヌビワ果嚢をセットしていた時のことです。気付くと、いつのまにか1匹のイヌビワコバチが、その果嚢の1mばかり上でクルクルと輪を描いて飛んでいたのです。そのときは、あわててネットで捕獲してイヌビワコバチであることを確認したのですが、馬鹿なことをしたと今でも後悔しています。じっと待っていたら、やがてスーと糸を引くようにイヌビワ果嚢上に着地したに違いないのです。
匂い物質の特定には高価な機器が必要ですが、まずは身近な観察から。そこから、おもしろい実験方法も産まれてくるかもしれません。ただし、イチジクコバチの観察には早起きが肝要です。遅くとも6時には観察体勢に入っていることが必要です。
岡本 素治(きしわだ自然資料館)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2016-02-04
柴岡 弘郎
回答日:2016-02-04