一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クロロフィルの分解の目的と落葉の関係について

質問者:   会社員   ともや
登録番号3434   登録日:2016-02-14
植物は落葉前にクロロフィルを分解し,窒素分等を吸収しているそうですが,この目的として以下のように考えてみました。しかし,色々調べてみましたがこの考えが正しいと確証を得られるものを見つけられません。この考えは正しいのでしょうか。

落葉をする→蒸散が起こらなくなる→根から硝酸イオンを吸収できなくなる→窒素同化が出来なくなる→落葉前にクロロフィルから窒素を回収しておく。

お忙しい中大変恐縮ですが,お時間あるときにご回答いただけると幸いです。宜しくお願い致します。
ともや 様

本コーナーをご利用下さり有り難うございます。
ご質問にはクロロフィルの代謝について研究されている北海道大学の田中 歩先生が回答して下さいました。参考になさって下さい。

【田中先生からの回答】
クロロフィルはピロール環(分子式C4H5N)が4つ環状に繋がった構造を中核とする分子です。1つのピロール環に1つの窒素原子がありますので、クロロフィル1分子あたり、4つの窒素原子を持っていることになります。老化時にクロロフィルから窒素を回収し、それを成長組織に運ぶことは合理的な考え方で、私たちも以前はそのように考えていました。そのため、多くの研究者が、クロロフィルがモノマーのピロール分子やアミノ酸にならないか調べたのですが、残念ながらそのような分子を見つけることは出来ませんでした。

ところが、最近の研究によって、クロロフィルの最終分解物は、4つのピロール環が線状に繋がった開環テトラピロール分子だということがわかりました。この分子は、環状のクロロフィルに酸素が取り込まれて開環することにより出来たものです。この分子は、液胞にためられていました。そしてその量を測定すると、分解したクロロフィルに相当する量が蓄積していました。これらの研究によって、クロロフィル分子の窒素は再利用されないことがわかりました。

ではなぜクロロフィルの窒素は再利用されないのでしょうか。これはまだ確かではありませんが、私は次のように考えています。クロロフィルはグルタミン酸と言うアミノ酸から合成されますが、クロロフィルを再びアミノ酸に戻すのは、植物にとって少し厄介な反応のようです。動物もピロール環が4つ繋がった分子(ヘムなど)を持っていますが、分解せず開環して捨てることが多いようです。一方、植物に存在する窒素の多くは、タンパク質に存在しています。タンパク質の窒素は、容易にアミノ酸に変換し、再利用することが可能です。クロロフィル分子にも窒素はありますが、その窒素は細胞中の全窒素に対して2%程度です。たとえ無理してクロロフィルの窒素の再利用系を作ったとしても、植物にとって大きなメリットは無いと考えられます。

なぜクロロフィルは環状から線状の分子に分解されるのでしょうか?実は、使われなくなったクロロフィルが植物に存在すると少し危険です。この分子は光を吸収すると活性酸素を発生させてしまいます。活性酸素が多く発生すると、細胞は死んでしまいますので、このようなことを避けるため、クロロフィルを安全な分子に転換しなければなりません。クロロフィルの最終分解産物である開環テトラピロールは活性酸素を発生しない安全な分子であることが知られています。クロロフィル分解の最も重要な目的は、クロロフィルを安全な分子に転換することなのです。

 田中 歩(北海道大学低温科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2016-02-16
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