一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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マツバギクの開閉

質問者:   中学生   みさと
登録番号0344   登録日:2005-08-16
マツバギクの花は日があたると開き暗くなると閉じます、その仕組みはそのようになっているのでしょうか。
みさと さん

マツバギクの花の開閉についてのご質問ですが、この花の開閉について研究されている方はおられませんでした。チューリップの花の開閉について、これが光によるのでなく温度に関係すること、さらにこの開閉が水の細胞内への吸収に関与するアクアポリンの活性制御によって調節されることを見出された、島根大学生物資源科学部・生命工学科の柴田 均 教授から、次のような回答を頂きました。これを参考にして、マツバギクの花がどうして開閉するのか、未解決の問題にチャレンジして下さい。

春先になるとチューリップが咲きますが、花弁が毎日、開閉を繰り返していることをご存知だろうと思います。昼間開いている花が夕方には閉じて、翌朝の10時ごろにはまた開いています。チューリップ花弁の開閉には温度が関わっています。花から約10センチメートル下のところで茎を切り、そして水を入れた容器に生け花のように挿します。真っ暗な冷蔵庫(5℃位)に入れ1時間もすると花は完全に閉じます。閉じた花を今度は真っ暗な暖かいところ(20℃位)へ移すと、1時間ほどで完全に開きます。春先はまだ寒いので、玄関に飾ってある生け花のチューリップは夕方には閉じてしまいます。照明をつけずにストーブなどで玄関を暖めますと、夜でも開きます。このようにチューリップには、光と関係しないで、20℃で開き、5℃で閉じる仕組みが備わっています。
 動物の体も、植物の体も細胞の最も多い成分は水ですが、細胞への水の出入りには特別なチャンネル(水チャンネル)が用意されています。アクアポリンと名付けられた細胞膜に存在するタンパク質が水チャンネルを構成しています。チャンネルですからいつでも開いているわけではなく、水の移動が必要なときには開き、移動が必要でなくなれば閉じなければなりません。水チャンネルが開く(活性化する)場合には、アクアポリンにある種の化学基(リン酸基)が導入されて、水が通過できる構造へと変化します。一方、この化学基が取り除かれると、チャンネルが閉じて水が通過できなくなります。水チャンネルの存在と開閉に関する研究成果が、2003年度のノーベル賞の化学部門での受賞対象になりました。
 さて、チューリップ花弁の開閉についてですが、閉じている花弁を20℃に移すと、水チャンネルが活性化され、茎から花びらへの水の移動が開始されます。花びらの下部に水がたくさん溜まり、膨圧が高くなって、チューリップの開花が誘導されます。開いている間はどんどん水が送り込まれて、余分の水は気孔から空気中へどんどん蒸散します。チューリップがたくさんの水を必要とする花であることと関連していると思われます。さて夕方になって温度が下がってくると、水チャンネルに導入された化学基(リン酸基)を切り離す仕組みが働いて、水チャンネルが閉じます。この後もしばらく蒸散が続き、花びらから水が失われるので、膨圧が下がり、花弁が閉じるのです。
 マツバギクは日陰になると花が閉じ、日の光を受けて開くようですが、開花の時と開いている状態を維持するためには水の移動が必要だと思われます。水チャンネルの活性化が、チューリップのように温度に反応しているのか、それとも光の量のみが関係しているのかは、現時点ではわかりません。マツバギクを生け花の状態にして、温度を変えて開閉が影響されるか実験されてはいかがでしょうか。

 柴田 均 (島根大学生物資源科学部生命工学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
 浅田 浩二
回答日:2009-07-03
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