一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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胚乳のデンプンとアミラーゼ

質問者:   教員   YW
登録番号3440   登録日:2016-02-29
高校の教科書に、ジベレリンによるオオムギの発芽のしくみが出ています。ジベレリンによりアリュロン層の細胞でアミラーゼが合成され、そのアミラーゼが胚乳のデンプンを分解すると出ています。アリュロン層の細胞から、アミラーゼはどのように出るのでしょうか? また胚乳のデンプンにアミラーゼはどのように働くのでしょうか?デンプンは胚乳の細胞の中にあって、そのままではアミラーゼが働けないと思い、いつか生徒に質問されないかドキドキしながら授業をしています。教えてください、よろしくお願いいたします。
YWさん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
科学が進展してくると中等教育においても新しい展開を教えなければならないので教科書を書く人も教える人もご苦労が絶えないと思います。特に生物学では、かつては個体、器官、組織レベルでのマクロな構造、働きから細胞レベル、生化学レベルでの構造、働きや仕組みに、さらに遺伝子レベルでの働きや仕組みへと重心が移るにつれて中等教育の難しさが倍増してくることは容易に推察できます。
さて、ご質問ですが、細胞レベル、遺伝子レベルでの知見が非常にたくさん蓄積されてかなりのことがわかってきています。詳しい解説をすることは出来ませんのでごくごく大ざっぱに筋道だけをお答えします。
まず指摘しなければならないことは、ジベレリンはアミラーゼの合成だけを促進するのでなく、細胞壁分解、たんぱく質や核酸などの高分子の分解に関与する加水分解酵素類の合成をも促進することです。
次に、細胞内でたんぱく質は粗面小胞体上で合成されますが、細胞質ゾルに滞留するほか葉緑体、ミトコンドリア、マイクロボディ(ペルオキシソームやグリオキシソームなど)、液胞などの細胞小器官に運ばれるとともに、分泌型たんぱく質は分泌過程を経て細胞外へ分泌されます。どのたんぱく質が細胞内のどこに配置されるかははかなり厳密に決められています。
問題としているアミラーゼは分泌型タンパク質(アミラーゼにはいろいろな型があります)で細胞外へ排出される特性をもっています。粗面小胞体上で合成されると小胞に取り込まれてゴルジ体へ運ばれ、ゴルジ体で修飾を受けて(分泌型になる)再び小胞に取り込まれて細胞膜へ運ばれます。この小胞が細胞膜と融合して割れると中身のたんぱく質は細胞外へ吐き出されるといった仕組みです。(細胞内でのたんぱく質の移動は膜で囲まれた小胞内に取り込まれて行われます。小胞はトラック、たんぱく質は積荷に当たります)
アリュウロン細胞にジベレリンが働くとアミラーゼのほかに細胞壁分酵素などもアミラーゼと同じ仕組みで合成され分泌されます。この細胞壁分解酵素が厚いアリュウロン細胞の細胞壁を部分分解して穴をあける形になるためアミラーゼその他の分泌酵素類はアリュウロン細胞周囲の細胞間隙に出て胚乳細胞と接触し胚乳細胞の細胞壁を同じように部分分解して胚乳内に移って、でん粉をはじめ胚乳細胞内容物を分解します。分解物は胚へ運ばれ胚の成長に使われます。胚と胚乳の境には胚盤という細胞層がありますが、これが分解物を胚へ移動させる働きをしています。
かなり複雑な仕組みになっています。新たな疑問がありましたらご遠慮なく当コーナーをご利用ください。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2016-03-01
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