やっくん

　地球は磁場の中にあるので、地球に生育する植物になにか影響を及ぼすだろうな、と疑問に思うのは当然ですね。超高圧とか無重力といった「極限状態」での生物の行動が最近行われるようになりましたが、植物生育と磁場との関係では、みんなが同意するようなはっきりした研究成果は少ないようです。大阪市立大学の保尊先生に伺いました。

　植物の成長や生育に対する磁場の影響については、昔からいろいろと研究されてきました。しかし、結果は一定ではありませんでした。その主な理由は、植物の成長が、光、重力、温度、あるいは水分などの他の環境要因によって、磁場以上に強く影響されるからです。最近になって、他の要因の影響をできるだけ取り除いた条件下で、磁場の作用が研究されるようになりました。例えばスペースシャトルや宇宙ステーションの中では無重力ですが地球の磁場は残っています。光、温度、水分などは実験規模では人が自由に調節することができますから、磁場だけの影響を調べることができそうですね。その結果、微小磁場環境では植物の成長が促進され、逆の強磁場の下では阻害されること、また、磁場の勾配を与えると磁場の弱い方向に向かって成長することが、いくつかの植物で見いだされました。ただし、成長に対する磁場の作用はそれほど大きなものではありませんし、作用のしくみについてはほとんどわかっていません。植物を含む生物体は一種の磁性体（磁場に置くと磁気を帯びる物体）ですから、何らかの形で影響を受けることは考えられます。
　植物が成長する向きと方角との関係についてもいろいろといわれています。大根のひげ根についてはわかりませんが、樹木の年輪が南側に膨らんでいると言われていることは俗説です。実際には年輪の偏りは様々で、原因は、光、重力、温度、水分や生育地の傾斜などの影響と考えられます。しかし、磁場はあまり関係していないと思われます。植物の成長は多くの環境要因によって調節されていますから、磁場の作用だけを抜き出して理解するのは難しいものです。

　保尊　隆享（大阪市立大学大学院理学研究科）