質問者:
自営業
まさと
登録番号3466
登録日:2016-04-26
私は静岡県でメロンを生産しているのですが、温室メロンは露地栽培メロンよりも喉や舌がイガイガしないという感想をよく聞きます。ククミシンについて
イガイガの原因を調べてみた所、ククミシンという、たんぱく質分解酵素でした。またククミシンは、病害虫などから身を守るための機能としての役割があると聞きます。
そこで、温室メロンのような、病害虫に比較的侵されにくい環境であると、露地栽培メロンに比べククミシンの含有量は低くなるのでしょうか。また喉や舌のイガイガが感じにくいのは、ククミシンの量が原因なのでしょうか。
回答を頂けると幸いです。
まさと様
ご質問、どうもありがとうございます。
ククミシンの研究をご専門とされている龍谷大学の山形裕士先生にご回答いただきました。
【山形先生のご回答】
最初にククミシンについてお話します。ククミシンは、プリンスメロンのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の名前で、メロンの学名、Cucumis meloから名付けられました。プリンスメロン以外の多くのメロン品種も類似のプロテアーゼを持っており、それらの酵素もククミシンと呼ばれています。プリンスメロンは、表面に網目(ネット)がないマクワウリの一種(ニューメロン)と美しい網目のあるマスクメロン(網メロン)の一種(シャランテ)との交配により生み出されたF1ハイブリッド品種です。シャランテはククミシンを含んでいますが、ニューメロンはククミシンをまったく含んでいませんので、プリンスメロンのククミシンはシャランテ由来の酵素ということになります。すべての品種について網羅的に調べられてはいませんが、網メロンのアンデスメロン、アムスメロン、夕張メロンなどはククミシンを含んでいますので、大雑把に言って西洋系の網メロンはククミシンを含み、東洋系のマクワウリはククミシンを含まないと推定されます。なお、ククミシン様プロテアーゼは、シロウリ、ヘビウリ、クロダネカボチャなどの他のウリ科植物の果実にも含まれていますが、キュウリ、スイカ、ヘチマなどの果実には含まれていません。マクワウリはククミシンを含んでいませんがプリンスメロンの果実と同じように成熟しますので、ククミシンは果実の成長・成熟に必須の酵素とは考えられず、その生理的役割は未だに不明です。ご質問のように、ククミシンが病害虫の侵入からの防御に働いているとか、鳥や動物が食べたものの消化を促すことにより果実の摂食を進め結果的に種子の拡散を助けているというような役割が推定されますが、それらを示す直接的な証拠はありません。
メロンを食べると喉がイガイガしたり、舌や唇がピリピリすることがあります。ククミシンはアレルギー反応を引き起こすアレルゲンとなることが報告されていますが、食べてすぐに生じる喉のイガイガやかゆみ、唇のピリピリ感はアレルギー反応ではなく、ククミシンのプロテアーゼ活性により口腔内の粘膜等が攻撃を受けるためです。ククミシンは様々なタンパク質を分解し、高温やアルカリ性のpHでも安定で強力なプロテアーゼで、果実中の含量も多いためにこのような症状が出ると考えられます。なお、ククミシンは果実中の種子の周囲で合成され、果芯部の果汁中に分泌されて蓄積しており、食用となる果肉では合成されません。果汁の多くは種子とともに捨てられますが、症状が気になる場合はなるべく果汁を摂らないようにすると良いと思います。ただし、果実の成熟に伴い増加した果汁の一部は果肉に染み込んでいきますので完全に取り除くことはできません。
ところで、ご質問のようにメロンの栽培方法には温室栽培や露地栽培がありますが、品種によって栽培方法が異なり、マスクメロンなどの高級メロンは温室栽培され、アンデスメロンやプリンスメロン、マクワウリなどは主にハウスまたは露地で栽培されることが多いようです。喉のイガイガが生じるか生じないかはメロンの栽培方法によるのではなく、上記のようにククミシンを含むか含まないかというメロンの品種の差によるものと思われます。温室栽培されるマスクメロンはプリンスメロンと同程度に多くのククミシンを含んでいますので、温室メロンの方が露地メロンに比べて喉のイガイガが生じにくいという評判の真偽は疑わしいです。ただし、ククミシンを含むメロンの中でも品種や時期によってククミシンの含量が違う可能性はあります。ククミシンは受粉後1〜2週間程度の若い果実中で急速に合成され、その後はメロン果実中でもっとも含量の多いタンパク質として安定して果汁中に蓄積されます。特に栽培方法によって含量が変化するという報告はありません。
山形 裕士(龍谷大学農学部植物生命科学科)
ご質問、どうもありがとうございます。
ククミシンの研究をご専門とされている龍谷大学の山形裕士先生にご回答いただきました。
【山形先生のご回答】
最初にククミシンについてお話します。ククミシンは、プリンスメロンのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の名前で、メロンの学名、Cucumis meloから名付けられました。プリンスメロン以外の多くのメロン品種も類似のプロテアーゼを持っており、それらの酵素もククミシンと呼ばれています。プリンスメロンは、表面に網目(ネット)がないマクワウリの一種(ニューメロン)と美しい網目のあるマスクメロン(網メロン)の一種(シャランテ)との交配により生み出されたF1ハイブリッド品種です。シャランテはククミシンを含んでいますが、ニューメロンはククミシンをまったく含んでいませんので、プリンスメロンのククミシンはシャランテ由来の酵素ということになります。すべての品種について網羅的に調べられてはいませんが、網メロンのアンデスメロン、アムスメロン、夕張メロンなどはククミシンを含んでいますので、大雑把に言って西洋系の網メロンはククミシンを含み、東洋系のマクワウリはククミシンを含まないと推定されます。なお、ククミシン様プロテアーゼは、シロウリ、ヘビウリ、クロダネカボチャなどの他のウリ科植物の果実にも含まれていますが、キュウリ、スイカ、ヘチマなどの果実には含まれていません。マクワウリはククミシンを含んでいませんがプリンスメロンの果実と同じように成熟しますので、ククミシンは果実の成長・成熟に必須の酵素とは考えられず、その生理的役割は未だに不明です。ご質問のように、ククミシンが病害虫の侵入からの防御に働いているとか、鳥や動物が食べたものの消化を促すことにより果実の摂食を進め結果的に種子の拡散を助けているというような役割が推定されますが、それらを示す直接的な証拠はありません。
メロンを食べると喉がイガイガしたり、舌や唇がピリピリすることがあります。ククミシンはアレルギー反応を引き起こすアレルゲンとなることが報告されていますが、食べてすぐに生じる喉のイガイガやかゆみ、唇のピリピリ感はアレルギー反応ではなく、ククミシンのプロテアーゼ活性により口腔内の粘膜等が攻撃を受けるためです。ククミシンは様々なタンパク質を分解し、高温やアルカリ性のpHでも安定で強力なプロテアーゼで、果実中の含量も多いためにこのような症状が出ると考えられます。なお、ククミシンは果実中の種子の周囲で合成され、果芯部の果汁中に分泌されて蓄積しており、食用となる果肉では合成されません。果汁の多くは種子とともに捨てられますが、症状が気になる場合はなるべく果汁を摂らないようにすると良いと思います。ただし、果実の成熟に伴い増加した果汁の一部は果肉に染み込んでいきますので完全に取り除くことはできません。
ところで、ご質問のようにメロンの栽培方法には温室栽培や露地栽培がありますが、品種によって栽培方法が異なり、マスクメロンなどの高級メロンは温室栽培され、アンデスメロンやプリンスメロン、マクワウリなどは主にハウスまたは露地で栽培されることが多いようです。喉のイガイガが生じるか生じないかはメロンの栽培方法によるのではなく、上記のようにククミシンを含むか含まないかというメロンの品種の差によるものと思われます。温室栽培されるマスクメロンはプリンスメロンと同程度に多くのククミシンを含んでいますので、温室メロンの方が露地メロンに比べて喉のイガイガが生じにくいという評判の真偽は疑わしいです。ただし、ククミシンを含むメロンの中でも品種や時期によってククミシンの含量が違う可能性はあります。ククミシンは受粉後1〜2週間程度の若い果実中で急速に合成され、その後はメロン果実中でもっとも含量の多いタンパク質として安定して果汁中に蓄積されます。特に栽培方法によって含量が変化するという報告はありません。
山形 裕士(龍谷大学農学部植物生命科学科)
JSPP広報委員長
出村 拓
回答日:2016-05-13
出村 拓
回答日:2016-05-13